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姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


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第77話:【姫君返却】弟です→適格、護衛です→適格、帰りたいです→未確認

「俺の姉だよ!」


 王室避難宮の入口で叫んだ。


 正確には、協会が便宜上「王室避難宮」と仮称している王室保護区画だ。


 だが、今は名称などどうでもいい。


 姉貴を返してほしい。


 それだけだ。


【同行者適格審査を開始します】


「聞いてないな」


「聞く機能ないんじゃね?」


 隣で海斗が言う。


「質問してくるくせに?」


「一方通行って一番面倒なやつだな」


「役所みたいね」


「操まで言うな」


 白い扉の向こうにある広い回廊へ、俺たち三人は通された。


 俺。


 操。


 海斗。


 全員、横並び。


 俺と海斗は変身したまま。


 操だけ普通の探索装備。


 もう見慣れてきた自分が嫌だった。


『玲司ー!』


 端末から姉貴の声が聞こえる。


「姉貴、そこにいるのか?」


『もっと奥! 今プリン二個目出てきた!』


「食うな!」


『一個目とは味違うよ!』


「比較するな!」


「遥香さん、楽しんでない?」


「帰りたいって言ってる!」


 海斗へ返す。


『帰りたいよ! でも食べ物に罪はないから!』


「聞こえてるぞ!」


【審査を開始します】


「今!?」


 正面の壁が淡く光った。


【対象一】


【救助者】


「俺か」


 一歩前へ出る。


【救助能力を確認】


【――適格】


「まあ」


【危険判断能力を確認】


【――適格】


「当然だな」


【緊急時指揮能力を確認】


【――適格】


「よし」


【姫君救助実績を確認】


「待て」


【――過剰】


「最後の言い方」


 操が吹き出した。


「笑うな」


「だって、適格じゃないのね」


「過剰って何だよ」


「姫様を助けすぎってことじゃね?」


「俺が好きで助けてると思うか?」


『玲司、ありがとう!』


「姉貴は悪くない!」


「切り替え早っ!」


【姫君との関係を確認】


「だから弟だって――」


【実弟――確認】


「最初に確認しろ!」


 回廊へ声が響いた。


 海斗が腹を抱える。


「そこ先に見れば審査ほぼ終わったんじゃねえの!?」


「俺が一番聞きたい!」


「でも、弟なら無条件で引き渡すとも限らないんじゃない?」


 操が冷静に言う。


「何でだよ」


「姫君の安全を優先する施設なんでしょう?」


「実弟より安全審査を優先するのか?」


【救助者――適格】


「通った」


「良かったじゃん」


「良くない。半分くらい最初の確認で済んだだろ」


 次。


【対象二】


【近接護衛者】


 操が前へ出る。


「私ね」


「頑張れ」


「何を?」


「面接」


「何も答えてないでしょう」


 その通りだった。


【近接護衛能力を確認】


【――適格】


「当然ね」


【危険排除能力を確認】


【――適格】


「当然ね」


「二回言った」


【姫君周辺における戦闘判断を確認】


【――適格】


「当然ね」


「三回目」


「何か問題ある?」


「ない」


 また負けた。


【救助者との連携を確認】


 俺と操が同時に画面を見る。


【――極めて良好】


「当然ね」


「ああ」


 ほぼ同時だった。


「……」


 海斗が俺たちを見る。


「何だ」


「いや」


「言え」


「そこ二人、会話短すぎない?」


「審査結果に異論ないからな」


「そうね」


「それだよ!」


「どれだよ」


『わかるよ、海斗くん』


「姉貴まで何がわかるんだ!」


『だって操ちゃん、玲司が何するか大体わかってるもん』


「昔から一緒に探索してたからよ」


『玲司も、操ちゃんが二分って言ったら本当に確認しないで行っちゃったでしょ?』


「二分って言ったからな」


「ええ」


「ほら!」


 海斗が俺たちを指差した。


「何がほらなんだ」


「何でそこで二人とも同じ顔してんだよ!」


「どんな顔だよ」


「普通だと思ってる顔!」


「普通だからな」


「普通よ」


「また揃った!」


『ふふっ』


「姉貴まで笑うな!」


『でも、操ちゃんって玲司のこと本当によくわかってるよね』


「……長い付き合いだから」


 操がほんの少しだけ視線を逸らした。


「操?」


「何?」


「今、姉貴から目逸らしただろ」


「気のせいよ」


『操ちゃん、ちょっと照れてない?』


「照れてません」


 今度は敬語になった。


「ほら!」


 海斗が叫ぶ。


「何がほらなんだよ!」


「玲司、お前本当に――」


【近接護衛者――適格】


「審査終わったぞ」


「施設に会話打ち切られた!」


「助かる」


「助かるなよ!」


 操が小さく息を吐いた。


 何だったんだ。


【対象三】


【後方守護者】


 海斗が前へ出る。


「名称かっこいいな」


「だろ!?」


「喜ぶところそこなのか」


「救助者より格好よくない?」


「知らん」


【防御結界能力を確認】


【――適格】


「よし!」


【後方守護能力を確認】


【――適格】


「当然!」


【避難経路維持能力を確認】


【――適格】


 海斗の表情が少し変わる。


 さっきまでより静かに、画面を見る。


「……そこまで見てんだな」


「ああ」


 今回。


 海斗は後ろを守り切った。


