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姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


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第78話:【姫君引渡】姉を返してもらったら、次回予約まで案内された

「何を言えば帰れるんだよ!」


 王室避難宮の回廊に、俺の声が反響した。


【帰還希望――確認済み】

【保護解除意思――未確認】


「同じだろ!」


【異なります】


「だから何が違うんだ!」


 返事はない。同じ表示だけが、涼しい顔で残っている。


 帰りたい。確認済み。


 保護を終わらせたい。未確認。


 意味がわからない。


「玲司」


 操が画面を見たまま言った。


「やっぱり、言葉の扱いが違うんじゃない? 帰りたい、は希望。保護を終わらせる、は施設そのものへの指示」


「遥香さんが『帰りたいなー』って言ってるだけだと」


 海斗が腕を組む。


「施設側は『お気持ちはわかります。でも安全のため保護します』で処理してるってことか?」


「最悪の役所だな」


「王室用の保護施設よ」


「もっと悪い」


『あ』


 通信越しに、姉貴が声を上げた。


「どうした」


『もしかして、私が姫扱いされてるなら……お願いじゃなくて、命令すればいいんじゃない?』


 俺。操。海斗。三人同時に黙った。


「それだ」


「たぶんそれね」


「遥香さんが自分で気づいた!」


『やってみるね』


 端末の映像の中で、白い回廊の中央に姉貴が立つ。ついさっきまでプリンを食べていた人間とは思えないくらい、背筋が伸びていた。


『えーっと』


「姉貴」


『何?』


「そこは堂々と言え」


『急に難しいこと言わないで!』


「普段VTuberやってるだろ!」


『姫の演技は専門外だよ!』


「本人扱いされてるんだから演技じゃない!」


『それが一番困るの!』


 確かにそうだ。


 姉貴が一度咳払いをして、顎を上げた。


『姫君として命じます』


 施設の照明が、淡く揺れる。


『保護を終了してください』


 静寂。


『私は、この三人と一緒に帰ります』


 画面が光った。


【姫君の帰還意思――確認】


「来た!」


【保護終了命令――確認】


「それだよ!」


【外部安全――確認】


「ああ!」


【近接護衛――適格】


「当然ね」


 操が腕を組む。


【後方守護――適格】


「任せろ!」


 海斗が胸を張る。


【救助者――適格】


「だから弟だ!」


【安全な帰還経路――確認】


 条件が、一つずつ埋まっていく。


 俺は拳を握った。今度こそ。今度こそ終わる。


【……】


「……」


「……」


「……」


 数秒。何も起きない。


「黙るな」


【最終確認中】


「喋れるなら最初から喋れ!」


【姫君引渡条件を満たしました】


「最初からそれでいいんだよ!」


 回廊の奥で、重い音が響いた。一枚。また一枚。閉ざされていた扉が順に開き、その向こうから伸びた金色の光が、俺たちのところまで一本の道を作る。


『玲司!』


「姉貴!」


 遠くに姉貴が見えた。ショルダーバッグを肩に掛けている。元気。怪我なし。そして、なぜか片手に小さな箱。


「何持ってる」


「お土産!」


「返してこい!」


「施設がくれたの!」


「受け取るな!」


「食べ物に罪はないよ!」


「またそれか!」


 中身は聞くまでもない。プリンだ。絶対にプリンだ。


 姉貴がこちらへ走り出す。


「走るな!」


「もういいでしょ!」


「絨毯で躓く!」


「過保護がうつってる!」


 否定はできなかった。散々この施設へ文句を言っておいて、姉貴が転びかけると止めたくなる。だからといって、十歩ごとに椅子を出すつもりはないが。


 目の前で足を止めた姉貴が、俺を見上げた。


「玲司!」


「ああ」


「帰れる!」


「帰るぞ」


「うん!」


 姉貴が笑う。それで十分だった。


【姫君の引渡を確認】

【保護任務を終了します】


 同時に、黒銀のスーツから光が抜けていく。


「お」


 海斗の赤い装備も、ほどけるように消えた。


「やっと終わったー!」


「二回目だけどな」


「一日に二回ヒーローやらされるとは思わなかった!」


「俺もだ」


 操だけが、最初から最後まで普通の探索装備だった。


「……」


「何?」


「やっぱりずるい」


「まだ言うの?」


「一人だけ着替えてない」


「私は何も悪くないわ」


「五月雨だけ帰りも普通なのずるい!」


「あなたたち二人が異常なのよ」


「正論で殴るな」


「事実よ」


「三人とも仲良くなったね」


 姉貴が笑った。


「元からだ」


「そうね」


「オレだけ扱い雑じゃない?」


「元からだ」


「そこまで昔通りに戻さなくていい!」


 白い扉を抜けると、外には協会の職員たちが待っていた。


「黒瀬さん! 黒瀬遥香さんの帰還を確認しました」


「ありがとうございます」


「念のため、体調確認をお願いします」


「はい!」


 医療担当へ連れていかれる背中に、俺は声を投げた。


「プリン持ったまま行くな!」


「預けるだけ!」


「先に預けろ!」


「大事なの!」


 最後まで元気だった。


       *


