第68話:【質問回答】黒銀・氷・赤、正式パーティになったので質問に答える
「何で俺だけ昨日と同じ席なんだ」
翌日、ステラライブ配信スタジオ。昨日、俺が正体を公開したのと同じテーブルに、今日は椅子が三脚並んでいる。
真ん中に俺。右に操。左に海斗。正面にカメラ。
【配信開始まで 00:00:42】
【待機人数 96,318】
「お前ら、本当に暇なのか」
「玲司、始まる前から視聴者に喧嘩売らないでくれ!」
「昨日も十二万超えてただろ。二日連続で見る内容か?」
「今日はオレもいるだろ!」
「それが何だ」
「親友への扱い!」
海斗の大声が響く。昨日、一人でここに座っていた時よりずいぶん気が楽だった。隣にいつもの二人がいるだけで、カメラの圧が三割減る。
「それにしても」
海斗が俺を見た。
「そのジャケット、昨日も着てたよな」
「ああ」
「配信用に買ったやつ?」
「ああ」
「五月雨が選んだって遥香さんから聞いたけど」
「姉貴ィ!」
カメラの外から笑い声。
「まだ始まってないよ!」
「始まってなくても余計な情報を流すな!」
操は平然としている。
「似合ってるからいいでしょう」
「そこじゃない」
「何か問題ある?」
「……ない」
「ならいいじゃない」
「またそれで押し切るのか」
昨日から、この女に「問題ある?」と聞かれると弱い。
海斗が俺と操を交互に見た。
「お前ら、昔からこうだったっけ?」
「そうね」
「そうか?」
「玲司が覚えてないだけよ」
「オレ、高校時代の記憶に自信なくなってきた」
「海斗は昔から細かいこと気にしなかっただろ」
「お前にだけは言われたくない!」
【配信開始まで 00:00:10】
チーフの合図で、三人そろって姿勢を整える。
「今日は普通に終わるぞ」
「昨日も普通に終わっただろ?」
「二日連続なら実績になる」
「何の実績だよ」
「事件が起きない配信の実績だ」
「基準が悲しすぎない!?」
【3】
【2】
【1】
【LIVE】
>きた
>三人揃った
>黒銀・氷姫・赤
>色が強い
>操だけ普通の服なのずるい
>男二人だけ密着被害者
「「ずるい」」
声が揃った。
「知らないわよ」
「何で操だけ普通の探索者なんだ」
「私は普通の探索者だから」
「オレも少し前までは普通だったんだよ!」
「海斗はもう諦めろ」
「お前が言うな!」
>開始十秒で息合ってる
>高校時代からこれか
>氷姫だけ被害ゼロ
>黒銀と赤だけ将来の尊厳が不安
「今日は変身してない!」
「将来の話をされてるんだよ、玲司!」
「する予定みたいに言うな!」
開始一分。すでに嫌な方向へ滑り出している。
俺はテーブルの進行資料を開いた。
「今日は、昨日コメントで質問の多かった三人パーティについて話します。その前に、一つだけ誤解が多かったので説明させてください」
>誤解?
>何
>ステラライブ所属?
「それです」
早い。
「俺たち三人は、ステラライブ所属の探索者ではありません」
>違うの?
>ここで配信してるから所属かと思った
>黒銀ずっとステラライブいるじゃん
「最後のやつは俺も少し思ってる」
何で俺はこんなに第三会議室に住んでいるんだ。姉貴がいるからだ。たぶん。
「三人とも、探索者としては独立しています。俺は個人で活動。操も探索者として活動していて、海斗も今はフリーです」
「つまり」
海斗が指を立てた。
「この三人パーティ自体は、どこの芸能事務所にも所属してません!」
「お前が言うと妙に説得力があるな」
「前の事務所辞めたばっかりだからな!」
笑って言えるようになった分だけ、少し安心する。
「ただし、ステラライブとは正式に業務提携しています」
>業務提携?
>所属とは違う?
>何するの?
