↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
88/102

第86話:【氷姫変身】彼女に《アイスプリンセス》が生えた。原因、だいたい俺だった

 扉の向こうから、咆哮が響いた。


 操が前、俺がその隣。並び方はさっきまでと何も変わらない。……いや、付き合い始めてから、たぶんまだ一分も経っていない。変わったのはそこだけで、そこだけがとんでもなく大きい。


「玲司。今、余計なこと考えたでしょう」


「考えてない」


「そう」


 操が剣を構え直す。扉の表面を走る古い紋様が、脈打つように明るさを増していく。


『玲司! 五月雨! 聞こえてるか!?』


 通信機から、海斗の切羽詰まった声が飛び込んできた。


「聞こえてる」


「第七区画の構造が変わった! さっきの三人は救助班に引き渡したけど、別方向から救難信号が二つ増えてる! オレの近くだ!」


 端末を見る。海斗の位置のすぐそばに、救難反応が二つ。そして俺たちの正面、扉の向こうにも、反応がいくつも浮かび上がっていた。


「玲司」


「ああ」


 向こうにも、こっちにも救助対象がいる。三人で固まって動く余裕はない。


「そっちは!?」


「救難反応が三つ。扉の先だ」


「マジかよ! オレもそっち行くか!?」


「いや。海斗はそっちを頼む。救助対象から離れるな」


 一瞬、通信の向こうが静かになった。


「……分かった。何かあったら呼べよ!」


「そっちもな」


 通信を切るのと同時に、目の前の扉が重い音を立てて開いた。冷たい風が顔を撫でていく。


 扉の先は、今までのダンジョンとは明らかに違っていた。天井の高い石造りの大広間に、古い柱が整然と並んでいる。その奥に、人影が三つ。


「いた!」


「来るな!」


 救助対象の叫びの意味は、すぐに分かった。柱の陰で、巨大な影がのそりと立ち上がる。一体。その奥にもう一体。


「二体か」


「違うわ」


 操の視線が上へ向いた。天井に、三体目が張りついている。


「……三体ね」


 でかい。ここまで相手にしてきた魔獣とは格が違う。それが三人の救助対象を囲むように、三方向に陣取っていた。


「操。三人のところまで行けるか」


「行けるわ」


「右の一体は」


「止められる」


「上は」


「落とせる」


 即答だった。なら、迷う理由はない。


「頼む」


「ええ」


 操が前へ出る。俺は左へ走った。


「え?」


 背中越しに、操の声がした。


「何だ」


「何でもない。後で言うわ」


 ちらりと振り返った操が、ほんの少しだけ笑っていた。


「今は仕事」


「ああ」


 左の一体がこちらを向く。変身はまだ解けていない。黒銀の拳を、その横腹へ正面から叩き込んだ。硬い。それでも、動かせる。


「こっちだ!」


 巨体を救助対象から引き剥がすように押し込み、その合間に右を確認する。操がもう一体へ踏み込み、剣と一緒に走った氷が脚を捉えていた。巨体が暴れて氷に亀裂が入っても、操は一歩も下がらない。


 そして上から、三体目が落ちてくる。


「操!」


「見えてる!」


 操が剣を振り上げた。柱を這い上がった氷が天井近くまで一気に伸び、落下してくる魔獣の身体へ絡みつく。軌道をずらされた巨体が、轟音とともに床へ叩きつけられた。


 そのまま、操は起き上がろうとする二体の間へ滑り込んだ。


「おい!」


 身体が動きかける。片方は拘束が割れかけていて、もう片方も起き上がりかけている。操一人では――。


「玲司!」


 操が、こっちを見た。


「任せて!」


 止まった。


 少し前までの俺なら、たぶん飛び込んでいた。でも、操は強い。判断もできる。俺がそっちへ行けば、こっちの一体が救助対象のところへ戻る。三人を庇いながら三体を相手にするほうが、よほど危険だ。


「分かった! そっちは任せる!」


「ええ!」


 正面へ向き直る。振り下ろされた拳をかわして懐へ潜り込み、一撃、二撃。巨体を押し返す。背後で氷の砕ける音がしたが、振り返らない。任せたなら、見る必要はない。俺は俺の仕事をする。


