↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/102

第29話:【フラグ回収開始】拾ってないのに装備される白い羽根

 渋谷第三ダンジョン、入口前広場。


「みんなー! 星宮ハルカの新ダンジョン外見レポートへようこそー!」


 姉貴――星宮ハルカこと黒瀬遥香の明るい声が、配信用ドローンを通じて広場へ響いた。


 今日の企画では、ダンジョン内部へ入らない。入口周辺の安全設備。協会職員による入域管理。魔力異常を感じた際の通報方法。それらを現場から伝える、安全啓発を目的とした外見レポートだ。


 つまり、危険はない。


 ……はずだった。


「玲司、顔が死んでるよ」


「『安全なはず』という言葉を信じられなくなっただけだ」


 俺はスタッフジャンパーのジッパーを顎まで引き上げながら、広場の端を見た。昨日から警戒していた封印塔型モニュメントが、朝の光の中に立っている。


 写真よりも、実物の方がはるかに怪しい。石造りの塔。錆びた鎖。王冠型の紋章。


 安全を祈願する形ではない。どう見ても、プリンセスを閉じ込める側の建造物だった。


 誰が設計した。開設記念に建てるものではないだろう。


 配信導線からは外した。周囲には立入防止用のポールを置き、姉貴との距離は二十メートル以上。協会による再測定も、今朝の携帯測定器による確認も、結果は同じだった。


【魔力反応なし】


【術式反応なし】


【安全上の問題なし】


 安全確認を重ねるほど、逆に信用できなくなってきた。


 俺が知っている限り、本物の異常は測定器に映らない場所から始まる。


「玲司、さっきから塔を見つめてるけど、どうしたの?」


「近づくな」


「まだ何もしてないよ」


「する前に言ってる」


「心配性だなあ」


「自分の職業名を思い出せ」


「捕らわれのプリンセス?」


「そうだ」


 姉貴は配信用ドローンへ笑顔を向けた。


「というわけで、今日は少しだけ上品な星空案内人風のジャケットにしてみました!」


「昨日はプリンセス風と言ってただろ」


「衣装さんと相談して、名前を変えたの」


「名前だけ変えるな」


 白を基調としたジャケットの襟元と袖口には金色の刺繍。胸元には青い宝石風の飾り。肩には、妙に王族らしい装飾。


「普通のジャケットだよ?」


「普通のジャケットには金の刺繍と宝石は付かない」


「宝石じゃなくてプラスチック」


「素材の問題ではない」


「清楚でしょ?」


「塔への誘引効果がありそうだ」


「塔は動かないよ」


「お前を動かす可能性がある」


「ホラーみたいに言わないで」


 コメント欄が流れていく。


>ハルカちゃん今日もかわいい!


>星空案内人という名のプリンセス


>今日は捕まらないでね


>後ろの塔と絵面が完成してる


>顎までジッパー上げた弟スタッフが塔を睨んでる


 俺は配信用ドローンの死角へ一歩下がった。


「映すな」


「映ってないよ。たぶん」


「たぶんを付けるな」


 少し離れた場所では、五月雨操が広場の状況を確認していた。腰には愛用の剣。視線は人の流れと退避経路を追い、死角を一つずつ潰している。


 その手には、業務用の高速撮影カメラが握られていた。


「操。そのカメラは何だ」


「現場記録用よ」


「高速撮影である必要は?」


「魔力異常の細かな変化を確認できる」


「ほかには?」


「救助者が現れた場合、重心移動や身体操作も――」


「本音が出たな」


「八割は仕事よ」


「二割も趣味を混ぜるな」


 カメラケースには、油性ペンで大きく書かれていた。


【見参未遂ニキ専用】


「姉貴。油性ペンを貸したか」


「うん」


「貸すな」


「誰のカメラかわからなくなるでしょ?」


「名前じゃなくて用途が書かれてるんだよ!」


「現場記録用よ」


 操が無言でケースを裏返した。


「裏返しても消えないからな」


「気のせいよ」


「便利に使うな、その言葉」


 コメント欄にも操の姿が映り込んだらしい。


>あ、操さんだ


>護衛が豪華すぎる


>弟スタッフと普通に喋ってる?


