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姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


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第76話:【王室避難宮】姫君は安全です。なので帰しません

「今からァ!?」


 俺の絶叫だけが、安全区画へ残った。


 姉貴は消えた。


 金色の光も消えた。


 残ったのは、探索者協会の端末へ表示された文字だけ。


【姫君を安全な王室保護区画へ移送しました】


「……」


 もう一度見る。


 変わらない。


「王室保護区画って何だよ」


「私に聞かないで」


 操が即答する。


「海斗」


「オレも知らねえよ!」


「知ってそうな顔してた」


「どんな顔だよ!」


 知らない。


 ただ、赤い。


 いや、もう変身は解除されているから赤くない。


「協会側で確認します!」


 近くにいた職員が端末を操作する。


「転送先の座標反応……出ました!」


「どこです」


「同ダンジョン内です。現在地から直線距離で約四百メートル」


「近いな」


「ただし、通常の探索マップには存在しない区画です」


「近いのに面倒なやつ!」


 古代施設。


 姫君。


 未知の区画。


 嫌な単語が揃い始めた。


「危険反応は?」


「ありません!」


「敵性反応」


「なし!」


「姉貴のバイタル」


「正常です!」


「周辺への魔力影響」


「現在のところ確認されません!」


 安全。


 本当に安全らしい。


 だから余計に意味がわからない。


「じゃあ何で連れていった!」


「私に言われましても!」


「ですよね!」


 協会職員へ怒っても仕方ない。


 その時。


 俺の端末が震えた。


【外部通信を受信】


「姉貴!」


 即座につなぐ。


『玲司ぃ!』


 元気だった。


「無事か!」


『無事! すっごく無事!』


「怪我は!」


『ない!』


「拘束は!」


『されてない!』


「魔獣は!」


『いない!』


「よし!」


『でも帰れない!』


「よくない!」


 通信の向こうで姉貴が叫ぶ。


『ここ、帰してくれない!』


「どういう状況だ!」


『わかんない! なんかすごく丁寧に扱われてる!』


「丁寧?」


『怖いくらい丁寧!』


 姉貴の端末から送られてくる映像を見る限り。


 そこは牢獄には見えなかった。


 白を基調にした広い回廊。


 柔らかい照明。


 床には厚い絨毯。


 装飾は豪華だが、派手すぎない。


 姉貴の周囲に人影はない。


 代わりに、施設そのものが世話を焼いていた。


「とりあえず出口探すね」


 姉貴が歩き出す。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


「ここ、広いなあ」


 七歩。


 八歩。


 九歩。


 十歩。


【姫君の長距離歩行を検知】


「え?」


【休息を推奨します】


 壁から音もなく椅子が出てきた。


「十歩だよ!?」


 ふかふかだった。


「いや、座らないよ!?」


【姫君の疲労を懸念】


「疲れてない!」


【休息を推奨します】


「十歩!」


 姉貴が椅子の横を抜ける。


 椅子も移動してついてくる。


「ついてこないで!」


『姉貴』


「何!?」


『座ったら?』


「玲司まで!?」


『安全なら一回座って施設の反応を見る』


「そういう意味なら……」


 姉貴が渋々腰を下ろす。


【姫君の休息を確認】


【良好】


「何が良好なの!?」


 元気そうだった。


 少なくとも命の危険はない。


 そのまま姉貴が数分かけて周囲を調べる。


「扉はあるんだけど」


『開かない?』


「開くよ」


『開くのかよ』


「でも次の部屋に行くだけ」


『出口は』


「ない」


 困った。


 安全だが帰れない。


「だったら、荷物持ってもう少し先まで――」


 姉貴が床へ置いていたショルダーバッグを持ち上げる。


【姫君による荷物運搬を検知】


「え」


【姫君による荷物運搬を禁止します】


 バッグがふわっと浮いた。


「ちょっと!」


 姉貴の手から離れる。


「これ私のバッグ!」


【運搬を代行します】


「仕事道具入ってるんだけど!」


 バッグが姉貴の横をついていく。


「返して!」


【姫君の負担軽減を優先します】


「軽いよ!?」


 俺は通信越しに額を押さえた。


「徹底してるな……」


「何が目的なのかしら」


 隣で操が映像を見る。


「姫君を危険から守る、という機能自体は一貫してるわね」


「ああ」


「過剰だけど」


「かなりな」


 海斗が画面を覗き込む。


「遥香さん、完全にVIPじゃん」


「本人が帰りたがってるVIPは軟禁と紙一重だろ」


「言い方!」


 でも間違ってはいない。


 姉貴はさらに進む。


 しばらくして。


「玲司」


『何だ』


「なんか食事が出てきた」


『食うな』


