↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/102

第67話:【正体公開】黒銀ヒーロー、本人から答え合わせをする

【配信開始まで 00:00:31】

【待機人数 128,442】


「帰っていいか?」


「駄目です」


 即答だった。


 ステラライブ、配信スタジオ。昨日買った黒いジャケットを着て、俺はカメラの前に座っている。


 髪も整えた。服も整えた。公開する情報も決めた。逃走経路だけがない。


「黒瀬くん。開始三十秒前です」


「聞こえてます」


 正面にカメラ。その向こうに十三万人近い人間。


 昨日までの俺が全国配信に映るには、姉貴が危険に巻き込まれる必要があった。今日は違う。自分で配信枠を頼んで、自分の足でここへ来て、自分からこの椅子に座っている。


 わかっている。決めたのは俺だ。


 だが。


【待機人数 131,086】


「増えるな」


「玲司、まだ始まってないよ」


 カメラの外から姉貴の声。


「待機で十三万は多いだろ」


「昨日からみんな待ってたんじゃない?」


「待たなくていい」


「私の配信より緊張してない?」


「してない」


「右手ずっと握ってるけど」


 手を開く。


「してない」


「二回言った」


「姉貴」


「はい」


「今だけ黙ってろ」


「はーい」


 絶対に黙らない返事だった。


【配信開始まで 00:00:10】


 息を吐く。


 住所は話さない。生活圏も話さない。能力の内部情報も話さない。姉貴や操、海斗の私生活にも答えない。


 今日話すのは、俺自身についてだけだ。


【3】

【2】

【1】

【LIVE】


>きた

>本人だ

>卒アルの人だ

>黒ジャケット似合ってる

>髪切った?


