↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/102

第56話:【黒銀と赤】庭園塔で、本物のヒーローは背中を預ける

【救助条件成立】

【ヒーロー見参――発動します】


(待てえええええええ!)


 待ってくれるなら苦労はしていない。


 黄金の光が視界を焼き、服の感触が消え、代わりに全身へ嫌になるほど馴染んだ密着感が走る。黒銀のスーツ。グローブ。バイザー。そして。


〝助けを呼ぶ声があるなら――〟


(配信中だぞ!)


〝この身、黒銀の光となりて駆けつけよう!〟


(誰が光だ!)


 勝手に右腕が上がる。


〝――ヒーロー見参!〟


>きたあああああ

>黒銀!!

>本物!?

>安全啓発配信に本人来たw

>塔よりこっちにびっくりした

>またハルカちゃんのところに来たぞ


 今日も全国へ、俺の尊厳が元気に配信された。最悪だ。だが後回しだ。


「……え?」


 海斗の声。振り返らなくてもわかる。数秒前まで黒瀬玲司が立っていた場所に、今は黒銀ヒーローが立っている。


「玲司は――」


「海斗!」


 補正で低くなった声で遮った。


「今は後ろを見ろ!」


 一瞬、海斗の目が細くなる。


「……了解!」


 それ以上は聞かなかった。助かる。


「れ――黒銀!」


 操も危なかった。


「左から来る!」


「見えてる!」


「黒銀さん!」


 東屋から姉貴。今、絶対に何か言い直しただろ。


「全員、戦闘中に余計なことを言うな!」


「黒銀が一番動揺してるわよ!」


「うるさい!」


『騒がしいにゃ』


 ルナが地面を蹴った。黒い巨体が視界から消える。真正面。腕を上げて爪を受ける。衝撃はある。だが、殺すための一撃じゃない。庭の外へ弾き飛ばすための力だ。


 受け流して踏み込む。ルナが身を捻り、右前脚が俺の胸へ触れた。


 ぽん。


「……ぽん?」


 妙に軽い音だった。着地したルナが、尻尾を揺らす。


『印をつけたにゃ』


「何の――」


 胸を見る。黒銀のスーツ。その中央に、金色に光る、大きな肉球。


「消せ!」


>wwwww

>肉球www

>かわいい

>新フォーム?

>胸の圧が急にかわいくなった

>黒銀肉球フォーム爆誕


「フォームじゃない!」


 思わずカメラへ怒鳴っていた。


「勝手に名前をつけるな!」


>喋ったw

>本人拒否

>じゃあ非公式か

>非公式黒銀肉球フォーム

>長くなっただけ


「非公式もやめろ!」


「黒銀、真面目にやって!」


「俺は真面目だ!」


 肉球をつけたやつに言え。


『似合ってるにゃ』


「お前ぇ!」


 踏み込もうとした瞬間、右の生け垣が一気に伸びて道を潰した。


「海斗! 右奥!」


「おう!」


 振り返らない。背後で結界の展開音。生け垣が止まる。


「三秒保て!」


「三秒でいいんだな!?」


「ああ!」


「任せろ!」


 その返事で、俺は背中の確認をやめた。昔なら、海斗が守れているとわかっていても一度は振り返っただろう。今は要らない。後ろは海斗が見ている。


「操!」


「もう行ってる!」


 左で剣が走った。生け垣そのものではなく、根元を流れる金色の光だけを斬っていく。一つ、二つ、三つ。中央へ伸びようとしていた緑の動きが止まった。


「道、開いたわよ!」


「十分!」


 正面が俺。側面が操。後方が海斗。高校時代に何度もやった配置だ。違うのは、全員Aランクになったことと、俺が黒銀の密着スーツに肉球をつけて走っていることくらいだ。成長とは何なんだ。


