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姉に無職だと思われているAランク探索者の俺、企業VTuberの初ダンジョン配信を“ヒーロー見参”で救ったら謎ヒーローとしてバズった  作者: 白洲りつ


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27/102

第27話:【一家に一台】救助所作六十五点の無職(仮)と、安全なダンジョン企画から逃げられない弟

【悲報】星宮ハルカ、事務所の会議室に捕らわれる【なお紅茶付き】


1:名無しの星の子

昨日のハルカちゃん雑談配信見たやついる?

「今日、会議室に閉じ込められちゃって〜」って笑い話みたいに言ってたけど、内容が普通に意味不明で草。


2:名無しの星の子

見た。

第四会議室に入ったらドアが閉まる

↓

中が王宮サロン化

↓

天蓋付きソファ

↓

メイドスライムが紅茶を出す

↓

ハルカちゃん、普通にくつろぐ

何?


3:名無しの星の子

捕らわれてるのに待遇良すぎるだろwww


4:名無しの星の子

捕らわれのプリンセスっていうより、招待されたプリンセスでは?


5:名無しの星の子

問題は、ハルカちゃんが「紅茶を飲み終わるまで出なくてもいいかなー」みたいなテンションだったこと。


6:名無しの星の子

危機感ゼロで草。


7:名無しの星の子

これ、例の特殊職業の影響? 捕らわれのプリンセス、ガチで発動してない?


8:名無しの星の子

で、誰が助けたん?


9:名無しの星の子

弟スタッフらしい。


10:名無しの星の子

また弟スタッフwww


11:名無しの星の子

無職仮の弟、会議室の魔力ロックまで解除できるの?


12:名無しの星の子

無職とは?


13:名無しの星の子

ハルカちゃんいわく、「弟が来てくれたから安心した」らしい。姉弟てぇてぇ。


14:名無しの星の子

あと五月雨操さんが、救助所作六十五点って採点したの笑った。


15:名無しの星の子

救助所作って何?