「第一声がそれかよ」


 口から出てしまった。しまった。もう少し真面目に始めるつもりだったのに。


「えー……」


 改めてカメラを見る。


「黒瀬玲司です」


>知ってる

>はい

>卒アルで見た

>答え合わせ助かる


「……知ってるな」


 想定内だ。昨日の時点で名前まで出ている。


「探索者としては、黒瀬レイの名前で活動しています」


>知ってる

>それも知ってる

>Sランクおめ

>昨日ほぼ確定してた


「それも知ってるか」


 まあいい。本題は次だ。


 一度、息を吸う。


「それから」


 ほんの少しだけ、言葉が止まった。


 事実を認めること自体より、その単語を自分の口で発音するのが嫌だ。だが、ここまで来て逃げる方が格好悪い。


「……世間で黒銀ヒーローと呼ばれているのも、俺です」


>知ってた

>はい答え合わせ終了

>でしょうね

>今さらすぎる

>ようやく本人が認めたw


「俺は何のために配信してるんだ」


 スタジオの外から姉貴の笑い声。妙に大きいのが一つ混ざっている。海斗までいるのか。


「お前ら笑うな!」


「玲司ー! 昨日、美容院行きました!」


「余計な情報を追加するな!」


>やっぱり

>髪切ったと思った

>姉情報助かる

>全国配信前に美容院行く黒銀ヒーロー

>普通に偉い


「普通だろ!」


「普段行かないくせに!」


「黙ってろと言っただろ!」


「配信始まったから解除されたのかと思って!」


「そんなルールはない!」


 開始三分。すでに予定の進行から外れている。


 机の資料を一度見る。大丈夫だ。まだ戻せる。


「……話を戻します」


>がんばれ

>姉に負けるな

>いつもの黒銀だ

>変身してなくてもツッコミ同じだな


「最後の比較はいらない」


 いちいち反応していたら終わらない。俺はカメラへ視線を戻した。


「昨日から、俺の本名や過去の写真がかなり広がっています」


 コメントの速度が、少しだけ落ちる。


「黒瀬レイと俺が同一人物だという話も、黒銀ヒーローの正体についても、いろいろ推測されていました。今言った通り、そこは事実です」


 ここまでは答え合わせ。伝えたいのはここからだ。


「ただ、その過程で、俺の住所や生活圏を探そうとする投稿も出ています」


 スタジオが静かになった。


「姉のこともそうです。俺からつながって、家族や友人、関係者の私生活まで調べようとする動きが出ている」


 責める言い方はしたくなかった。大半は面白がっていただけだろうし、悪意のなかった人も多いと思う。


 だからこそ、線は自分で引く。


「俺について知りたいことがあるなら、話せる範囲はこれから俺が話します」


 一度、区切る。


「だから、話していない部分まで探さないでください」


 俺の家。行きつけの場所。姉貴の生活。操や海斗の私生活。ステラライブのスタッフ。そこまで娯楽にされる理由はない。


「自宅を特定したり、関係ない人の写真を俺たちだと決めつけて広めたりするのも、やめてほしいです」


>了解

>これはほんとそう

>姉まで掘るのはやりすぎだった

>本人が言ってくれてよかった

>住所特定は普通にやめよう


 全部が止まるとは思っていない。一度広まったものを完全に消せるとも思っていない。


 それでも、自分の口で言っておくことには意味がある。


「必要なことは、俺から話します。その代わり、俺が話していない部分は放っておいてください。それが一番助かります」


 言い終える。カメラの外でチーフが小さく頷いた。姉貴も、今度は何も挟まなかった。


 肩の力を、少しだけ抜く。


「質問についても、今日は答えられる範囲だけ答えます」


 脇のモニターへ、スタッフが選んだ質問が出た。


【Q.どうして黒瀬レイという名前で活動していたんですか?】


「本名を出さずに活動したかったからです。それ以上の意味はありません」


>シンプル

>レイ=玲司から取った?

>そこはそのままなんだ


「深く考えてない」


【Q.Sランク昇格について一言】


「ありがとうございます」


>短い

>もっと喜べ

>Sランクだぞ

>七年やってたんだろ?


「嬉しくないとは言ってない」


 嬉しい。七年分を認められたことは、素直に。ただ、それを全国へ叫ぶ性格ではないだけだ。


【Q.黒銀ヒーローの姿で活動を続ける予定はありますか?】


「必要なら」


>必要なら?

>変身配信ある?

>今変身して

>一回だけ


「しません」


>お願い

>せっかく正体公開したし

>黒銀見たい


「救助対象がいない」


>姫様いる?


「お前ら何で俺より危機管理してるんだ」


 カメラの外から、手だけが伸びてきた。


「いるよー!」


「出てくるな!」


「救助対象候補です!」


「立候補制じゃない!」


>草

>姫様元気

>危険イベント呼ぶなよ

>黒銀の判断が正しい


 このコメント欄、妙なところだけ成長している。昔なら「変身しろ」で埋まっていたはずが、今では姉貴の所在確認から入る。


 俺が何度も酷い目に遭った成果かもしれない。嬉しくない。


「あと、念のため言っておきます。正体を公表したからといって、好きな時に変身できるわけじゃありません。救助が必要な状況で発動する能力です」


>やっぱ任意じゃないんだ

>じゃあ名乗りも?

>レディも?

>達者でなも?