「主に安全監修、ダンジョン関連の配信協力、必要な場合のタレント護衛です。姉貴だけじゃなく、ステラライブ所属のタレントがダンジョン企画をやる時に、三人の誰か、あるいはパーティとして協力します」
「探索者協会から依頼を受けることもあるし、別の探索者案件を受けることもあるわ」
操が補足した。
「ステラライブ専属ではない、ということね」
「そういうことです」
>なるほど
>独立パーティ+業務提携か
>だからスタジオ使ってるのね
>黒銀ほぼ社員みたいにいるけど
「それは俺も疑問だ」
「家族割!」
カメラの外から声が飛んできた。
「そんな契約形態はない!」
チーフまで笑っている。咳払いを一つ入れて、話を戻す。
「では質問へ行きます。今日は大きく三つです」
>住所?
>恋愛?
>黒銀の胸囲?
「最後のやつは永久に答えません」
>即答
>胸郭情報は国家機密
>セバスなら知ってそう
「呼ぶな」
今日はセバスをスタジオへ入れていない。あれは正しい判断だった。
【Q.どうして今、三人でパーティを組んだんですか?】
「ここからか」
俺は一度、両隣を見た。
「昨日も少し触れましたが、俺たちは高校時代にも三人で組んでいました。当時の役割は、操が前衛。俺が遊撃と救助。海斗が後衛です」
>やっぱり
>高校生パーティだったのか
>今S+A+Aなの怖い
「今とほぼ同じだな」
海斗が笑う。
「ただ、そのままずっと組んでたわけじゃない」
「ああ」
卒業後、俺たちはそれぞれ別の場所で探索者を続けた。三人で潜ることはなくなったが、喧嘩をしたわけでもない。
「一度、パーティとしては解散みたいな状態になっています」
「進む道が分かれただけよ。関係が切れたわけではないわ」
「オレと玲司なんて普通にジムで会ってたしな」
「会うたび筋肉の話しかしてなかったけどな」
「それはお前もだろ!」
>仲良しじゃん
>解散というより自然消滅か
>ジム友だったの草
>友情が筋肉で継続してる
「筋肉だけで友人関係を説明するな」
俺は続けた。
「それで今回、改めて三人で組むことにしました」
>昔の仲間復活熱い
>高校時代の再結成か
>エモい
「ただ」
一度、言葉を切る。
「昔に戻ったわけじゃないです」
コメントの流れが、少し緩んだ。
「役割は似てる。でも、全員あの頃とは違う」
操は今、若手筆頭と呼ばれるAランクだ。海斗は、他人から与えられた前衛像ではなく、後ろから守ることを自分で選んだ。俺も、昔よりは少しだけ他人へ任せることを覚えた。
「一度別々に活動して、自分がどこで一番役に立てるかを選び直した。その結果、もう一度組むことになった」
「今回は玲司から誘ったんだぜ」
海斗が余計な一言を足した。
「おい」
>マジ?
>黒銀から誘ったの?
>意外
>一人で何でもやりそうなのに
「……事実だ」
「言い方硬いな!」
「俺から誘った。それだけだ」
「もっとあるだろ!」
「何が」
「『お前が後ろにいると、俺は前を見て動ける』とか!」
「海斗ォ!」
こいつ、全国配信で何を暴露している。
>え
>何その台詞
>黒銀かっこいいじゃん
>それ本人が言ったの?
>友情重い
「重くない!」
「言っただろ!」
「言ったが!」
「良かったじゃない。ちゃんと伝わって」
操が小さく笑った。
「操まで敵に回るな」
「敵じゃないわ」
敵より厄介な時がある。
「次」
「逃げた!」
「進行だ」
【Q.三人の役割を教えてください】
「これは簡単です」
俺は操を見た。
「前」
「雑ね」
「前衛。討伐と制圧」
「基本的には私が前に出るわ。魔獣の数を減らす。足を止める。進路を制限する。避難が必要なら道を開ける」
>氷姫らしい
>一番わかりやすい
>普通にエース前衛
>黒銀より討伐数多そう
「たぶん多い」
「玲司、そこ認めるんだ」
「事実だからな」
俺は魔獣を倒すこと自体にこだわりがない。操が最短で処理できるなら任せる。
「俺は遊撃と救助。それと全体判断です」
>Sランクなのに前衛じゃないんだ
>黒銀めちゃくちゃ殴るじゃん
>遊撃って何するの?
