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姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


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第62話:【ダブルヒーロー】戦闘が終わっても、公開処刑は終わらない

「何でこんな時だけ完璧なんだよおおおおおおおお!」


 王宮庭園に、本物になった赤いヒーローの絶叫が響き渡った。


「知らん!」


「台本だと間違えるのに!」


「能力補正だろ!」


「そんな補正いらないだろ!」


「俺もずっと言ってる!」


「返せないの!?」


「返せるなら俺が先に返してる!」


「仲間になった途端、お前の苦労がわかりすぎるんだけど!」


「ようこそ」


「そんな歓迎いらない!」


 ようやく拘束が解けて、天へ突き上げていた腕を即座に下ろす。海斗も同じ動きだった。


「……終わった?」


「油断するな」


「何で!?」


「俺の能力だぞ」


「説得力しかないの嫌だな!」


「俺が一番嫌だ」


「二人とも。今度こそ仕事」


 操が小型塔へ視線を戻す。


「わかってる」


「助かる! 戦ってる方がマシだ!」


「そこまで言うか」


「玲司は言えないの!?」


「言える」


「それな!」


 そこで、ピコン。


「玲司?」


「また出た」


「もう嫌なんだけど!」


【連携補助――有効】


「そっちならいい!」


「感覚が麻痺してるぞ」


「口上よりマシだろ!」


 否定できない。


 次の瞬間、視界に妙な感覚が重なった。後方に展開されている海斗の結界が、どこにどう重なっているのか、振り返っていないのにわかる。


「海斗。お前の結界の位置がわかる」


「……マジ? オレも、お前がどこにいるかなんとなくわかる」


「連携補助だな」


「これ、オレが後ろから出したら、お前は振り返らなくても使えるってことか?」


「たぶんな」


「すげえじゃん!」


「ああ」


「演出は最悪なのに!」


「ああ」


「機能だけめちゃくちゃ真面目!」


「ああ!」


 いつものことだ。


【防御結界補助:有効】

【退路維持補助:有効】

【火炎支援制御:有効】


 海斗が右手を上げた。一枚、二枚、三枚。大規模な結界が必要な場所へほぼ同時に立つ。


「軽い。いつもより維持しやすい」


「炎は」


 赤い火線が結界の縁を走り、伸びかけた蔓だけを焼き切った。


「制御もしやすい」


「近接は」


「そこは別に変わってない」


「ならいい」


「そこ安心するんだな」


「突然お前が前衛強化されたら、ここまでの話が全部何だったんだって話になる」


「それな!」


 称号は海斗を別人にしなかった。前へ出る力ではなく、こいつが自分で選んだ仕事の方をやりやすくしている。


「いいじゃん。オレ向きだ」


「ああ」


「今、普通に褒めた?」


「事実を言っただけだ」


「それ褒めてるやつだろ!」


「うるさい」


「喜ぶのはあと」


 操が剣を構えた。


「そうだった!」


 小型塔の根元では、まだ金色の魔力が脈打っている。


【庭園防衛機能――非常維持】

【再起動経路――残存】


「完全に壊す?」


「いや。協会管理下の施設だ。安全に止められるなら壊さない」


「同感」


「操が経路」


「切る」


「俺が中心を止める」


「任せる」


「海斗」


「後ろは任せろ」


 即答だった。もう迷いもない。


 俺と操が走り出す。その足元へ、海斗の結界が先回りして現れた。崩れた石畳を越える足場。落ちかけた柱を支える防壁。さらに先の足場。出現する前から位置がわかる。


「便利すぎるな!」


「だろ!? 次、右!」


「見えてる!」


「まだ出してない!」


「わかるんだよ!」


「ちょっと気持ち悪いな!」


「お前が言うな!」


 右へ跳ぶ。結界。踏む。操も同じ足場へ着地した。


「以前より動きやすいわね」


「オレのおかげ!」


「戦闘中よ」


「はい!」


 操には素直だな、こいつ。