『通さないにゃ!』


 ルナが進路へ滑り込む。右の爪をかわし、左を受ける。生け垣から蔓。


「操!」


「切る!」


 背後から猫型魔獣が回り込んだ。


「海斗!」


「こっちは任せろ!」


 結界音。振り返らない。


「スタッフはそのまま出口へ! 右側の通路は使わないで! 猫はオレが止める! へっ――くしゅん!」


 直後に、完璧な結界音。


「本当に精度落ちないな!」


「今それ言う!?」


 柔らかく受け止められた猫たちが、そのまま別方向へ流されていく。


「白鳥さん、出口側の生け垣が!」


「見えてます!」


 御影さんの声にかぶせるように、もう一枚。人の退路を確保した結界の縁から細い炎が伸び、蔓だけを焼き切った。


「黒銀さん!」


 東屋から姉貴が手を振る。


「こっちに表示が出てる!」


「読め!」


「【姫君外出申請】! その下、【本人意思――外出希望】!」


「そこは正常だな!」


「でも次が【休養判定・不足】! さらに【外出申請・却下】!」


「本人の希望を下位判定で潰すな!」


>本人帰りたいって言ってるのにw

>休養圧が強い

>これ安全のために監禁してない?

>安全啓発配信で一番やっちゃいけないやつ


 皮肉が効きすぎている。


「他には!」


「えっと……【休養判定経路】! 東屋の周り、金色の線が何本も走ってる!」


 見えた。東屋を包む保護結界と、そこから庭園全体へ伸びる金色の魔力線。姉貴本人の意思とは無関係に、庭側の判定が出口を閉じている。


「操!」


「見えてる。結界そのものは壊さない。外を回ってる細い線だけ切るわ」


「頼む!」


 説明はそれで足りた。走り出した操へ、ルナが反応する。


『駄目にゃ!』


「お前の相手は俺だ!」


 真正面へ入る。拳。かわされる。追わない。操への進路だけを潰す。


『黒いの、邪魔にゃ!』


「仕事だ!」


 腕で爪を受けた瞬間、胸の肉球がまた光った。


「それ以上増やすなよ!」


『増やせるにゃ』


「できてもやるな!」


>増やせるのか

>全身肉球フォーム見たい

>肉球銀河フォーム


「期待するな!」


 視聴者も敵だった。


 操の剣が一本目を断つ。庭園が揺れた。


「一本!」


「続けろ!」


 二本目へ向かう操へ、猫型魔獣の群れが向かう。


「海斗!」


「止める!」


 遠くから結界が割り込み、猫を弾かずに角度だけ変えた。


「その角度でいい!」


「誰に言ってんだ!」


「お前!」


「わかってるよ!」


「なら聞くな!」


「昔からそれが腹立つんだよ!」


「戦闘中に昔話するな!」


「お前が始めたんだろ!」


 やかましい。だが動きは完璧だ。俺が指示を出し、操が道を開き、海斗がその道を閉じさせない。何を守るかだけ伝えれば、あとはそれぞれが勝手に最善を選ぶ。


「黒銀さん」


 通信機から御影さんの声。


「外周スタッフ、全員退避完了です。白鳥さんが確保した経路を使用しました」


 海斗の方を見かけて、やめた。必要ない。


「ならその出口、最後まで海斗に任せます」


「了解しました」


 声はいつも通り平坦だった。たぶん審査記録には何か増えている。考えるのは後だ。


「黒銀! 三本目!」


 最後の光が断たれ、東屋を囲む金色の壁が薄くなる。俺は地面を蹴った。


『黒いの!』


 ルナの反応が遅れる。操が開けた道を一気に抜け、薄くなった壁を突き破って庭園中央へ踏み込んだ。姉貴まで、あと数歩。


「ハルカさん!」


「うん!」


「もう一度、帰ると言ってください!」


 姉貴が椅子から立ち上がる。


「私はみんなと帰ります!」


【姫君の外出意思を確認】

【休養判定――】


 文字が一瞬揺れた。


【参照不能】

【姫君本人の意思を優先】

【外出を許可します】


 金色の壁が、音もなく消える。


「やった!」


 一歩踏み出した姉貴を見て、ルナが動きを止めた。


『……姫様』


「ルナ。心配してくれたのは、ありがとう」


『……』


「でも、帰るかどうかは自分で決めたいな」


 黒い耳が動く。


『姫様は、休まなくていいにゃ?』


「休むよ。家で」


『……家』


「うん。ちゃんと寝るし、お菓子も食べる」


「お菓子は条件に入れるな」


「玲――黒銀さん、細かい!」


「今の危なかっただろ!」


>玲?

>今なんて?

>ハルカちゃんの知り合い?

>弟スタッフ呼びかけた?