「必要なところへ行く」
「説明が雑!」
即座に海斗から入った。
「状況を見て、前にも後ろにも行く。救助対象がいればそっちを優先。退路が危なければ確保する。誰かが抜けた方がいい場所があれば穴を埋める」
「あと、撤退判断な。玲司、昔から撤退だけは早かったから」
「だけ、を付けるな」
「褒めてるって!」
「探索者としては正しいわ」
操も頷いた。
「危険な時に引く判断が早いのは長所よ」
>安全第一ニキ
>物理だけじゃなかった
>Sランク評価もそこだったもんな
>討伐より全員帰還
最後のコメントが目に入る。
「そういうことです」
結局、それが一番大事だ。
「で、海斗は後衛」
「オレだけ紹介短くない!?」
「今から説明する」
「ならいい!」
「防御結界、火炎支援、退路確保。あとは後方全体の把握」
海斗は前でも戦える。Aランクだし、近接もできる。ただ、一番強いのはそこじゃない。
「前に出られないわけじゃない。でも、海斗が後ろにいた方がパーティ全体が強い」
言うと、海斗が一瞬だけ黙って、すぐに笑った。
「そういうこと!」
>めちゃくちゃ信頼してるじゃん
>氷姫が前
>黒銀が走り回る
>赤が後ろ
>色だけ見ると配置逆じゃね?
「確かに!」
海斗が食いついた。
「何でオレが一番後ろなんだよ!」
「適性だ」
「わかってるけど!」
「赤だから前、はもうやめただろ」
「それもわかってる!」
「じゃあ何が不満だ」
「絵面!」
「知らん」
>草
>赤いヒーロー最後尾
>でも一番安全そう
>避難するなら赤の後ろ行きたい
その一行を読んで、海斗の動きが止まった。
「……まあ」
照れたように鼻を掻く。
「それなら悪くないな」
「単純ね」
「五月雨!」
「褒めてるわ」
「絶対違うだろ!」
【Q.三人の中で、一番ヒーローらしいのは誰ですか?】
「操」
「五月雨」
俺と海斗の声が、ほぼ同時に出た。
「何でよ」
操が今日初めて、露骨に顔をしかめる。
>即答w
>氷姫
>黒銀と赤は?
>本人たちヒーローだろ
「変身しない」
「強制口上もない」
「密着スーツも着ない」
「勝手にポーズも取らされない」
「終了演出もない」
「お前、俺より被害少ないだろ」
「比較するなよ!」
「基準がおかしいわ!」
操が机を軽く叩いた。
「ヒーローらしさの基準が、被害の少なさになってるじゃない!」
「だって操は普通に現れて普通に強い」
「五月雨は普通に帰れるしな!」
「あなたたちが異常なのよ!」
>氷姫、正論
>ヒーロー二人がヒーローを嫌がりすぎ
>操だけ尊厳残ってる
>黒銀と赤の共通敵=演出システム
「それはかなり合ってる」
「認めるな、玲司!」
コメントの速度が今日一番の勢いになった。質問を三つに絞ったのは正解だ。これ以上続ければ、確実に黒歴史発掘大会が始まる。
「予定していた質問は以上です」
>早い
>もっとやって
>達者でなレディについて
>参勤交代について
>見参未遂について
「以上です」
「玲司、圧が強い!」
「終わった話を掘り返すな」
「オレの参勤交代は最近なんだけど!?」
「じゃあ一人で説明しろ」
「嫌だよ!」
その時、カメラの外から姉貴が入ってきた。トレーに飲み物が三つ。
「三人とも、お疲れさま。休憩用に持ってきたよ」
「まだ配信中だぞ」
「知ってる」
画面へ軽く手を振る。
「みんな、こんばんはー」
>姫様
>本人きた
>リアル姫
>身バレ翌々日とは思えない元気さ
「最後のやつが一番正しい」
「玲司!」
