↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/102

第63話:【パーティ加入】赤い後衛、独立初日に親友から誘われる

「玲司。個人事業主って、何から始めればいい?」


「まず領収書を捨てるな」


「初手がヒーローじゃない!」


「現実だ」


 庭園型封印塔の再起動事件から数日後、黒瀬家のリビング。テーブルの向かいで海斗が睨んでいるのは、赤いヒーローの台本ではなく――


【個人活動移行に伴う確認事項】


 という、夢の欠片もない書類だった。


「もっとあるだろ! 新しい門出とか、活動方針とか!」


「口座。契約書。帳簿。税金」


「最後の敵が強い!」


「逃げるな」


「ダンジョンなら戦えるんだよ!」


 甘えるな。俺は数年、領収書と税金から一度も逃げずに生きている。


『赤いの、うるさいにゃ』


 姉貴の膝で丸くなったルナが片目を開けた。


「独立したばっかりなんだから優しくしてくれよ!」


『猫に経理はないにゃ』


「勝ち組!」


「猫に負けるな」


 セバスが紅茶を置く。


「白鳥殿。独立のお祝いでございます」


「ありがとう、セバスさん!」


「なお、こちらの紅茶代を必要経費として扱えるかにつきましては――」


「俺に聞くな」


「先生役を途中で降りるなよ!」


 事務所との契約整理は、大筋で片がついたらしい。前衛型シャインレッドの活動は終了。今後はフリーの探索者として、自分で仕事を選ぶ。再起動した演出機材の件は、協会が調査中だ。