 その日の夜。事後確認も兼ねて、操と海斗も黒瀬家へ来ていた。姉貴は検査で異常なし。セバスとルナも当然のようにいる。


 協会から、今回の事案に関する一次評価が届いていた。


【第七ダンジョン・中層部異常発生事案】

【救助対象:全員帰還】

【重大な二次被害:なし】

【正式パーティ三名による役割分担:極めて有効】


 そこまで読んで、端末を机へ置く。


「極めて有効だって」


 姉貴が横から覗き込んできた。


「見えてる」


「褒められてるよ!」


「ありがたいな」


「もっと喜んだら?」


「喜んでる」


「顔!」


「これが通常だ」


「玲司の通常、わかりづらい!」


 評価はまだ続いていた。


【五月雨操:前方制圧・避難経路形成】

【黒瀬レイ:遊撃・救助・全体判断】

【白鳥海斗:後方防衛・避難拠点維持】


 その下に、一行。


【黒瀬レイが各担当を逐一確認しに戻ることなく、適切に役割を委ねた点を評価】


「……そこまで書くのか」


「そこ、大事なんじゃない?」


「ああ」


 少し前の俺なら、気になって戻っていたかもしれない。今回は、前を操に、後ろを海斗に任せた。だから自分が拾うべき人間だけを見て走れた。


 結果、全員帰ってきた。


 少し離れたソファでは、操と海斗も同じ評価を読んでいる。


「操」


「何?」


「今日、助かった」


「今さら?」


「言ってなかった」


 中央連絡通路。あそこを操が開かなければ、救助はもっと遅れていた。


「お前じゃなきゃ、あそこは開かなかった」


 操が少しだけ黙る。


「……そう」


「ああ」


「なら」


 端末を閉じて、こちらを見た。


「次も任せなさい」


「ああ」


 それだけだった。


 海斗が、じっとこっちを見ている。


「……」


「何だ」


「何でもない」


「言え」


「言わない」


「気持ち悪いな」


「お前ほんとそういうとこだぞ!」


「何がだよ!」


「玲司」


 操が呼ぶ。


「何だ」


「放っておきなさい」


「また?」


「またよ」


 意味がわからない。


「海斗くん」


 今度は姉貴が声をかけた。


「ん?」


「今日、本当に格好よかったよ」


 海斗の動きが止まる。


「後ろでみんな守ってるところ」


「……ありがとう、ございます」


「何で敬語なんだ?」


「玲司!」


「何だよ」


「今は黙れ!」


「何でお前まで操と同じことを言うんだ」


 操が小さくため息をついた。


「放っておきなさい」


「何がだ」


「本当に学習しないわね」


「今日の俺、協会から判断力を褒められてるぞ」


「そこじゃないのよ」


「どこだよ」


 姉貴だけが不思議そうに首を傾げている。


「海斗くん、疲れてる?」


「違います!」


「また敬語」


「玲司ィ!」


 今日、こいつが一番元気だった。


       *


 配信の切り抜きは、すでに大量に出回っていた。


>氷姫が道作って

>黒銀が全員拾ってきて

>赤が後ろ全部守って

>姫を返してもらう時だけ黒銀が一番キレてた


「最後はいらないだろ」


「事実じゃん」


 姉貴がプリンを食べながら言う。


「何でそれ食ってる」


「お土産」


「持って帰ってきたのかよ!」


「施設がくれたんだからいいでしょ!」


「また捕まったらどうする」


「プリンのせいで捕まらないよ!」


「姉貴ならわからない!」


「どういう意味!?」


「姫様、次回は抹茶味をご希望でしょうか」


 いつの間にか背後に立っていたセバスが尋ねてくる。


「次回を作るな!」


『季節限定も捨てがたいにゃ』


 膝の上のルナまで参加してきた。


「お前も次を前提にするな!」


『黒いのは細かいにゃ』


「また姉貴が消えたら、迎えに行くのは俺なんだぞ!」


「玲司」


「何だ」


「今日、迎えに来てくれてありがとう」


 急に真面目に言うな。


「……仕事だ」


「弟でしょ?」


「どっちでもいい」


「ふふ」


 誤魔化すように端末へ視線を戻す。


 その瞬間、電子音が鳴った。


【王室保護区画から通知があります】


 嫌な予感しかしない。


「まだ何かあるのかよ」


 開く。


【姫君の次回療養予約を承ります】


「いらん!」


【予約候補日を表示します】


「出すな――」


 言いかけて、俺は止まった。


「玲司?」


 姉貴が首を傾げる。


 もう一度、表示を読む。


【姫君の次回療養予約を承ります】


「……予約?」


「そう書いてあるわね」


 操も画面を覗き込んだ。海斗が横から顔を出す。


「これ、予約して入れるってことか?」


「……たぶんな」


「今日みたいに勝手に保護されるんじゃなくて?」


「そこは分からん」


 だが、もし本人の意思で入れるなら。本人の意思で出られるなら。今日確認した解除命令が、次も通るなら。


 俺は姉貴を見た。膝にルナ。後ろにセバス。向かいには操と海斗。


 三人で仕事へ出る時、一番厄介だった問題。姉貴の護衛。


「……玲司?」


 俺は端末へ視線を戻した。


【予約候補日を表示しますか?】


 昨日までの俺なら、迷わず消していた。


「……表示してみろ」


【承知しました】


「玲司!?」


 姉貴の悲鳴じみた声が、リビングに響き渡った。

お読みいただきありがとうございます!


毎日7:10と19:40の2話更新です。


続きもお楽しみに!

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