「こっちです! 動けますか!」


「一人、脚を!」


「分かりました、少し待っててください!」


 先にこいつを引き離す。踏み込もうとした、その瞬間。


 ピコン。


「……今!?」


【条件成立を確認】


「何の!?」


 嫌な予感しかしない。


【特殊称号との適合を確認】

【対象:五月雨操】


 操? 思わず振り向きかけて――。


「玲司! 前!」


 魔獣の腕が目の前を掠めた。ぎりぎりで身を捻る。


「悪い!」


「今はこっち見ない!」


「通知が!」


「後にして!」


「操のだぞ!」


「もっと後にして!」


 正論だった。拳を叩き込み、魔獣を壁際まで押し込む。


 ピコン。


【《ヒーロー見参》との関係性を照合】

【対象認識を確認】

【守護対象】

【戦闘同行者】

【相互信頼対象】

【前衛適性】


 何だこれ。


「玲司!」


「見てない!」


「ならいい!」


 操のほうにも何か表示されているらしい。それでも操の動きは止まらない。二体の間を抜け、片方を氷で縫い止め、もう片方の攻撃をかわして剣を振り抜く。問題ない。俺が行く必要はない。


【最終条件を確認】

【ヒーロー側認識】

【保護のみを目的としない】

【並列戦闘対象】

【前衛委任対象】


 ……言い方。


 でも、間違ってはいない。守りたい。失いたくない。それでも、後ろへ下げるつもりはない。操が前へ出るなら任せる。背中を預けて、一緒に戦う。それが今の俺の答えだ。


【条件成立】

【特殊職業を付与します】


 操の周囲で、氷青の光が弾けた。


「え?」


「操!」


「大丈夫!」


 光の中から声が返ってくる。直後、表示が切り替わった。


【特殊職業】

【《アイスプリンセス》】


 魔獣まで、一瞬動きを止めた気がした。


「玲司! そっちで何か――」


 繋がったままだったらしい通信から、海斗の声がして、途中で途切れる。


「……アイスプリンセス?」


 三人とも黙った。最初に口を開いたのは、操だった。


「氷姫を英語にしただけじゃない」


「直訳だな」


「言わないで」


「俺は何も言ってない」


「玲司も思ったでしょう」


「思ってない」


「こっち見て言って」


「今戦闘中だろ!」


「逃げたわね」


「お前ら余裕あるな!?」


「ない!」


 魔獣が吠えた。そうだった、戦闘中だ。


「操、動けるか!」


「問題ないわ!」


「なら続き――」


【称号装備を生成します】


「……待って」


 操の声が一段低くなった。


 俺には分かる。この流れを、嫌というほど知っている。


「諦めろ」


「まだ何も起きてないでしょう!」


「俺には分かる!」


「何が!?」


「経験者だからだよ!」


『五月雨』


 通信機越しの海斗の声が、妙に優しかった。


『諦めたほうがいい。経験者だからな』


「白鳥まで何なのよ! 二人とも役に立たない!」


 氷青の光が、操の全身を包み込んだ。


「ちょっと、本当に待っ――」


 剣を握ったまま、操の身体がふわりと浮く。足元から駆け上がった氷の粒子が白銀のブーツを形作り、そこから白と氷青の密着型戦闘スーツが、一気に腰へ這い上がっていった。


 操の顔が、死んだ。


「操。気持ちは分かる」


「黙って」


「はい」


 銀のラインが走り、胸部に氷晶型のコアが灯る。両手を白銀の手甲が覆い、そして、胸元に小さなフリルが咲いた。腰にも、短いペプラム状のフリルがふわりと広がる。


「…………玲司」


「待て」


「胸元と腰の、これ」


「俺は知らない」


「あなたの深層意識?」


「何でそうなる!?」


【装備最適化】

【ヒーロー側保護意識を参照】


 また、三人で黙った。操がゆっくりとこちらを見る。


「玲司」


「待て」


「私、何も言ってないわ」


「顔が言ってる! 全部俺のせいだって!」


「違うの?」


「勝手に俺の深層意識を衣装に反映するなああああ!」


「玲司! 戦闘中!」


「分かってるよ!」


 最後に、銀白の小さなティアラが操の頭上に形作られる。光が弾けて、操が床に降り立った。


 白と氷青。銀のライン。密着型の戦闘スーツなのに、胸元と腰にだけ妙に上品な装飾がついていて、露出はほとんどない。剣はそのままで、操自身も何も変わっていない。


 ただ、魔力だけが明らかに違った。


「操。すごいぞ」


「衣装?」


「魔力」


「……そう」


 操が白銀の手甲に包まれた手を見下ろし、指をゆっくりと握り込む。途端に、周囲の空気がひやりと冷えた。


「使えそうか」


「ええ」


 操の目が変わった。もう衣装のことは頭にない顔で、前方の二体を見据えて剣を構える。


「むしろ、今までよりずっと動きやすい」


 一歩。操の姿が消えた。


「速っ」


 次の瞬間には、もう一体目の懐にいた。剣が走る。今までのように氷が床を這うのではなく、斬撃そのものから氷晶が花のように咲き広がり、巨体の右脚が根元から凍りつく。


 もう一体が、操の頭上へ腕を振り下ろした。


「操!」


「大丈夫!」


 操は避けなかった。剣を横へ払い、そこに現れたのは氷の壁――いや、壁というには薄い。必要な場所にだけ、必要な分だけ、一瞬で作っている。逸らされた腕の内側へ、操が滑り込んだ。