「気のせいです!」


 姉貴がカメラへ満面の笑みを向けた。


「押し切れると思うな!」


「黒銀さん、今は黙って!」


 理不尽だ。


『……姫様が決めたなら』


 黒豹の巨体が、するすると縮んでいく。元の小さな黒猫に戻ったルナは、東屋の手すりへ軽く飛び乗った。


『ルナは、見るにゃ』


 その一言で、庭園から力が抜けた。生け垣が縮み、石畳が薄れ、噴水も花壇も東屋も、金色の粒子になって崩れていく。豪華すぎる王宮庭園が消えたあとに残ったのは、訓練区画の乾いた地面と――中央の黒い塔だけだった。


「消えないのか」


「全員、触らないでください」


 御影さんの指示が飛ぶ。


「協会で封鎖します。調査班到着まで接近禁止」


「壊さないんですか?」


 海斗が聞いた。


「現時点で敵性行動は停止しています。由来も機能も不明なものを、状況が落ち着いてから壊さない理由はありません」


「それな」


 こいつはこういう時だけ理解が早い。


 と、庭園の残滓の中から、最後の一枚が飛んできた。


 ばさっ。


「きゃっ」


 姉貴の頭に膝掛けが被さる。


【姫君の休養が不足しています】


「まだ言うの!?」


「諦めが悪すぎるだろ!」


 膝掛けを外す姉貴を見て、ルナが尻尾を揺らした。


『一応、持って帰るにゃ』


「いらない!」


「私は欲しいかも」


「姉貴!」


「触り心地いいよ?」


「事件の備品を持ち帰ろうとするな!」


「では、わたくしが洗濯を」


「セバスも乗るな!」


 張り詰めていたものが一気に抜けて、俺は息を吐いた。救助対象無事。スタッフ全員退避。怪我人なし。塔は停止。最悪だけは踏まずに済んだ。


「……黒銀」


 海斗の声が、さっきまでと違った。


 振り返ると、じっとこっちを見ている。


「何だ」


「いや」


 視線が、俺の左足へ落ちた。


「さっきの踏み込み。左足から入る時、一回だけ踵が浮くよな」


 知っている。高校時代からの俺の癖だ。


「あと、指示」


「指示?」


「『三秒保て』」


 海斗が眉を寄せる。


「昔から、玲司も同じ言い方する」


 まずい。


「それと五月雨。さっき何て呼びかけた?」


「黒銀」


「その前」


「言っていないわ」


「否定が早いんだよ! 遥香さんも何か言い直したよな?」


「気のせいだよ?」


「全員怪しい!」


 海斗の視線が、また俺へ戻ってくる。もう軽い調子ではなかった。


「お前――」


「海斗」


 遮った。逃げるためじゃない。


「今は聞くな。まだ配信が生きてる」


 海斗がカメラを見て、退避していくスタッフを見て、残った黒い塔を見て、最後にもう一度、俺を見た。


「終わったら」


 一度、言葉を切る。以前の俺なら誤魔化しただろう。知らない。気のせいだ。一般論だ。いくらでも逃げ道はあった。


 でも、今日、こいつに背中を預けた。昔だけじゃなく、今日も。


「俺から話す」


 海斗の目がわずかに見開かれた。


「……いいのか?」


「ああ」


 数秒の沈黙のあと、海斗は頷いた。


「わかった。今は出口守る。まだスタッフ残ってないか、最後に確認してくる」


「頼む」


「任せろ」


 背を向けて走っていく赤い背中を、俺は追わなかった。俺が前へ出て、海斗が後ろを守る。今はそれでいい。


       *


 配信終了後。協会による現場封鎖と全員の安全確認が終わり、カメラのない控室に二人きりになった。


 俺はいつもの服へ戻っている。向かいの椅子に座った海斗は、さっきまであれだけ騒がしかったくせに、何も言わない。ただ待っている。俺が話し出すのを。


 黙っていてもいい秘密ではある。こいつなら、俺が話さない限り無理に踏み込んでこない。


 それでも、もう誤魔化す気はなかった。


「海斗」


「おう」


「話がある」


 海斗は聞き返さない。


 俺は一度だけ息を吐いた。


「――黒銀ヒーローの正体についてだ」

お読みいただきありがとうございます!


毎日7:10と19:40の2話更新です。


続きもお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。