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姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


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第38話:【合同聞き取り】塔の鍵を開けた何者かがいる

 午後零時五十八分。ステラライブ事務所、第三会議室。


 長机を挟んだ向こう側には、探索者協会の職員が三人。中央に座っているのは、黒いスーツに細いフレームの眼鏡をかけた女性だった。


 探索者協会ランク審査課、御影千鶴。高校時代に探索者登録をして以来、ずっと俺の担当を続けている人だ。


「お久しぶりです、黒瀬さん」


「この前会ったばかりですよね」


「昨日も配信映像で拝見しました」


「それを会った回数に含めないでください」


 御影さんは相変わらずの無表情だった。ただし、昨日の配信を見たという記憶だけは、今すぐ消してほしい。


「本日は、封印塔出現事案に関する合同聞き取りを行います」


 御影さんの視線が、会議室を一周する。


 姉貴――黒瀬遥香。五月雨操。チーフマネージャー。俺。そして、椅子の上へクッションを三枚重ね、その頂上へ堂々と座る、純白の燕尾服姿の小さな執事。


 紅茶騎士セバスティアン。


 机の上には、協会の資料、魔力波形の記録、配信映像を確認するタブレット。その端には、セバスが持参した焼き菓子の箱まで置かれていた。


「参考人が調査担当者を買収するな」


「ご挨拶でございます」


「魔力と毒物の検査は済んでいます」


 操が補足した。御影さんは箱を一瞥する。


「では、聞き取り終了後にいただきます」


「受け取るんですか!?」


「問題のない食品を廃棄する理由はありません」


「そこだけ合理的!」


「それでは始めます」


 御影さんが資料を開いた。


「最初に確認します。黒瀬遥香さん。現在、身体や魔力に異常はありませんか」


「はい。元気です!」


「塔で付与された装飾品や、術式の反応は残っていますか」


「全部なくなりました」


 御影さんの隣に座る職員が、測定結果を確認する。


「後遺症や残留反応は、現時点では確認されていません」


 姉貴が小さく息を吐いた。


「ただし、無傷で戻れたことと、安全だったことは別です」


 御影さんは淡々と続ける。


「今後の行動制限については、原因を確認した後にお伝えします」


「はい」


 今度は姉貴も、真面目な顔で頷いた。御影さんの視線が、セバスへ移る。


「セバスティアンさん」


「セバスとお呼びください」


「では、セバスさん。現時点で、協会内でのあなたの扱いは仮のものです」


「承知しております」


「星宮さんの護衛を希望していると聞いています」


「姫様の御身をお守りすることが、現在の最優先業務でございます」


「異常を感知した場合、単独で対処せず協会へ連絡してください」


「私には七百八十年の実務経験がございます」


「経験年数と報告義務は別です」


「……承知いたしました」


「今、少し不満そうだったな」


「組織へ属する以上、指揮系統には従います」


「昨日まで塔としか働いたことがないだろ」


「塔は非常に柔軟な上司でございました」


「勝手に姫を捕らえる上司のどこが柔軟なんだ!」


 御影さんが資料へ一行書き加えた。


「知性あり。社会規則への理解は要観察」


「評価が早い!」


 姉貴が手を上げる。


「扶養には入れますか?」


「税務の窓口へ相談してください」


「今聞くことじゃない!」


 御影さんは何事もなかったように、次の資料へ移った。


「続いて、塔の出現経緯を確認します」


 大型モニターへ、昨日記録された魔力波形が表示される。塔本体の大きな波。その外側には、細く、異なる周期を持つ波形が重なっていた。


「協会の暫定解析では、昨日の塔は、既知の異常空間とは形成過程が異なります」


 御影さんが細い波形を示す。


「外部から魔力を供給され、起動した可能性が高いと判断しています」


 姉貴が小さく息を呑んだ。


「セバスさん。塔が出現した経緯を説明してください」


「塔は本来、異なる空間へ封じられておりました」


 セバスの声から、普段の軽さが消える。


「昨日は何者かが起動術式へ接続し、現世へ引き出したものと思われます」


「起動者は追えますか」


「接続は塔の出現直後に切断され、痕跡も不自然なほど消えております」


「証拠を消した可能性がある」


 操が言う。


「否定できません」


 姉貴の手が、膝の上でわずかに握られた。


「その人が、私を狙ったんですか?」


「現時点では断言できません」


「でも、塔は私を捕まえたよね」


「塔を起動させた者と、姫様を選んだ者は別である可能性がございます」


「別?」


「外部の何者かが、封じられていた塔を起動させた」


 セバスが、慎重に言葉を選ぶ。


「しかし、出現後に姫様をプリンセスとして選定したのは、塔自身でございます」


「姉貴の特殊職業を現場で読み取ったのか」


「はい」


「なら、起動者が姉貴の存在を知らなかった可能性もある」


「そのとおりでございます」


 姉貴が配信する予定だった日時。姉貴が歩く予定だったルート上にあった、塔型モニュメントの起動。


 偶然で片づけるには、条件が揃いすぎている。


 だが、まだ姉貴が狙われたと決まったわけではない。


「黒瀬さん」


 御影さんが俺を見る。


「あなたは、転移術式へ外部から接続する魔力経路を感知したと報告していますね」


「はい」


「どの時点ですか」


「姉貴が塔へ転移させられる直前です」


 金色の鎖。羽根飾り。王冠型の魔法陣。その外側に、塔とは性質の違う細い経路があった。


