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姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


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第75話:【全員救助完了】全員助けたので、最後に姉だけ消えました

 救難信号だけは、瓦礫の向こうで点滅し続けていた。


【救難信号:継続中】


【発信地点:崩落区画の先】


「……まだいる」


「ええ」


 操が瓦礫を見る。


 通路は完全に塞がれていた。


 大きな岩。


 砕けた壁材。


 天井から落ちた岩盤まで折り重なっている。


 人が通れる隙間はない。


「通信は」


 端末を操作する。


「……弱い」


 雑音。


 途切れる。


 それでも、反応はある。


『――こえ……ますか……』


「聞こえます!」


 俺は即座に返した。


「黒瀬です! そちら何人ですか!」


『四……です……』


 四人。


 最後に確認されていた探索者パーティと一致する。


「怪我人は!」


『一人……脚を……でも、意識はあります』


「動かさないでください!」


『はい……』


 通信がまた途切れる。


「四人とも生きてる」


「なら助けるだけね」


「ああ」


 問題は、この壁だ。


 壊せるか。


 俺なら壊せる。


 だが。


 力任せに殴れば、向こう側へ瓦礫が崩れる。


 天井の状態もわからない。


 生き埋めになっている人間へ、さらに岩を落とすわけにはいかない。


「操」


「わかってる」


 操が壁面へ手を当てる。


 冷気が薄く広がった。


「右側は危ない。まだ上から荷重がかかってる」


「左は?」


「少しマシ。でも、凍らせすぎると逆に割れるわ」


「なら中央左寄り」


「そうね」


 俺は端末の簡易構造図を見る。


 崩落前の通路幅。


 高さ。


 救難信号の位置。


「人がいるのは、ここから十一メートル先」


「最短で穴を開ける?」


「いや」


 首を振る。


「人が通れる幅だけでいい」


 大穴はいらない。


 俺一人が入れる。


 帰りは負傷者を通せる。


 それだけでいい。


「操。落ちそうな部分だけ固められるか」


「できる」


「俺が抜く」


「了解」


 操の冷気が広がる。


 崩落した岩同士の隙間へ薄く入り込み、危険な部分だけを固定していく。


 全部を氷漬けにはしない。


 荷重が逃げる場所を残す。


 固めすぎれば、別の場所へ負担が移る。


「ここ」


 操が指す。


「この岩を先に」


「ああ」


 俺は両手をかける。


 持ち上げる。


 重い。


 だが、動く。


 ゆっくり。


 絶対に落とさない。


「そのまま左」


「了解」


 操の指示通りにずらす。


 一個。


 次。


 また次。


 俺が持ち上げる。


 操が崩れないよう支える。


 壊すんじゃない。


 抜く。


 道を作る。


「……あと三メートル」


 救難信号が近づく。


『黒瀬……さん?』


「もうすぐ行きます!」


『はい……!』


 声が少しだけはっきりした。


 最後。


 人一人が横向きで通れる隙間。


「操」


「行けるわ」


「ここ頼む」


「任せて」


 身体を滑り込ませる。


 黒銀スーツが岩へ擦れる。


 狭い。


 肩を捻る。


 胸が引っかかった。


「……何でここで胸郭が邪魔するんだよ」


「玲司?」


「何でもない!」


 全国配信中だった。


 忘れていた。


>胸郭

>最後まで胸郭

>救助中に伏線回収するな

>黒銀がんばれ


「回収してない!」


 余計なコメントだけ拾ってしまった。


 前へ進む。


 身体を捻る。


 肩を抜く。


 最後の岩を越えた。


「黒瀬さん!」


 いた。


 四人。


 探索者三人が、一人を囲むように座っている。


 負傷者は壁にもたれ、左脚を伸ばしていた。


 意識あり。


 顔色は悪い。


「全員いますね」


「はい!」


「大きな怪我はこの人だけ?」


「はい。あとは擦り傷くらいです」


 負傷者の左脚を確認する。


 大きな出血はない。


 目立った変形もない。


「名前言えますか」


「言えます」


「気分悪いですか」


「少し……」


「ここ痛みますか」


 腿へ触れる。


「っ……はい」


「わかりました。無理に動かさない方がいい」


 俺は端末を開く。


「操。四人確認。一人、左脚負傷。歩かせない」


『了解』


「担架は通らない」


『どうするの』


「背負う」


『その隙間を?』


「広げる」


 帰りに必要な幅を確認する。


「操、今の隙間を負傷者を背負って通れる幅まで広げられるか」


『できるけど、少し待って』


「何秒」


『三十』


「頼む」


 その間に四人へ説明する。


「三十秒後に順番に出ます。動ける三人が先」


「黒瀬さんは?」


「負傷者と最後」


「でも――」


「大丈夫です」


 短く言う。


「外に操がいます」


 それで十分だった。


 三十秒。


『玲司、いける』


「一人目!」


 探索者が隙間へ入る。


 外から操が誘導する。


『そのまま。右肩下げて』


「抜けました!」


「二人目!」


 次。


 三人目。


 全員出る。


 残り。


 負傷者。


「背中に乗れますか」


「はい」


「脚は動かさないよう支えます」


 背負う。


 腕を首へ回してもらう。


 負傷した脚を不用意に揺らさないよう支える。


「苦しかったら言ってください」


「はい」


「行きます」


 隙間へ入る。


 さっきより広い。


 それでも、人一人背負えば狭い。


 ゆっくり。


 一歩。