「揉めなかったのか」


「全然、ではないけどな。現場スタッフには謝られたよ。比較した時から、後ろの方が合ってると思ってたって」


「なら最初に言え」


「それな!」


「お前が言うな」


 海斗が苦笑した。


「辞める理由もちゃんと言った」


「何て」


「前に出たくないからじゃない。オレが一番守れる場所を、自分で選びたいからですって」


 一度、自分の手を見る。


「あと、安全の約束を守れない相手とは、探索者として仕事できませんって」


「……そうか」


「おう」


 喧嘩して飛び出したわけじゃない。譲れない線を、自分で引いただけだ。それでいい。


「玲司。今ちょっと褒めた?」


「幻聴だ」


「何年お前の顔見てると思ってんだ!」


「そういうところだけ察しがいいな」


「やっぱり褒めてた!」


「それで、今後はどうするの」


 操が口を挟む。


「待ってました!」


 海斗が鞄から取り出したのは、白地に赤い文字の名刺だった。


【シャインレッド】

【後衛支援・退路確保・防御結界専門】


「どうだ!」


「二行目がヒーローとは思えないほど実務的だな」


「いいだろ!?」


「適性には合ってるわ」


 操が覗き込む。


「火炎支援も入れれば?」


「あ」


「忘れてたのか」


『前へ出ません、と書いておくにゃ』


「名刺に弱点を書くな!」


『長所にゃ』


「後衛専門で十分伝わる」


 セバスが名刺を受け取った。


「名刺所作、七十八点でございます」


「名刺にも点数つくの!?」


「残る二十二点は、胸郭情報の記載が――」


「載せるな」


 被害者として全力で止めた。


「でも、いいね」


 姉貴が名刺を手に取る。


「海斗くんらしい。後ろから守る赤、私は格好いいと思うよ」


「……ありがとうございます」


 声の高さが一瞬で整った。


「変わったな、声」


「変わってない!」


「昔からね」


「五月雨まで何なんだよ!」


 姉貴だけが不思議そうに首を傾げている。


 シャインレッド。最初は他人から押しつけられた名前だった。今は、後ろから全員を守るために、こいつ自身が選び直した名前だ。


「それで」


 俺は名刺をテーブルへ戻した。


「本当に一人でやるのか」


「ん?」


「事務所を離れた後だ」


「ああ。しばらくフリーで仕事受けながら、自分に合うやり方を探す。後衛が必要なら呼んでくれよ」


「……」


「玲司?」


 少し考えた。海斗は高校の頃からずっと、俺たちの後ろにいた。今回も同じだ。違ったのは、俺が一度も振り返らなかったこと。


「海斗」


「おう」


「だったら、俺たちとパーティ組まないか」


 海斗が固まった。姉貴も、操も、なぜかセバスまで止まる。


「何で全員止まるんだよ」


「いや」


 海斗が俺を見る。


「お前から言うと思わなくて」


「嫌ならいい」


「早い早い早い!」


「なら何だ」


「驚いただけだって! もう少し誘った側らしく粘れよ!」


「面倒だな」


「扱い!」


「私は?」


 操が紅茶を置いた。


「今さらだろ。姉貴の護衛でほぼ毎回来るし、何か起きれば普通に前へ出る。書類を出してないだけで、もう半分パーティだ」


「半分なの?」


「雑すぎない!?」


 気にしているのは海斗だけだった。


「今のところ困ってないもの」


「五月雨、強いな……」


 俺は少し身を乗り出して、姉貴に聞こえない距離まで顔を寄せた。


「姉貴とも一緒だぞ」


「――っ!?」


 肩が跳ねた。わかりやすい。


「な、何で今それ言うんだよ!」


「いや?」


「いや、じゃないだろ!」


 慌てて姉貴の方を見る。


「どうしたの?」


「何でもないです!」


「ほら、三割丁寧になった」


「なってない!」


「なってるわね」


「五月雨!」


「昔から」


「だから何が!?」


「本当に何の話?」


「姉貴は知らなくていい」


「気になる!」


 海斗が耳まで赤くしたまま俺を睨む。


「玲司。あとで覚えてろよ」


「加入前から仲間割れするな」


「誰のせいだよ!」


 少し笑って、俺は改めて海斗を見た。


「それに」


「……何だよ」


「お前が後ろにいると、俺は前を見て動ける」


 海斗が黙る。


「庭園でもそうだった。今までは、自分で全部見ようとしてた。でも、お前が後ろにいるなら」


 一度、言葉を切る。


「俺は前だけ見て走れる」


 冗談を探していた顔から、笑いが消えた。


「だから誘ってる」


「……そっか」


「ああ」


 やがて、海斗の口元が緩む。


「玲司がそんなこと言うんだな」


「やっぱりなしにするか」


「だから早いって! 嬉しいんだよ!」


「……そうか」


 まずい。妙に真面目な空気になった。俺は紅茶へ手を伸ばす。


「まあ、どうせこの先もろくでもないものに巻き込まれる」


「否定できないな」


「塔」


「うん」


「姫」


「うん」


「密着スーツ」


「嫌だ」


「ダブル口上」


「もっと嫌だ」


「終了時の友情確認」


「思い出させるなよ!」


「だから」


 紅茶を一口飲む。


「どうせ地獄を味わうなら、一人より二人一緒の方がマシだろ」


「……それ、照れ隠し?」


「違う」


「今の流れで!?」


「地獄対策だ」


「絶対照れ隠しだろ!」


「違う」


「二回言った!」


「うるさい」


 海斗が笑って、手を差し出した。


「わかった。入るよ、パーティ」


「……そうか」


「おう」


 高校時代、何度も背中を任せた。一度、別々の道へ進んだ。今度は俺の方から手を伸ばす番だ。


 握った。


「よろしく、海斗」


「任せろ、玲司」


 いつもの返事だ。それが、少しだけ頼もしく聞こえた。


『赤いの、家族になったにゃ?』


「違う!」


「ルナ、それは違う!」


 声が完全に重なった。


『息ぴったりにゃ』


「やめろ!」


「二度とその評価するな!」


 昨日の地獄が脳裏をよぎる。


「パーティ連携所作、九十六点でございます」


「採点するな!」


「減点は?」


「聞くな海斗!」


「白鳥殿が姫様の名を聞かれた際、姿勢制御へ僅かな乱れが」


「セバスさん!?」


「お前まで気づいてるのかよ!」


「海斗くん、私の名前で何かあった?」


「ないです!」


 また丁寧になった。


「あるな」


「玲司!」


 パーティ加入初日にして、すでに騒がしい。


       *


 その直後、全員のスマートフォンがほぼ同時に震えた。


「何だ?」


「チーフから」


【要確認】

【黒銀ヒーロー関連のネット上の憶測について】


 俺は無言で画面を伏せた。


「見なかったことにする」


「見なさい」


 操が即答し、姉貴がリンクを開く。


「玲司、これ結構まずいかも」


【考察】黒銀ヒーロー=星宮ハルカの弟スタッフ説、かなり濃厚?