「塔本体の魔力に似せてありました。でも、完全には一致していなかった。接続先は途中で切れていて、追跡できませんでした」


 御影さんの隣にいる調査官が資料を確認する。


「どの登録能力で感知を?」


「それについては、協会側で確認済みです」


 御影さんが先に答えた。


「しかし、報告書には能力名が記載されていません」


「閲覧制限の対象です。今回の合同聞き取りでは、観測内容だけを記録します」


 御影さんは表情を変えない。


「黒瀬さんの登録情報は協会内部で照合済みです。証言の信頼性にも問題ありません」


「……承知しました」


 質問はそこで終わった。操が一瞬だけ御影さんを見て、次に俺へ視線を向ける。


 だが、何も言わない。御影さんも操も、俺が伏せている情報へ、全員の前では踏み込まなかった。


 助かる。


「なお、救助者へ発生した能力干渉については、登録情報を含みます」


 御影さんが資料を一枚分ける。


「合同聞き取りの終了後、非公開で確認します」


「嫌な予感しかしません」


「業務です」


「その一言で何でも許されると思わないでください」


「許可ではなく、必要性の説明です」


 逃げ道がない。


「では、協会の暫定見解をお伝えします」


 御影さんが資料を閉じる。


「昨日の塔は、外部からの魔力によって起動した可能性が高い。起動者の目的は不明。星宮さんを狙っていたかどうかも、現段階では断定できません」


 姉貴が頷く。


「ただし、実際に強制転移と封印を受けています。原因が判明するまで、星宮さんの単独行動は禁止します」


「事務所の中でも?」


「先日、事務所の会議室でも捕らわれましたよね」


「……はい」


「場所だけで安全を判断できません」


 御影さんが操を見る。


「五月雨さんには、引き続き護衛をお願いします。収録中も、原則として星宮さんの近くを維持してください」


「異常を感知した場合は、撮影や業務より撤退を優先します」


「お願いします」


「セバスさんも、五月雨さんの指示と協会の判断に従ってください」


「承知いたしました」


「俺も近くにいられる時は同行します」


「黒瀬さんにも協力をお願いします」


「当然です」


「ステラライブ側には、星宮さんが使用する部屋の魔力走査を毎日実施してもらいます」


 チーフが真剣に頷く。


「収録前にも必ず確認します。異常があれば、撮影は即時中止します」


「本当に?」


「昨日、実際に星宮さんが捕らわれたんだ。同じことは起こさせないよ」


「……お願いします」


「黒瀬くんも、気づいたことがあれば遠慮なく止めてほしい」


「遠慮なく全部止めます」


「全部は困るかな」


「安全のためです」


 御影さんが、別の資料を取り出した。


「本日の予定についても、同じ基準を適用します」


「本日の予定?」


 俺はチーフを見る。チーフが、少しだけ視線を逸らした。


「聞き取りの後、安全啓発動画の収録を予定していて」


「昨日の今日で?」


「実ダンジョンには入りません。協会監修の第六スタジオです」


「スタジオだから安全、では納得できません」


「そのため、事前確認をお願いしたんだ」


 御影さんが資料を机へ置く。


「第六スタジオは午前中に走査済みです。開始直前にも再走査し、五月雨さんとセバスさんを星宮さんの両側へ配置します」


「予定外の設備起動は?」


「禁止します。異常値を一つでも検知した場合、即時中止です」


「設備の正式名称と型式、起動条件は、俺も確認します」


「収録前に確認してください」


「姉貴の衣装も」


「羽根も王冠もないよ!」


「衣装も事前に走査します」


「御影さんまで!」


「昨日は衣装へ羽根飾りが取りつきました」


「……お願いします」


 姉貴が即座に折れた。


「本当に危険がないと確認できた場合だけですね」


「はい」


「少しでも変なら中止」


「はい」


「姉貴が大丈夫と言っても?」


「本人の感覚より、客観的な観測を優先します」


「よし」


 姉貴が不満そうに頬を膨らませた。


「玲司、私の意見は?」


「お前は昨日、捕まってる最中に紅茶の温度を心配してた側だ」


「ちゃんと怖かったよ?」


「後半はな!」


 合同聞き取りは、予定より少し長引いた。セバスが把握している古代施設の情報と、協会内での扱いを確認する必要があったためだ。


 そして、姉貴の単独行動を、どこまで単独と定義するか。


「同じ建物に護衛がいれば、単独ではないですか?」


 姉貴が聞く。


「同じ部屋にいてください」


「隣の部屋は?」


「駄目です」


「御影さん強い」


「お前が弱いんだよ」


 午後二時過ぎ。ようやく合同聞き取りが終了した。


「追加情報が確認できましたら、改めて連絡します」


 御影さんが立ち上がる。


「星宮さん。先ほどの護衛条件を厳守してください」


「はい」


「五月雨さんとセバスさんは、護衛をお願いします」


「任せてください」


「承知いたしました」


「チーフマネージャーさん。安全走査が終わるまで、星宮さんを第六スタジオへ入れないでください」


「承知しました」


 御影さんは一度、全員を見回した。


 そして。


「黒瀬さん」


「はい」


「あなたは残ってください」


「…………」


 来た。


 俺だけに向けられた声は、明らかに重さが違った。


 協会は、黒銀ヒーローの正体を最初から知っている。


 これから御影さんは、全員の前では話せない何かを、俺へ確認しようとしていた。

お読みいただきありがとうございます!

毎日7:10と19:40の2話更新です。

続きもお楽しみに!

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