「まだ何も言ってないよ!」


『姉貴はその言い方の時、だいたい食う』


「失礼な!」


 映像が動く。


 姉貴の前に、小さなテーブル。


 その上に。


 プリン。


「……」


『姉貴』


「何?」


『食うなよ』


「なんで?」


『なんでじゃない』


「毒見だけ」


『一口で済ませろ』


「わかってるよ!」


 姉貴がスプーンを取る。


 一口。


「……」


『どうした』


「美味しい」


『帰ってこい!』


「帰りたいよ!」


 もう一口。


「でも、このプリンは美味しい」


「満喫するな!」


「帰りたいのと美味しいのは別問題だよ!」


 正論っぽく言うな。


 操が横で肩を震わせている。


 海斗は普通に笑っていた。


「遥香さん、余裕あるなあ」


「余裕があるのはいいことだ」


「じゃあ食べても」


「帰ってこい」


「そこは一貫してるな!」


 安全なのは確認できた。


 なら次は、どうやって帰すかだ。


「黒瀬さん!」


 協会職員から声が飛ぶ。


「施設入口と思われる接続点を発見しました!」


「外から入れますか!」


「接続自体は可能です。ただ、施設側が姫君保護を最優先にしているようです」


 職員が別の画面を開く。


「正式名称を示す情報も、現時点では確認できません」


「じゃあ何て呼ぶんです」


「便宜上ですが、協会ではこの区画を『王室避難宮』と仮称します」


「名前だけは立派だな」


 端末に新しい表示。


【王室保護区画】


【姫君:保護中】


【外部脅威:なし】


【姫君健康状態:良好】


【保護継続:必要】


「最後がおかしい!」


「外部脅威なしって自分で書いてあるだろ!」


「施設側では、安全が確認された後も一定の帰還手続きが必要なのかもしれません」


「手続き!?」


 助け出すのに役所が挟まった。


 最悪だ。


 その時。


『玲司』


 姉貴の声。


「何だ」


 さっきまでプリンを食べていた声ではない。


『助けて! ここ、帰してくれない!』


「……来るな」


【救助要請を確認】


「やっぱり来た!」


【姫君からの救助要請を受理】


【能力《ヒーロー見参》――発動】


「一回終わっただろ!」


 黒い魔力が足元から噴き上がる。


 さっき消えたばかりの黒銀スーツが、再び身体を覆った。


「マジで再変身すんの!?」


 海斗が叫ぶ。


 直後。


 赤い光。


「オレも!?」


【同行する救助者を確認】


「同行!?」


 赤い称号装備が海斗を包む。


「またかよ!」


 俺たち二人の身体が勝手に前を向く。


 その横。


 操が自分から半歩だけ前へ出た。


「……」


「操」


「何?」


「何で並んだ」


「どうせ来るでしょう?」


【正式パーティを確認】


「ほら」


「順応するな!」


【登場配置を調整します】


 今回は操の身体を動かす必要すらなかった。


 最初から正しい位置にいる。


「五月雨、慣れるの早すぎない!?」


「学習能力よ」


「学習しなくていい!」


 俺の右手が腰へ。


 口が勝手に開く。


〝――姫君の救いを求める声、確かに届いた〟


「さっきまでプリン食ってたけどな!」


『玲司! 聞こえてるよ!』


「知ってる!」


〝ならば今こそ、閉ざされし王宮の門を――〟


「王宮なのか!?」


【施設名称情報:未確定】


「システムも知らないのかよ!」


 横で海斗までポーズを取らされながら叫ぶ。


「じゃあ何で口上だけ王宮って言い切ったんだよ!」


「俺に聞くな!」


 操だけ普通の探索服で真ん中に立っている。


 もう突っ込む余裕もない。


〝――ヒーロー見参ッ!〟


 三色の魔力光が一瞬だけ揃う。


「行くぞ!」


「おう!」


「ええ」


        *


 王室避難宮。


 協会が発見した入口は、普通のダンジョン壁面に突然現れた白い扉だった。


 豪華でもない。


 王冠もない。


 ただ。


【姫君保護中】


 それだけが中央に表示されている。


「開けるぞ」


 触れる。


【外部同行者を確認】


「同行者じゃない」


【救助者を確認】


「俺の姉だ」


【姫君との面会を希望しますか?】


「帰しに来た!」


【姫君引渡申請を行いますか?】


「それだ!」


 やっと話が通じた。


【姫君引渡申請を受理しました】


「よし!」


 扉が淡く光る。


 開く。


「姉貴!」


『玲司!? 入れた!?』


「ああ!」


 一歩踏み出す。


 その瞬間。


【同行者適格審査を開始します】


「……」


 俺は止まった。


 操も。


 海斗も。


 扉の向こう。


 長い回廊。


 その奥から姉貴の声。


『玲司ー?』


「……姉貴」


『何?』


 画面を見る。


【審査対象:三名】


【救助者】


【近接護衛者】


【後方守護者】


「俺の姉だよ!」

お読みいただきありがとうございます!


毎日7:10と19:40の2話更新です。


続きもお楽しみに!

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