「はっ!」


 一閃。傾いだ魔獣の関節を、氷が次々と封じていく。


「……強いな」


「何が!? こっち映像ないんだけど!」


「操」


「それは分かってる!」


「めちゃくちゃ強くなってる」


「見たい!」


「仕事しろ!」


「してるよ! こっちは救助終わった!」


「なら来い!」


「今向かってる!」


 操は一人で二体を相手取っていて、それでも危なっかしさがない。剣で前へ出て、氷で止めて、相手の攻撃を読んで最小限でかわす。元々の戦い方は何ひとつ変わっていない。そこに速さと範囲と精度が、まとめて上乗せされている。


「玲司! 救助者!」


 言われて気づいた。見すぎた。


「悪い!」


「そっちは任せたわよ!」


「ああ!」


 走る。今度こそ振り返らない。


「救助に来ました! 歩けない方は!」


「俺です!」


「肩貸します。お二人は俺から離れないでください!」


 脚を痛めた男性を支え、残る二人を背中側へ集める。背後で爆音と氷の砕ける音が続いても、振り返らない。操がいる。それで十分だ。


「行きます!」


 三人を連れて入口へ向かいかけた、その時だった。


【連携対象を確認】


「また!?」


【《ヒーロー見参》】

【《アイスプリンセス》】

【専用連携を起動します】


「待て」


 嫌な予感がする。ものすごくする。


「操! 何か来る!」


「何が!?」


「分からん!」


【救助者保護を確認】

【前衛戦闘を継続】

【連携補正を開始】


 黒銀と氷青の光が、俺と操をつなぐように宙を走った。


 頼む。能力補正だけで終われ。


【ヒーローと姫の連携を確認】


「やめろ」


【専用演出を――】


「やめろおおおお!」


 光が弾けた。身体が勝手に動く。


「嘘でしょう!?」


 向こうでも同じことが起きているらしい。俺の右腕が勝手に持ち上がり、操が勝手に剣を構える。


〝黒銀の守護、氷姫の剣――!〟


「言いたくない!」


「私もよ!」


〝背を預けし二つの力――!〟


「誰が考えたんだこれ!」


「玲司の能力でしょう!」


「俺じゃない!」


〝共に救い、共に戦う!〟


「やめろ!」


「止まりなさい!」


〝ヒーロー&プリンセス――リンクアップ!〟


 静寂。


 俺の背後で、救助者三人がものすごく目を輝かせていた。


「か、格好いい……」


「言わないでください」


 即答していた。広間の向こうで、操が片手で顔を覆っている。


「玲司! 今の何!?」


「聞いてたのか!?」


「全部聞こえた!」


「忘れろ!」


「無理だろ!」


 通信越しに、海斗の笑い声が響いた。


「五月雨!」


「……何よ」


「ようこそ。こっち側へ」


 操がゆっくりと顔を上げた。


「白鳥。後で覚えてなさい」


「何でオレだけ!?」


「玲司もよ」


「俺も!? 俺も被害者だろ!」


「派生元」


「《ヒーロー見参》だけど!」


「ヒーロー側保護意識」


「勝手に参照されたんだよ!」


「諦めろ玲司」


「お前は黙れ!」


 言い合いながら、操が剣を振る。最後の一体の足元が凍りつき、続く一閃で巨体が崩れ落ちた。


 広間が、ようやく静かになる。


「終わった?」


「ああ」


 操が剣を下ろした。白と氷青の戦闘スーツに、小さなティアラ。見た目は、さっきまでの操とはまるで違う。


 でも、中身は何も変わっていない。前へ出て、敵を止めて、俺たちの道を作る。いつもの操だ。


「……玲司。また見てる」


「悪い」


「別にいいけど」


「いいのか」


「今はね」


 操が少し笑ったところで、通信が入った。


「二人とも! 合流できる! 第八区画入口まで戻ってくれ! あと、まだ終わってない!」


 端末を見る。さらに奥、最後の区画に、新しい救難反応が複数。


「まだいるな」


「ええ」


 操が剣を握り直す。


「オレもすぐ行く!」


「ああ」


 通信を切って、操の隣に並ぶ。黒銀と氷青。その少し先から、赤がこちらへ向かってきている。


 まだ、仕事は終わっていない。


「行くか」


「ええ」


 俺たちは、海斗との合流地点へ走り出した。

お読みいただきありがとうございます!

毎日7:10と19:40の2話更新です。

続きもお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。