 二十近いサーモンワイバーン。


 避難者二十六人。


 負傷者三人。


 魔獣侵入、ゼロ。


 結果だけ見ても十分だ。


【姫君周辺の後方防衛適性を確認】


【追加確認を実施】


「何を?」


 画面が切り替わる。


【姫君本人へ確認】


『え? 私?』


【後方守護者に保護を任せることへ不安はありますか?】


「本人に聞くのか」


「一番確実じゃない?」


 操が言う。


『海斗くんに?』


 海斗の背筋が伸びた。


「……」


 操が海斗を見る。


 俺も見る。


「何だよ!」


「いや」


「何で二人して見るんだよ!」


『ううん』


 姉貴の声。


『海斗くんなら安心だよ』


「……っ、はい!」


「何で声裏返った?」


「裏返ってない!」


「顔も赤いぞ」


「赤くない!」


『海斗くん、緊張してるの?』


「えっ」


『審査だから』


「そ、そうです! 審査だからです!」


「お前、さっきまで全然緊張してなかっただろ」


「今したんだよ!」


「何で姉貴の質問から急に――」


「玲司」


 操が止める。


「何だ」


「もう少し見守りなさい」


「何を?」


「……本当にわからないの?」


「何が」


「ほら!」


 海斗が俺を指差した。


「今度は何だ!」


「お前、さっきオレに散々言われたくせに、人のことになると急に見る側に回るよな!」


「意味がわからん」


「こっちの台詞だよ!」


 操が海斗を見る。


「海斗も、人のことを言えないでしょう」


「五月雨!」


『え? 海斗くん何かあるの?』


「ありません!」


 即答。


『そっか』


 姉貴はあっさり納得した。


「納得するのかよ」


「玲司は黙ってろ!」


「何でだ」


『でも海斗くん、審査通りそうで良かったね』


「はい! ありがとうございます!」


「また声上がったぞ」


「上がってない!」


「海斗」


 操が静かに呼ぶ。


「何だよ」


「さっき、私と玲司に何て言ったかしら」


「……」


「人のことならよく見えるのね」


「五月雨だってそうだろ!」


「私は何も言ってないわ」


「顔に出てた!」


「出てない」


『何の話?』


 姉貴が完全に置いていかれている。


「俺も聞きたい」


「お前もかよ!」


 海斗が頭を抱えた。


「何で当事者二人が一番わかってねえんだよ!」


「当事者?」


『誰と誰?』


「……」


 海斗が黙った。


 操も黙った。


「何だよ」


『誰?』


「何で黙るんだ」


『ねえ、誰?』


「玲司」


「何だ」


「今はそれ以上聞かないで」


「何で」


「お願いだから」


「操がそこまで言うなら」


「そこで素直に引くのもそれなんだよ!」


「海斗、さっきから何にキレてるんだ?」


「全部だよ!」


【姫君からの信頼――確認】


【後方守護者――適格】


「審査通ったぞ」


「今それ!?」


「良かったな」


「お前に普通に祝われると余計腹立つ!」


『海斗くん、おめでとう!』


「ありがとうございます!」


「ほらまた」


「玲司ィ!」


【同行者三名――適格】


「やっと終わった」


 俺は息を吐く。


「今の会話も審査対象だったのか?」


【回答不要】


「なら聞くな!」


 海斗がまだ何か言いたそうにしている。


 操は顔を逸らしている。


 姉貴は通信の向こうで「結局何だったの?」と本気で困っていた。


 俺にもわからない。


 たぶん。


 他人のことばかり見ていないで、自分の審査に集中しろということだろう。


「何で二人してため息ついた?」


「何でもないわ」


「何でもねえよ」


「ならいいけど」


「良くない!」


【姫君引渡手続きを継続します】


「進んだぞ」


「もういい! 進め!」


 海斗が投げやりになった。


『玲司ー! 終わった!?』


「終わった!」


『帰れる!?』


「今からそっち行く!」


『やった!』


 扉の奥。


 回廊に金色の光が走った。


 今度こそ。


 ようやく。


 姉貴を連れて帰れる。


【姫君帰還条件を確認します】


「確認しろ」


【外部安全――確認済み】


「終わってる」


【救助者――適格】


「ああ」


【近接護衛者――適格】


「当然ね」


【後方守護者――適格】


「任せろ!」


【姫君健康状態――良好】


『プリン美味しい!』


「そこは黙ってろ!」


 条件が一つずつ埋まっていく。


 あと少し。


【姫君本人による保護解除意思】


「ある」


『あるよ!』


【――未確認】


「何で!?」


『私、ずっと帰りたいって言ってるよ!?』


「何を聞いてたんだ!」


【帰還希望――確認済み】


「確認してるじゃねえか!」


【保護解除意思――未確認】


「同じだろ!」


【異なります】


「何が違うんだよ!」


 施設は無言。


 姉貴も無言。


 海斗が横から画面を覗き込む。


「もしかして、言い方の問題?」


「帰りたい以上に何が必要なんだ」


 操が表示を見つめる。


「帰還希望と、保護を終了する意思を別に判定してるのかも」


「意味がわからん」


【姫君帰還手続き――保留】


「保留するな!」


『玲司ぃ!』


「姉貴!」


『私、帰りたい!』


「知ってる!」


【帰還希望――確認済み】


「だからそこじゃない!」


【保護解除意思――未確認】


「何を言えば帰れるんだよ!」

お読みいただきありがとうございます!


毎日7:10と19:40の2話更新です。


続きもお楽しみに!

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