16:名無しの星の子

「助けを呼ぶ声があるなら、紅茶を置いて逃げろ」


17:名無しの星の子

草。


「草じゃない」


 いや、笑えるのはわかっている。俺以外には。


 ステラライブ事務所、第三会議室。


 俺、黒瀬玲司は、スマホに表示された掲示板まとめを見ながら深くため息をついた。


 昨日、姉貴が第四会議室に捕らわれた。本来なら、社内で発生した小規模な魔力異常として処理されるはずだった。


 ……いや。会議室が王宮サロン化し、メイドスライムが紅茶を出していた時点で、小規模という言葉には無理がある。


 それでも、掲示板で専用スレッドが立つ必要はなかった。


「なぜ雑談配信で話した」


 俺は、向かい側の椅子へ座る姉貴を睨んだ。


 星宮ハルカこと黒瀬遥香は、新作チョコレートを食べながら、まったく反省した様子もなく笑っている。


「だって、星の子たちが心配してくれたから」


「そこで『会議室に捕まった』と答えるな」


「でも、本当に捕まったし」


「本当に捕まったなら、なおさら危機感を持て」


「でも、危険な扉に入らないように気をつけてね、ってちゃんと伝えたよ?」


「その注意喚起に何分使った」


「一分くらい?」


「紅茶の話は」


「十五分」


「安全啓発が紅茶に負けてる!」


「メイドスライムちゃんが淹れてくれた紅茶、本当においしかったんだよ?」


「味の詳細を補足するな」


 姉貴は悪びれもせず笑う。


「みんな楽しそうだったよ?」


「俺は楽しくない」


 俺はスマホへ視線を戻した。掲示板は、まだ勢いよく伸びている。


【捕らわれのプリンセス姉さん】


【紅茶付き幽閉】


【弟スタッフ有能】


【職業・鍵開け】


【一家に一台、弟スタッフ】


【救助所作六十五点】


【見参未遂ニキ待機】


 新しい地獄の単語が増えていた。


 特に、救助所作六十五点。人命救助へ採点制度を持ち込むな。


 しかも六十五点。高くもなく、低すぎもしない。通知表なら、親へ見せる前に少しだけ言い訳を考える数字だった。


「おかしいだろ」


「何が?」


「俺はちゃんと助けた」


「うん」


「姉貴も無事だった」


「うん」


「なのに六十五点」


「でも、評判いいよ?」


「どこが」


「『危険な時はすぐ助けを呼ぼう』って」


「それはいい」


「『怪しい空間で出された食べ物は、安全確認してから食べよう』って」


「それもいい」


「『弟スタッフを常備しろ』って」


「俺は防災グッズじゃない」


「『一家に一台、弟スタッフ』って」


「家電にするな」


 姉貴はケラケラと笑う。


 この女、俺がどれだけ胃を痛めているか理解したうえで楽しんでいる。


 正体を知った姉は強い。強すぎる。


 変身の秘密。名乗りの強制。レディ発言。喉仏ミュート。俺の弱点を全部握っている。


 なのに本人は、捕らわれのプリンセスとして順調に弱点を増やしていた。


 姉弟で何をしているんだ。


 コンコン。


 第三会議室の扉がノックされる。


「失礼します」


 チーフマネージャーが資料を抱えて入室し、その後ろから五月雨操も姿を見せた。


「失礼するわ」


 若手筆頭のAランク探索者。クールでストイック。そして昨日、俺へ六十五点を付けた張本人である。


 操は掲示板を一瞥すると、小さく息をついた。


「社内チャットだけならまだしも、掲示板にまで六十五点が広がっているわね」


「お前のせいだろ」


「私が書いたのは社内チャットだけよ」


「火種を置いた自覚を持て」


「事実を書いただけ」


「採点された側の気持ちも考えろ」


 操は少しだけ肩をすくめた。


「でも、悪い評価ではないわ」


「六十五点で?」


「最低限は十分に満たしているもの」


「最低限で人命は助かる」


「ええ。ただ、もっと良くできる」


「また七十点を目指せって言うのか」


「そう」


「次を前提にするな」


 姉貴が笑いながら手を挙げた。


「操ちゃん、見参未遂ニキなら――」


「昨日も同じことを聞かれたわ」


 操が遮る。


「今は比べない。何点でもない」


「えー」


「ハルカさん」


 操の声が、少しだけ静かになった。


「昨日、あの部屋を開けたのは玲司です。黒銀ヒーローではありません」


「……」


「だから、玲司の六十五点」


 黒銀ヒーローと比べているわけではない。昨日、変身もせずに姉貴を助けた俺を見て、その結果へ点を付けた。


 そう言われると、六十五点への不満だけでは済まなくなる。


「その言い方だと、少し嬉しいのが腹立つ」


「なら、次は胸を張って七十点を取りなさい」


「だから救助に通知表を持ち込むな」


 操の口元が、ほんの少しだけ緩んだ。


 俺は咳払いをする。


「とにかく。今回の件でわかったのは、姉貴の特殊職業がネットでも話題になり始めたってことだ」


「捕らわれのプリンセス姉さん」


 姉貴が嬉しそうに言う。


「喜ぶな」


「かわいくない?」


「かわいくない。危険だ」


「紅茶付きだよ?」


「待遇を付け足すな」


 操は腕を組んで頷いた。


「その点には同意するわ」


「まともな意見が来た」


「今回は事務所内で発生した、おもてなし型の小規模異界だったから良かった」


「ああ」


「でも、屋外やダンジョン周辺で発生した場合、救助難度は一気に上がる」


 会議室の空気が少しだけ引き締まる。


「封鎖空間が深くなれば、別の異界へ転送される可能性もある」


「そんなに危険なんですか?」


 チーフが静かに尋ねた。操は頷く。