 塔の根元で、金色の線が絡み合っている。


「右から切る」


 一閃。


「次、左!」


 二本目。魔力が緩んだ瞬間、生け垣の奥から猫型魔獣が三匹飛び出した。


「海斗!」


「見えてる!」


 斜めの結界が一匹、二匹と、傷つけずに進路だけを逸らす。


「へっ――くしゅん!」


 三枚目も正確だった。


「まだ猫駄目なのか!」


「称号で鼻まで強化されると思う!?」


「されなくてよかったな!」


「何で!?」


「猫アレルギー克服称号だったら格好悪い」


「今さら格好よさ気にする!?」


「中心、露出した!」


 操の声。最後の魔力線が断たれ、塔の根元から金色の塊が剥き出しになる。


【非常維持機能】

【継続中】


「海斗!」


「出口、全部固定した!」


「何秒持つ!」


「何秒でも!」


「大きく出たな」


「新装備が軽いんだよ!」


「なら最後まで頼む!」


「任せろ!」


 踏み込む。


「これで――終わりだ!」


 拳を叩き込むと、金色の光が砕けた。


【再起動経路――停止】

【庭園防衛機能――終了】

【封印状態へ移行します】


 塔から光が消えていく。生け垣、噴水、白い柱、花壇。王宮庭園が端から金色の粒子へ崩れていった。


「海斗!」


「まだ維持してる!」


 全員が海斗の残した退路を通って安全圏へ抜けていく。


「黒瀬さん、残りはお二人だけです! 重傷者なし!」


「了解!」


 俺と操も封鎖線を越えた。


「海斗、解除していい!」


「了解!」


 最後の結界が消える。あとには、完全に沈黙した黒い小型塔だけが残った。


「……終わった」


 海斗が大きく息を吐く。


「今度こそ」


「ああ」


「本当に?」


「知らん」


「玲司が信用できない!」


「俺じゃなく能力を疑え!」


 ピコン。


「……」


「……」


 二人同時に固まった。


「玲司」


「何だ」


「今、鳴ったよな」


「鳴った」


「終わったんだよな?」


「塔はな」


「塔はって言わないでくれよ!」


【連携救助完了を確認】

【二者専用終了演出を開始します】


「何で終了にも専用があるんだよ!?」


「知らん!」


「戦闘終わったら解放してくれよ!」


「俺も今初めて知った!」


 身体が勝手に海斗へ向き、二人の拳が持ち上がる。


 ごつん。


「また拳合わせるの!?」


「友情を逐一可視化するな!」


 海斗の口が勝手に開いた。


〝黒銀!〟


「やめろ海斗!」


〝次もオレが、お前たち全員の帰る道を守る!〟


「台詞だけは格好いい!」


「オレの意思じゃないんだって!」


 今度は俺の口が動く。


〝シャインレッド!〟


(名前で呼ばせるな!)


〝なら俺は――お前が守った道の先まで、必ず救いに行く!〟


(友情を口に出させるなああああ!)


「玲司」


「今は喋るな!」


「これ、思ってたより恥ずかしいな!」


「ようやく理解したか!」


「した! めちゃくちゃした!」


 拳が離れる。終わる。そう思った。


 甘かった。


 俺の右手と海斗の左手が、同時に正面へ差し出される。


「まだポーズあるの!?」


「最後まで気を抜くな!」


「抜いてないって!」


〝救援完了――!〟


(終われ!)


 終わらなかった。俺の身体がまた海斗を向く。


〝シャインレッド!〟


(また名前で呼ぶな!)


〝次も後ろは任せた!〟


(次を予約するな!)


 海斗の胸が無駄に大きく張られた。


〝任せろ、黒銀!〟


「何で返事まで完璧なんだよ!?」


〝お前が前を救うなら――オレが必ず帰る道を守る!〟


「海斗!」


「オレの意思じゃないって!」


 俺の右拳が胸元へ。


〝なら俺は――お前が守る道へ、必ず全員連れて帰る!〟


(友情を確認させるなああああ!)


 二人の拳が中央でぶつかる。


 ごつん。


〝背中は預けた!〟

〝前は任せた!〟


「やめろ!」


「まだ続くのかよ!?」


 身体が同時にカメラを向く。右。左。完全な左右対称。


 そして。


〝また、助けを呼ぶ声のもとで――!〟


(次回予告みたいに締めるなあああああ!)


 バシュッ!