「そこは今日は話しません」


>逃げた

>内部仕様非公開か

>察してあげろ

>顔が全部言ってる


「顔から情報を取るな」


 危ない。質問に答えているだけなのに、能力の羞恥部分へ滑らかに誘導されかけている。


 俺はスタッフへ視線を送った。次。


【Q.これからも探索者は続けますか?】


「続けます」


 即答だった。


「Sランクになっても、やることは変わりません。依頼を受けて、ダンジョンへ行って、必要なら救助する。それだけです」


 黒銀ヒーローだと知られた。本名も顔も出た。だからといって、俺が別人になるわけじゃない。


「配信活動を本業にする予定もありません」


 カメラの外から、聞こえないふりのできない「えー」が飛んできた。


「姉貴」


「何も言ってないよ?」


「言った」


「配信向いてると思うけどなあ」


「今日一回で十分だ」


>姉弟配信定期化希望

>黒銀雑談枠

>筋トレ配信

>救助講座は普通に見たい


「最後だけなら検討する」


>お

>言質

>安全講座きた


「検討だ。決定じゃない」


 安全啓発なら意味はある。それは第2章の頃から変わらない。ただし、俺の大胸筋を延々と映すだけの配信をやる気はない。


 質問はその後もいくつか続いた。活動歴。Sランクになって変わること。今後も黒瀬レイの名前を使うこと。


 答えられることだけ答える。答えたくないものは断る。


 意外だったのは、それで配信がちゃんと成立したことだった。


 何も爆発しない。姉貴も消えない。古代施設も生えない。俺も変身しない。ただ座って話している。それだけだった。


「では、今日はこの辺りで終わります」


>おつ

>ちゃんと話してくれてありがとう

>Sランク改めておめ

>住所とかは掘らないようにしような

>また配信して


「最後のは考えます」


 考えるだけだ。


 カメラの横で、チーフが終了の合図を出す。


「最後に一つだけ」


 俺はカメラを見た。


「今回調べた人全員を、責めたいわけじゃありません」


 悪意があったかどうかは、俺には判断できない。


「ただ、俺たちも普通に生活しています」


 探索者でも。VTuberでも。ヒーローでも。生活はある。


「その部分だけは、これからも放っておいてもらえると助かります」


 一礼する。


「今日はありがとうございました」


【配信終了】


 ランプが消えた。


 数秒。何も起きない。


 周囲を見る。姉貴がいる。操がいる。海斗もいる。天井も壁も正常。黒銀スーツも出ていない。


「終わった?」


「ああ」


「本当に?」


「ああ」


「事件なし?」


「なし」


「変身なし?」


「なし」


「名乗りなし?」


「なし!」


 思わず声が大きくなった。


 終わった。本当に、普通に終わった。


「……できるじゃないか」


「何が?」


「普通の配信」


 姉貴が笑う。


「玲司が配信しただけだからね」


「それが今まで一度もできなかったんだよ」


 俺が映る時は、毎回誰かが危険だった。今日は誰も助けを求めなかったし、誰も捕まらなかった。


 それでいい。むしろ、それがいい。


「黒瀬くん。お疲れさまでした。反応も概ね好意的です」


「ならよかったです」


「それと、最後に一件だけ」


「嫌な言い方ですね」


 チーフがモニターをこちらへ向けた。配信が終わってもコメントは流れ続けていて、その中で一つの話題が急速に膨らんでいる。


>ところで三人パーティってマジ?

>氷姫とシャインレッドと組んだって本当?

>S+A+A?

>高校時代も同じパーティだったって話あるけど

>そこ本人から聞きたい


 操を見る。平然としている。


 海斗を見る。


「オレも聞きたい」


「お前は知ってるだろ」


「配信でどう説明するのかを!」


「面白がるな」


 姉貴が横から顔を出した。


「明日も配信する?」


「何でそうなる」


「みんな聞きたいって」


「今日は正体について話す配信だ」


「じゃあ次はパーティについて話す配信」


「簡単に増やすな」


 と言いながら、少し考える。


 三人で組んだこと自体は隠していない。協会にも正式に報告済みだ。これから三人で動くなら、役割を説明しておく意味はある。


 何より、今度は俺一人の話じゃない。


「……それは」


 コメント欄へ目を戻す。


>三人の役割知りたい

>氷姫が前?

>シャインレッドって後衛なんだよな?

>黒銀どこ担当?


 小さく息を吐いた。


「明日、三人で話す」


>きた

>三人配信確定

>黒銀・氷姫・赤が並ぶのか


 今日は、俺が何者なのかを話した。


 明日は、今の俺たち三人が何者なのかを話す番だ。

お読みいただきありがとうございます!


毎日7:10と19:40の2話更新です。


続きもお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。