「特殊職業の効果は、まだ完全には判明していません。ただ、名称と初回イベントから考えれば、捕縛や幽閉に関する異常を引き寄せる可能性は高いです」


「だから」


 俺は姉貴を指差した。


「今後は不用意に扉へ入るな」


「うん」


「怪しい部屋へ近づくな」


「うん」


「怪しい塔へ近づくな」


「うん」


「怪しい檻へ入るな」


「うん」


「怪しい光へ手を伸ばすな」


「うん」


「知らない声に呼ばれても返事をするな」


「うん」


「紅茶が出ても飲むな」


「それは場合による」


「場合によるな!」


「でも、メイドスライムちゃんの紅茶は安全だったよ?」


「結果論で警戒心を捨てるな」


 姉貴は頬を膨らませた。


 操が真面目な表情で続ける。


「もう一つ、気になることがあるわ」


「何だ」


「視聴者が面白がって、危険な状況を期待するようになる可能性」


「ああ……」


「『ハルカさんが捕まれば、見参未遂ニキが来る』と思う人は、これから増えるでしょうね」


「最悪だ」


「悪意があれば、それを利用する人間も出るかもしれない」


 俺は表情を引き締めた。


「姉貴を囮にするような真似か」


「ええ」


「そんなことになれば、何をされるかわからない」


「そのとおり」


 姉貴の笑顔が、少しだけ消えた。


「私が捕まれば、また助けに来てもらえるって思われるかもしれないんだ」


「面白半分で危険へ近づく人間も出る」


「……それは嫌だな」


 姉貴は、自分が捕まることよりも、誰かが真似をして危険へ近づく可能性の方を嫌がった。


 配信者として、そこだけは譲れないらしい。


「特殊職業のことを、もう配信では話さない方がいいのかな」


「隠せば解決するとも限らない」


 操が答える。


「すでに映像も発言も残っているわ。曖昧に隠せば、逆に危険な検証を始める人が出る可能性もある」


「正しい情報を伝える必要がある、ということですね」


 チーフが企画書をテーブルへ置いた。


「今回の件を、面白い事故だっただけで終わらせるわけにはいかない。ダンジョン周辺での注意点や、異常を見つけた時の通報方法も伝えておきたい」


「でも、危険な企画にはしたくないです」


 姉貴が言う。


「もちろん。協会管理下の場所で、内部には入らない。異常があれば、その時点で中止する」


 チーフは俺たちを順番に見る。


「危険なことをしなくても、ダンジョンに関する配信は成立すると示したいんだ」


「それなら、意味はあると思います」


 操が頷く。


 内容だけを聞けば、まともだった。安全な場所で、正しい情報を伝える。危険なことはしない。


 非常に良い。


 ただし、参加者に姉貴がいる。その時点で、すべての安全という言葉が急に信用できなくなる。


 姉貴がパンと手を叩いた。


「じゃあ、次の企画はもっと安全にしよう!」


「当然だ」


「新ダンジョンの外見レポート!」


「中止しろ」


「まだ何も説明してない!」


「名前だけで危ない」


「内部には入らないよ」


「それでも危ない」


「入口前だけ」


「もっと危ない」


「どうして外の方が危ないの?」


「プリンセスは塔の外でもさらわれる」


 操が真剣に頷く。


「それは一理あるわ」


「お前が真面目に肯定すると怖くなる」


 姉貴は企画書を大型モニターへ映した。


【新設・渋谷第三ダンジョン外見レポート配信】


 内容は、安全管理体制の紹介。入域許可の必要性。一般人への注意喚起。異常発生時の通報方法。


 企画だけ見れば、安全啓発としては申し分ない。


 姉貴が現地へ行く。操も同行する。そして、俺まで呼ぼうとしている。


 何も起きない未来が見えない。


「操ちゃんが護衛で来てくれるよ」


 姉貴が言う。


「私が現地の安全確認も担当するわ」


「見参未遂ニキを探すなよ」


「探さないわ」


「今、少し間があった」


「気のせいよ」


「高速撮影用カメラなんか持ってくるなよ」


 操が一瞬だけ視線を逸らす。


「……戦闘資料として有用だから」


「持ってくる気だったのか」


「万が一に備えて」


「事故を前提にするな」


 姉貴がこちらを見る。


「玲司も来てくれるよね?」


「行かない」


「えー」


「えー、じゃない」


「安全啓発監修スタッフとして必要だよ」


「台本なら事務所で確認する」


「現地じゃないと、わからないこともあるじゃん」


「わからなくていい」


「玲司」


 姉貴が少しだけ真面目な顔になる。


 嫌な予感がした。この顔で頼まれると、俺は弱い。


「どうして来たくないの?」


「姉貴とダンジョンと安全な企画が並んだ時点で、もう安全じゃないからだ」


 姉貴は頬を膨らませた。操は企画書へ視線を落とす。チーフも、参加者一覧を確認していた。


【新設・渋谷第三ダンジョン外見レポート配信】


 出演、星宮ハルカ。


 探索者監修および護衛、五月雨操。


 安全監修補助、調整中。


 三人が、ほぼ同時に俺を見る。


「見るな」


 誰も視線を逸らさない。


 ……なるほど。


 この会議は、俺が参加するかどうかを相談する場ではない。俺を、どうやって現地へ連れていくかを確認する場だった。


 救助所作は六十五点。危機察知能力は百点。


 ただし、その危機から逃げられる確率は、最初からゼロだった。


お読みいただきありがとうございます!


毎日7:10と19:40の2話更新です。


続きもお楽しみに!

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