↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
87/102

第85話:【復縁】俺は今でも操が好きらしい――なお本人に言うまでが長すぎた

【特殊称号】

【ヒーロー見ぃつけた♡】


「…………」


「…………」


 しばらく、どちらも何も言えなかった。画面を見る。もう一度見る。何度見ても一文字も変わらない。


 しかも、ハート付きだ。


「玲司」


「俺を見るな」


「まだ何も言ってないわよ」


「絶対俺のせいだろ、それ」


「私もそう思う」


「やっぱり!?」


 操の視線が、画面と俺の顔を往復している。完全に疑われている。


「言っとくけど、俺が名前つけたわけじゃないからな」


「分かってるわよ」


「ならその目をやめてくれ」


「どの目?」


「俺が夜中に考えたみたいな目」


「そこまでは思ってないわ」


「『そこまでは』!?」


 操が小さく吹き出した。ひどい。ただ、扉の光を見ていた時よりは、ずっと表情が柔らかい。


「……これ、消せないのか」


「称号だから無理じゃない?」


「嫌なのか」


「名前はちょっと」


「分かる」


「玲司の気持ちが、少し分かったわ」


「だろ?」


 思わず深く頷いていた。ようやく、被害者の気持ちを分かってくれる人間が一人増えた。


「でも、少しだけね」


「俺は強制的に名乗らされるんだけど」


「それは大変ね」


「急に他人事になるなよ」


 操がまた笑う。その横顔につい目をやったところで――ピコン。空気をまるで読まない電子音が鳴った。


「まだあるの?」


「らしいな」


【特殊称号詳細を開示します】

【派生元:《ヒーロー見参》】


 そこまでは、さっき分かった。問題は次の行だった。


【適性区分:姫/プリンセス】


 操が固まった。


「操」


「待って。今、整理してるから」


「……ああ」


 操の親指が、端末の縁をゆっくりとなぞる。もう一度表示を読み直して、それからようやく顔を上げた。


「私、姫側だったの?」


「……そう書いてあるな」


「何で?」


「俺に聞くなよ」


「《ヒーロー見参》から派生してるのよ?」


「俺だって初耳なんだよ!」


「じゃあ誰に聞けばいいのよ!」


「システム!」


「答えてくれるなら苦労してないわ!」


「だよな!」


 操が額を押さえ、俺はもう一度画面を覗き込む。


「……氷姫って呼ばれてるからじゃないか」


「そんな雑な理由ある?」


「称号名を見てから言ってくれ」


 二人で黙って、もう一度その一行を見た。


【ヒーロー見ぃつけた♡】


「……ありそうね」


「だろ?」


「嫌な説得力があるわ」


 操は小さく息を吐いて、また画面へ視線を落とした。今度は、称号名ではなく【姫/プリンセス】の文字のほうを見ている。


「でも……そっか。私、ヒーロー側じゃなかったのね。最初から」


 声が、少しだけ柔らかかった。


「別だっただけなのね」


 その一言で、ようやく俺の中でも線がつながった。救助したあの男の子。黒いヒーローと赤いヒーロー。俺と海斗が並んでいて、その横に操がいた。操の様子がおかしくなったのは、あの時からだ。