「帰りたい」


「ここ玲司の家だよ」


 逃げ場がなかった。


>弟スタッフ消えた直後に黒銀出てきてない?

>白鳥も黒銀に玲司って言いかけてなかった?

>弟スタッフと黒銀、動き似すぎじゃね?


「海斗」


「はい」


「秘密を守るとは」


「守る気はある!」


「気だけで音声は止まらないんだよ」


「ごめん!」


 スクロールすると、もう一つ並んでいた。


【別説:黒銀ヒーロー=Aランク探索者・黒瀬レイ説】


>黒銀と黒瀬レイ、救助現場が妙に被る

>弟スタッフも探索知識ありすぎ

>黒瀬レイ=黒銀=弟スタッフ?

>三人一人説


「三人一人説って何だ」


「そのままだろ」


「納得するな」


 まだ全部、推測だ。俺のフルネームも、姉貴の本名も、戸籍上の関係も、黒瀬レイと黒銀の同一性も、確定したものは一つもない。


「チーフからは?」


「現時点では憶測の範囲。危険な特定行為は監視を強化するって」


「なら反応しない」


「答え合わせになるものね」


 操が頷いた。


「海斗。今後は特に気をつけろ。俺の名前」


「言わない!」


「能力」


「言わない!」


「姉貴との関係」


「言わない!」


「密着スーツの感想」


「それは言わせてくれよ!」


「駄目だ」


「被害者の声だぞ!?」


 秘密を共有する仲間が増えた。同時に、秘密を守る難易度も上がった。世の中はうまくできていない。


「今日は海斗くんの独立とパーティ加入のお祝いなんだから」


 姉貴が名刺を海斗へ戻す。


「改めて、独立おめでとう」


「ありがとうございます!」


「これからも、後ろから守る赤で頑張ってね」


「はい!」


「それから三人とも、仲良くね」


「幼稚園児みたいに言うな」


「大事だよ?」


「オレは仲良くするぞ!」


「お前が一番騒ぐだろ」


「何で!?」


 海斗が笑い、操も少しだけ口元を緩める。


 昔と同じ三人。ただし、昔の続きではない。一度それぞれ別の道を歩いて、自分の役割を選び直して、もう一度組むと決めた。今度は、俺自身の意思で。


 そこで、俺のスマートフォンだけが震えた。


 探索者協会、御影千鶴。【重要】。


「嫌な予感しかしない」


「開けろよ」


「近い」


「パーティだろ?」


「個人情報まで共有するとは言ってない」


 通知を開く。


【黒瀬レイ様】

【Sランク探索者昇格審査について】

【正式認定の審査結果が確定しました】


「……」


 俺は無言でスマートフォンを伏せた。


「玲司?」


「見なかったことにする」


「また!?」


 伏せた画面が、追撃で震える。


【明日、探索者協会へお越しください】

【正式認定についてご説明します】


「ちょうどいいじゃん」


 海斗が覗き込んできた。


「何が」


「明日、協会行くんだろ」


「ああ」


「なら」


 海斗が俺と操を順番に指差す。


「パーティ登録も相談しようぜ」


「気が早い」


「もう決めただろ」


「……まあ」


「よっしゃ!」


「声がでかい」


 翌日。Sランクの結果を聞きに行くついでに、俺たちが協会へ報告することが、もう一つ増えた。

お読みいただきありがとうございます!


毎日7:10と19:40の2話更新です。


続きもお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。