 また一歩。


「頭!」


 操の声。


 身体を下げる。


 背中の人を岩へ当てない。


「次、左」


「わかった」


「玲司、そこだけ速く」


「了解」


 上で、小さな音。


 ピシッ。


 氷。


 操が支えている。


「あと少し!」


 前。


 光が見える。


「出るぞ」


「はい……!」


 一歩。


 二歩。


 抜けた。


「医療班へ!」


 待機していた協会職員が駆け寄る。


「負傷者一名!」


「受け取ります!」


 背中から降ろす。


 担架へ。


「残り三人は?」


「全員無事です!」


 端末が鳴った。


【崩落区画・救助対象四名を確認】


 最後の救難信号が消えた。


「……」


 まだだ。


「残りは?」


 俺は通信を開く。


『確認します!』


 協会側。


 数秒。


 長い。


『救難信号――ゼロです!』


「後方」


『全員いる!』


 海斗の声が即座に返ってきた。


「残存群」


『協会増援が各区画で封鎖・制圧中! 避難経路への流入なし!』


「魔獣反応」


 操が端末を見る。


「救助区域内、なし」


「負傷者」


『全員、医療班へ引き渡し済み!』


 数字を確認する。


 救難信号。


 ゼロ。


 通信不明。


 ゼロ。


 取り残し。


 ゼロ。


 救助区域への魔獣流入。


 なし。


 一般探索者もスタッフも、安全圏へ移動済み。


 協会側の封鎖も完了している。


 もう、俺たちが走り回る必要はない。


 俺はようやく息を吐いた。


「……よし」


 操が俺を見る。


 通信の向こうでは海斗が待っている。


「終わりだ」


 その言葉を待っていたように。


 身体を覆っていた黒銀のスーツから光が抜けた。


「お」


 黒と銀の装甲がほどけるように消えていく。


 腰のベルトも消失。


 数秒後には、いつもの探索装備へ戻っていた。


 少し遅れて通信の向こうから海斗の声。


『こっちも赤いの消えた!』


「救助完了を認識したらしいな」


『今日は素直じゃん!』


「そこだけはな」


『よっしゃあああああ!』


「うるさい」


『全員帰ったんだぞ! 喜ばせろよ!』


「喜んでる」


『声に出せ!』


「全員救助完了」


『業務報告じゃねえか!』


 操が笑った。


「玲司らしいわ」


「何だよ」


「別に」


 配信コメントも一気に流れる。


>全員帰還

>取り残しゼロ

>氷姫が道作って

>黒銀が全部拾って

>赤が後ろ守り切った

>三人パーティ強すぎる


 倒した魔獣の数は、もう数えていない。


 別にいい。


 全員いる。


 それで十分だ。


        *


 安全区画へ戻る。


「玲司!」


 姉貴が走ってきた。


「走るな!」


「もう安全でしょ!」


「転ぶ!」


「そこ!?」


 止まった。


 珍しく言うことを聞いた。


「みんな、お疲れさま!」


「ああ」


 操も戻ってくる。


 少し遅れて、いつもの探索装備へ戻った海斗。


「お疲れ!」


「海斗」


「何だ?」


「後ろ、助かった」


 一瞬。


 海斗が目を丸くする。


「……おう」


「本当に戻らなかったでしょ」


 操が言う。


「戻るなって言われたからな」


「素直か!」


「お前が言ったんだろ」


「そうだけど!」


 姉貴が三人を見る。


「なんか、すごかったね」


「何が」


「三人」


「昨日説明した通りだろ」


「そうなんだけど」


 姉貴が笑う。


「説明で聞くのと、見るのって違うから」


「まあな」


 操が前。


 俺が拾う。


 海斗が後ろ。


 別に派手な連携じゃない。


 三人で必殺技を撃ったわけでもない。


 ただ。


 それぞれが必要な場所にいた。


 その結果。


 全員帰ってきた。


「姉貴も帰るぞ」


「うん!」


「スタッフと一緒に」


「わかってるって!」


「一人で先に――」


「行かない!」


「よし」


「信用なさすぎない!?」


 ある。


 方向感覚以外は。


「今日はもう普通に帰れるよね?」


「帰れる」


「本当に?」


「事件は終わった」


 端末を見る。


 救難ゼロ。


 取り残しゼロ。


 救助区域への魔獣反応なし。


 協会の封鎖も完了済み。


 第一の異常は、完全に終わった。


「帰るぞ」


「はーい!」


 姉貴が手を上げた。


 その瞬間。


【周辺脅威の消失を確認】


「……」


 俺は止まった。


「玲司?」


「姉貴、動くな」


「え?」


【姫君の安全を確認】


「待て」


 操が目を細める。


 海斗も固まる。


「何だこれ」


「知らん」


【王室緊急保護機能を起動します】


「今!?」


 金色の光。


 姉貴の足元。


「えっ」


「姉貴!」


 手を伸ばす。


 遅い。


「玲司ぃ!?」


 姉貴の身体が光に包まれた。


 一瞬。


 消えた。


「……」


 安全区画。


 全員救助済み。


 取り残しなし。


 魔獣の流入なし。


 事件終了。


 その真ん中で。


 姉貴だけがいなくなった。


【姫君を安全な王室保護区画へ移送しました】


「……」


 端末を見る。


 もう一度見る。


 文字は変わらない。


「玲司」


 海斗が恐る恐る声をかける。


「……何だ」


「たぶん、姫様――」


「わかってる」


 全員救った。


 事件も終わった。


 危険はもうない。


 俺の変身まで解除された。


 なのに。


「今からァ!?」

お読みいただきありがとうございます!


毎日7:10と19:40の2話更新です。


続きもお楽しみに!

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