「操。あの子に言われたこと、気にしてたのか」


 端末をなぞっていた指が止まった。


「俺と海斗だけ、ヒーローって呼ばれたこと」


「……少しね」


「やっぱりヒーローになりたかったのか」


「違うわよ」


「じゃあ、何だったんだ」


 操はすぐには答えなかった。画面を消して、端末を両手で包むように持ち直す。


「笑わない?」


「笑わない」


「本当に?」


「笑わないって」


 しばらく目が合って、先に逸らしたのは操のほうだった。


「……白鳥が、羨ましかったの」


「海斗が?」


 予想していなかった名前だった。


「玲司の《ヒーロー見参》が、白鳥を仲間として認めたでしょう」


「《シャインレッド》のことか。でも、操だって仲間だろ」


「分かってるわ」


 即答だった。端末を握る指に、少しだけ力がこもる。


「玲司が私を信頼してることも分かってる。前を任せてくれることも、背中を預けてくれることも。遥香さんの護衛まで任せてくれてる。……だから、馬鹿みたいな話なのよ」


「馬鹿じゃないだろ」


「まだ何も言ってないわよ」


「でも、操が気にしてたんだろ」


「……そうね」


 操の視線が、誰もいない通路のほうへ流れた。さっき海斗が救助者を連れて戻っていった方向だ。


「黒と赤が並んでるのを見て、思ったの。私は、玲司にとって何なんだろうって」


 返事ができなかった。操がこちらへ向き直る。今度は逃げずに、真っすぐに。


「海斗は、玲司の力からも隣に立つ仲間として認められた。……私は?」


 端末を持つ手が、ゆっくりと下がる。


「仲間なのか。昔の恋人なのか。相棒なのか。それとも――」


 そこで一度、言葉を切って、息を吸った。


「今の玲司にとって、私は何なんだろうって」


 すぐには答えられなかった。


 答えがないわけじゃない。今まで、ちゃんと考えてこなかっただけだ。操は操。それで済ませてきた。前を任せる。背中を預ける。姉貴を任せる。何かあれば頼る。危険な場所へだって行かせられる。操なら大丈夫だと思えるから。


「……何言ってんだ」


「え?」


「俺が一番前を任せてるの、操だろ」


 操が瞬きをした。


「高校の頃から、とかじゃなくてな。今だよ。今の俺が一番前を任せられるのは、操だ。背中も預けられる。姉貴だって任せてる。俺にとって一番大事な家族を、だぞ」


「それは……」


 操の目が、わずかに揺れた。


 口にしてみると、自分がどれだけ操を信頼しているのか、嫌でも分かる。でも、それだけじゃない。海斗のことだって信頼している。背中も命も預けられる。なのに、操とは何かが違う。


 昨日から、操の顔ばかり見ている。いや、たぶん昨日からじゃない。気づいたのが昨日だっただけだ。横顔。笑った時の目元。怒った顔。赤くなった耳。距離が半歩近いだけで気になって、危ないと思った瞬間、信頼しているはずなのに身体が先に動く。