>操さん、いつもより楽しそう


>なお弟スタッフは塔しか見ていない


「操。いつもより楽しそうだと言われてるぞ」


「護衛が険しい顔をしていたら、視聴者が不安になるでしょう」


「カメラケースの用途で言い合っていた説明にはなってない」


「必要な情報交換よ」


「耳が少し赤いぞ」


「気のせい」


 操は何事もなかったように塔へ視線を戻した。


 もっと警戒しろ。俺ではなく、塔を。


 配信は予定通り進み始めた。


「今日はダンジョンの中へ入る企画ではありません!」


 姉貴は大型の魔力濃度計を示した。


「数値に異常が出ても、自分で原因を確かめに行かないでください。近くの協会職員さんか、緊急連絡先へ知らせてください!」


 前回とは違う。面白さより、安全を先に伝えている。そこだけは、きちんと反省していた。


>こういう企画大事


>ダンジョンって勝手に入れないんだな


>中へ入らないの安心


>でもプリンセスだから心配


 そうだ。五万人全員で姉貴を監視してくれ。


 俺は配信エリアの端に立ち、姉貴と塔の間を維持した。姉貴が右へ動けば、俺も右へ動く。左へ移れば、左側へ回る。塔へ身体を向ければ、その進路へ自然に入る。


 七年やってきた仕事の中で、これが一番地味で、一番効く。危険と対象の間に、常に自分を置く。それだけだ。


 何度か繰り返したところで、さすがに気づかれた。


「玲司、さっきから私の進路を塞いでない?」


「安全導線の確保だ」


「毎回、塔と私の間に入ってくるよね」


「偶然だ」


「五回連続だよ?」


「よくある偶然だ」


 姉貴は少しだけ不満そうに頬を膨らませた。しかし、塔へ近づこうとはしない。


 よし。前回の反省は、きちんと残っているらしい。


 あとは、このまま管理ゲートまで移動して、通報設備の説明をして、配信を締める。それだけだ。


 その時、操が俺たちの近くへやってきた。


「玲司」


「どうした」


「私も、あれは気になる」


 さっきまでの軽口は消え、完全に探索者の顔になっていた。操は塔から視線を外さない。


「目立った魔力反応はない。でも、周囲の流れがわずかに歪んでいるわ」


「やっぱりか」


「通常なら、測定誤差として処理される範囲よ」


「通常なら、だな」


「ええ」


 操は姉貴との距離を確認した。


「ハルカさんがいる以上、無視しない」


「本人の前で異常物質みたいに扱わないで。捕らわれのプリンセスです」


「名乗るな」


「ハルカさんは、モニュメントから二十メートル以上離れて」


「最初から二十メートル離れてるよ?」


「なら維持して」


「はーい」


 姉貴は素直にその場で止まった。


 操も警戒している。協会職員もいる。姉貴も指示を守っている。導線も距離も、事前に決めたとおりに機能していた。


 今日こそ、本当に何も起きないかもしれない。


 そう思った直後、配信ドローンの一機が、塔の全景を画面の端へ入れた。


>あの塔みたいなの何?


>安全祈願モニュメントらしい


>プリンセスと塔の組み合わせ良すぎる


>近くで見せてー


「やめろ」


 思わず呟いた。


 視聴者。五万人でフラグを立てるな。


 姉貴がコメント欄を見て、塔の方へ顔を向けた。


「玲司、遠くから注意点だけ説明するのは?」


「しなくていい」


「近づかない方がいい理由も、ちゃんと伝えた方がいいと思うんだけど」


「理由は俺が説明する。怪しいから近づくな」


「説明が雑」


「安全啓発は覚えやすさが重要だ」


 操も頷いた。


「ハルカさん、今回は玲司の指示に従いましょう」


「操ちゃんまで」


「見参未遂ニキが必要になるような事態は、起こさないのが一番よ」


 俺は操を見る。


「お前がそれを言えるようになったとはな」


「私は護衛よ」


 操は塔を見たまま答える。


「見たいものと、起こしていい事態は別」


「カメラケースの文字を消してから言え」


「記録用よ」


「その設定で押し切る気だな」


 姉貴は配信用ドローンへ向き直った。


「安全確認のため、今日はモニュメントへ近づきません!」


>判断えらい


>弟スタッフの警戒が勝った


>近づかないなら安心


>次回は?


「次回もない」


「まだコメントを読んだだけだよ?」


 ちょうどその時、協会の案内役がやってきた。


「星宮さん、次は管理ゲート脇の緊急通報設備をご案内します。こちらへどうぞ」


「はい!」


 姉貴は明るく返事をして、塔とは反対方向へ歩き始めた。俺と操もすぐに続く。


 モニュメントから離れた。姉貴は指示を守った。封印塔も反応しない。操の高速撮影カメラも無駄になる。


 今日の配信は、ただの安全啓発企画として無事に終わる。


 そう考えた俺は、やはり甘かった。


「ん?」


 管理ゲートへ向かっていた姉貴が、突然足を止めた。


 塔から二十メートル以上離れた、確認済みの安全導線。協会職員も、操も、俺も、数分前に異常がないことを確認した、その中央に。


 小さな白い羽根飾りが落ちていた。


 白い羽根。金色の留め具。王冠型の小さな装飾。


 断言できる。数分前、ここを通った時には何もなかった。俺は歩く前に必ず足元を見る。七年やってきた癖だ。


 どう見ても、塔型モニュメントから外れた装飾の一部だった。


 全身に悪寒が走る。


 落ちていたのではない。置かれたのでもない。今、そこへ現れた。


 同時に、操の手からカメラが離れた。肩掛けの固定具へ任せ、右手を剣の柄へ置く。


 さっきまでの限界オタクの気配が、一瞬で消えた。この切り替えの速さだけは、昔から信用できる。


「ハルカさん、動かないで」


 姉貴は指示通り、その場で動きを止めた。


「これ、落とし物かな?」


「違う」


 俺は羽根飾りを見据える。


 姉貴は塔へ近づいていない。禁止事項も破っていない。触ろうともしていない。導線も距離も、全部こちらが決めたとおりだ。


 こちらが正しく動いた。それでも起きた。


 つまり、向こうから来たということだ。


 白い羽根飾りが、風もないのにわずかに震えた。


「姉貴、下がれ!」


 羽根飾りが地面から跳ね上がる。姉貴の白いジャケットへ向かって。まるで、最初からそこへ戻ることが決まっていたかのように。


 金色の留め具が、胸元の青い飾りへ。


 カチリと噛み合った。


 その瞬間。


 二十メートル離れた封印塔の内部から、重い鎖を引きずる音がした。


【魔力反応なし】


 俺の端末は、まだそう表示していた。


お読みいただきありがとうございます!


毎日7:10と19:40の2話更新です。


続きもお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。