俺の前へ一つ。操へ一つ。そして最後に。
「海斗くんもどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
声が少し高くなった。背筋も伸びた。さっきまで肘をついていた男が、急に模範的な着座姿勢になっている。
「……」
操が海斗を見る。俺も見る。
「何だよ!」
「いや」
何なんだ、これは。
「海斗、急に姿勢良くなったな」
「元から良い!」
「さっきまで肘ついてたぞ」
「配信中だから!」
「今も配信中だろ」
「玲司」
操が静かに俺を呼んだ。
「何だ」
「黙ってなさい」
「何でだ」
「いいから」
当の姉貴は何も気づかず、笑顔で手を振っている。
「じゃあ私は戻るね。三人とも頑張って!」
「もう終わる」
「じゃあ最後まで頑張って!」
去っていく背中を、海斗の視線が一瞬だけ追った。
「……」
「海斗」
「何だよ!」
「何でもない」
「何で呼んだ!?」
よくわからない。操だけが、小さくため息をついていた。
その後、数分だけコメントを拾って、締めに入る。
「では、今後はこの三人で探索者活動をしていきます。ステラライブとは提携していますが、俺たちは独立した探索者パーティです。協会からの依頼も、普通の探索案件も受けます」
「配信に毎回出るかは別だけどな!」
海斗が笑う。
「出ようぜ!」
「嫌だ」
「即答!」
「普通に探索させろ」
「私も探索は普通でいいわ」
「五月雨まで!」
「海斗だけ配信すればいいだろ」
「三人パーティの意味!」
>仲良さそうで安心した
>初仕事配信してほしい
>S+A+Aの現場見たい
>氷姫が前で黒銀走り回って赤が後ろ守るの見たい
最後の一行を読む。言葉にすると、そのままだ。
操が前を開く。俺が必要なところへ行く。海斗が後ろを守る。
高校時代と似ている。でも、あの頃と同じじゃない。全員、自分で今の位置を選んでここにいる。
「機会があれば」
>言った
>初仕事待機
>フラグ
「フラグじゃない」
【LIVE終了】
「終わったー!」
海斗が背もたれへ沈む。
「昨日の玲司より楽だったな!」
「お前がうるさかっただけだ」
「盛り上げたって言え!」
「操、どうだった」
「悪くなかったわ」
「ほら!」
「海斗が静かなら、もっと良かった」
「五月雨ェ!」
いつものやり取り。普通の配信。昨日に続いて、今日も事件なし。
少しだけ安心した、その時だった。
机に置いた三台のスマートフォンが、ほぼ同時に鳴った。
「何だ?」
俺が端末を取る。操も、海斗も画面を見る。
表示は、三人とも同じだった。
【探索者協会公式アプリ】
【新規正式依頼】
【対象パーティ:黒瀬レイ/五月雨操/白鳥海斗】
「……来たな」
「三人パーティとしての初依頼ね」
操が依頼を開く。海斗が一気に身を起こした。
「初仕事じゃん!」
「ああ」
概要を確認する。協会管理下のダンジョン。探索と状況確認を含む通常案件。
少なくとも、表示された文面に妙な単語はない。古代。姫君。試練。封印。そのどれも、どこにも書かれていない。
「……ようやくか」
「何が?」
「いや」
端末を閉じる。
正体を公開した。三人で組んだことも公開した。ステラライブとの関係も整理した。
そして次は、三人パーティとして最初の仕事だ。
今度こそ、ただの探索者として、普通にダンジョンへ行けそうだった。
お読みいただきありがとうございます!
毎日7:10と19:40の2話更新です。
続きもお楽しみに!