「操」


「何?」


「俺、お前に怪我してほしくない」


「……ええ」


「失いたくない」


 操が息を止めた。その顔を見たら、もう誤魔化す気にはなれなかった。


「でも、後ろにいてほしいわけじゃない。操のほうが向いてるなら、前を任せる。それは今までと変わらない。ただ、本当に危なかったら止める」


「そこも変わらないのね」


「変える必要あるか」


 操は少し考えて、首を横に振った。


「ないわ。私だって、玲司が本当に危なかったら止めるもの」


「じゃあ同じだ」


 守りたい。失いたくない。でも、守られるだけでいてほしいわけじゃない。だったら、俺が操にいてほしい場所は一つしかなかった。


「隣にいてほしい」


 言ってから、その意味が遅れて自分の中へ落ちてきた。


「あ」


「……今?」


「今」


「今、気づいたの?」


「たぶん」


「遅い」


「悪い」


「謝るところじゃないでしょう」


 操がふいと顔を逸らす。耳が赤い。今度は聞かない。たぶん、暑いわけじゃない。俺の顔も、似たようなことになっている気がする。


 ダンジョンの奥、正体不明の扉の前で、何をやっているんだと思う。それでも、今言わなかったら、また誤魔化す気がした。


「操。この前の、俺たちいつ別れたんだって話」


「ええ」


「俺は自然に終わったと思ってた。操は別れたつもりがなかった。でも、それだけで今も恋人ってことにはならない」


「そうね」


 高校の頃の続きだから、じゃない。もう一度会って、一緒に戦って、今の操を見て。その上で、俺がどうしたいのか。


 もう、分かっている。


「今の気持ちで言う」


 操は黙った。急かしもせず、ただ待っている。その目から逸らしたくないと思った。


「俺は、今でも操が好きだ」


 思っていたより、普通に声が出た。強制口上でもない。能力に言わされたわけでもない。自分の意思で、操に言った。


 操は何も言わない。一秒、二秒。急に不安になってくる。


「……操?」


「待って。今、ちょっと……」


 操は一度うつむいて、口元を手で押さえた。それから、もう一度顔を上げる。


「嬉しいから」


 今度は、俺が黙る番だった。


 操が笑っていた。いつもの、少し呆れたような笑い方じゃない。肩からすっと力が抜けたような顔だった。


「私はずっと好きよ」


「……ずっと?」


「ずっと」


「高校からか」


「そうよ」


「マジで?」


「そこで驚くの?」


 操の眉が寄る。けれど、口元はまだ笑っていた。


「だって、何年――」


「数えなくていい」


「はい」


「本当にもう……」


 操が笑って、俺もつられて笑った。胸の奥にずっと引っかかっていたものが、ようやく収まるべき場所へ収まった気がする。


 ただ、一つだけ、ちゃんとしておきたかった。


「操。好きってことは分かった。でも、それだけで今から恋人ってことにもならないだろ」


 操が目を丸くした。


「……そこはちゃんと確認するのね」


「操が自分で言ったんだろ。昔別れてなかったとしても、それだけで今も恋人じゃないって」


「そうね」


「だから」


 好きだと言った時より、なぜかこっちのほうが緊張した。


「今の俺と、付き合ってくれないか」


 操はすぐには答えなかった。端末を持ったまま、一歩だけ近づいてくる。さっき近すぎると言われた距離より、まだ近い。


「玲司。私たち今、任務中なのよ」


「知ってる」


「ダンジョンの奥」


「ああ」


「未知の扉の前」


「……ああ」


「告白する場所としては最低ね」


「それは本当に悪い」


「ふふっ」


 笑ってから、操は俺を見上げた。


「でも、玲司らしいわ」


「褒めてるのか」


「半分くらい」


「半分かよ。……で、返事は」


「急かさないで」


「悪い」


 操が小さく息を吐く。目は逸らさない。俺も逸らさなかった。


「よろしくお願いします」


「……はい」


 一瞬、二人して止まった。


「何で敬語なの?」


「操もだろ」


「つられたのよ」


「俺も」


 また笑われた。でも、悪くない。


 高校時代に戻ったわけじゃない。何年も離れて、もう一度会って、一緒に戦って、今の操を知った。その上で、今の俺たちがもう一度選んだ。それだけの話だ。


 ピコン。


 空気を読まない電子音が、また響いた。


「……玲司」


「俺じゃない」


「私でもないわ」


 操が端末を持ち上げ、俺も自分の端末を取り出す。二つの画面に、同じ表示が浮かんでいた。


【対象関係性の確定を確認】


 操がゆっくりと顔を上げた。


「見てたの?」


「システムに聞いてくれ」


「最悪なんだけど」


「奇遇だな。俺もそう思う」


 ピコン。表示が増える。


【特殊称号との適合を確認】

【特殊職業付与条件を満たしました】


「特殊職業?」


 操の顔から照れが消え、一瞬で探索者の顔へ戻った。


「操か」


「たぶん」


「何でだ」


「私に聞かないで」


「俺じゃないよな?」


「さっきの流れで玲司だったら怖いわよ」


「確かに」


 操が詳細を開こうと画面に指を伸ばした、その瞬間。足元が大きく揺れた。


 操が剣を抜き、俺も扉のほうへ向き直る。さっきまで何もなかったはずの扉の向こうに、巨大な魔力反応が膨れ上がっていく。一つ、二つ――まだ増える。


 耳元の通信機から、海斗の声が飛び込んできた。


「玲司! 五月雨! そっちで何した!? こっちの地図まで変わったぞ!」


「俺たちは何もしてない!」


「本当に!?」


「何で疑うんだよ!」


「お前ら二人を残した直後だからだよ!」


「それは関係ない!」


 隣で操が、こほんと小さく咳払いをした。


「玲司。今は仕事」


「ああ」


 操が前へ出る。さっきまでと同じ、俺より一歩前。剣を構えた背中が、ほんの少しだけこちらを振り返った。


「任せていい?」


 答えはもう決まっている。守りたい。失いたくない。でも、後ろへ下げたいわけじゃない。


「ああ。前、頼む」


「任せて」


 操が笑った。


 好きな女性で、守りたい相手で、背中を預けられる相棒で、隣で戦ってほしい人。どれか一つじゃない。全部、操だ。


「行くわよ、玲司」


「ああ」


 操の隣へ並ぶ。扉の向こうから、咆哮が響いた。


 二人で、前へ踏み出す。

お読みいただきありがとうございます!

毎日7:10と19:40の2話更新です。

続きもお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。