 止まっていたはずの噴水が、最後に一度だけ盛大に噴き上がった。


「何で!?」


『演出にゃ』


「塔は止まっただろ!」


『残ってた分にゃ』


「最後の魔力を演出に使うな!」


 赤と銀の光が空へ伸び、花びらが一度だけ舞う。俺と海斗は左右対称のまま固まっていた。


「玲司」


「何だ」


「オレ、お前の変身解除ってもっと静かなものだと思ってた」


「俺も今日まではそうだった」


「これ、オレが増えたせい?」


「たぶんな」


「……ごめん」


「もう同情するな」


 ようやく海斗の赤いスーツが光に包まれ、事務所製のスーツへ戻った。


「戻った! ……お前は?」


 自分を見下ろす。黒銀。そのまま。


「まだだ」


「何で!?」


「解除判定が来てない」


「コンビ演出だけ付き合わせて、オレだけ戻るの申し訳ないんだけど……」


「それ以上言うな」


「ごめん!」


「最後の掛け合い、かなり完成度が高かったわ」


 操が静かに言った。


「言うな!」


『映像、ちゃんと残ってるよ』


「姉貴。消してくれ」


『協会の事故記録だから、無理じゃないかな』


「御影さん!」


「事故検証用映像は保存対象です」


「永久保存!?」


「規定の保存期間に従います」


「何年です!」


「長いです」


「具体的に言わない方が怖い!」


 海斗が俺の肩を叩いた。


「玲司。一人じゃないぞ」


「今その言葉が一番腹立つ!」


「オレも一緒に映ってるから!」


「そういう仲間意識はいらない!」


 最悪だ。


 ただ、全員生きている。重傷者はゼロ。ヒーロー演出補助装置は協会が押収し、庭園型封印塔も再び封印管理下へ入った。


 結果だけ見れば、これ以上ない終わり方だった。


       *


 事故後の現場確認。俺の変身がようやく解除された頃、少し離れた場所では、海斗の事務所担当者が協会職員から事情聴取を受けていた。


 そちらを見る海斗の表情が変わる。


「海斗」


「……ああ」


 遠隔起動。使用禁止。俺は書面でも現場でも止めたし、海斗も反対した。それでも事務所内部の機材設定には、起動予約が残っていた。


 全員が無事だったのは、ただの結果だ。一歩ずれていれば、安全を伝えるための撮影で人が死んでいた。


「玲司」


「何だ」


「オレさ」


 海斗が、着たままの赤いスーツを見下ろす。


「シャインレッドって名前、最初は嫌だった。勝手に決められて、赤だから前へ出ろ、筋肉あるから殴れって言われて」


「雑だったな」


「それな」


 少し笑って、探索者アプリを開いた。


【特殊称号:シャインレッド】


「でも今日、同じ名前をシステムからもらった」


「そこは俺にも意味がわからん」


「オレも」


 仕組みは誰にもわからない。ただ。


「さっき言っただろ。オレは、後ろから守る赤いヒーローだって」


「ああ」


「なら」


 胸元を拳で軽く叩く。


「シャインレッドは捨てない。事務所が作った、前へ出るだけのヒーローじゃなくて」


 自分が守り抜いた退路の方を見る。


「オレが後ろから守る時の名前にする」


 こいつが決めたなら、それでいい。


「ただ」


 視線が事務所側へ戻った。


「もう、あそこに全部決めてもらうのはやめる。前に出ろって言われた時も、本当は違うって思ってた。映像を違う話に変えられそうになった時は、嫌だって言った」


 一度、拳を握る。


「それで今日、使用禁止の機材まで勝手に動かされた」


 海斗は怒鳴らなかった。


「ここまでされて、また『次はちゃんとしてください』って戻るのは、違うと思う」


「……決めたのか」


「ああ」


 まっすぐ俺を見る。


「事務所を離れる」


 迷いのない声だった。


「この名前は捨てない」


 赤い胸元へ触れる。


「でも」


 今度は、誰にも押しつけられていない笑い方で。


「誰かに決められたシャインレッドは、今日で終わりにする」


 赤いヒーローが、ようやく名前まで自分のものにした。

お読みいただきありがとうございます!


毎日7:10と19:40の2話更新です。


続きもお楽しみに!

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