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ドラゴンと山暮らし  ~休日は異世界でキャンプライフ~  作者: EDA
第17話 天の橋

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04 それぞれの交流

「よし。とりあえず、使えそうな食材はお鍋にぶちこんじゃおっかぁ。まずは、四人がかりで食材を切り刻もぉ」


 咲弥のそんな号令で、ついに調理が開始された。

 調理をするのは咲弥と陽菜、アトルとチコの四名で、見学者は――ドラゴン、三名のケルベロス、ギュー、行商人、そして四名の冒険者という、なかなかの大所帯である。しかも本日は洞穴に陣取っているため、普段以上の人口密度であった。


 洞穴の外は、相変わらずの篠突く雨である。唯一の救いは、こちらに吹き込んでくるような風向きではないことであろう。洞穴のすぐ外に張られた『精霊王の羽衣』の下では、二台の焚火台が出番を待ちかまえていた。


「あ、この人数だと、石鍋が必要だねぇ。ドラゴンくん、準備をお願いできるかなぁ?」


「承知した」と応じつつ、ドラゴンは亜空間の扉を開く。そこから取り出されたのは、かつてロキの使い魔たるゴーレムが錬成してくれた大ぶりの石鍋と焚火台であった。


 その間に、こちらはざくざくと食材を刻んでいく。

 咲弥があまたある食材の中から選んだのは、長ネギのごとき『老賢者の杖』、春菊のごとき『精霊の寝床』、赤いキクラゲのごとき『サラマンダーの心臓』、分厚いホウレンソウのごときヤツデモドキ、まん丸のナスのごとき『紫の悪夢』、エビの身のごとき『オークの棍棒』といった品々であった。


「あとは、コメモドキの準備もしておかないとねぇ。アトルくん、そっちが片付いたらお願いできるかなぁ?」


「りょーかいなのです! おまかせあれなのです!」


 新たな自慢の作物を持参した上に、行商人から目新しい食材を授かったことで、アトルとチコは昂揚の度合いも普段以上である。いっぽう陽菜も楽しげな様子であったものの、今日はいささか口数が少なかった。


「やっぱり陽菜ちゃんは、ちょっと緊張してるのかなぁ?」


 咲弥がこっそり囁きかけると、陽菜ははにかみながら「うん」とうなずいた。

 陽菜は異界の住人と遭遇するたびにテンションを上げていたものであるが、冒険者たちはわりあい普通の大人たちであるため、元来の奥ゆかしさが発露しているようである。咲弥はひとつ思案して、トナとウィツィの女性陣を呼びつけることにした。


「ねえねえ、よかったら二人とおしゃべりさせてもらえないかなぁ? 今回はずいぶん期間が空いたみたいだけど、仕事が忙しかったのぉ?」


「は、はい。ちょっと東方の区域にまで遠征する依頼がありまして……往復の移動だけで、ひと月以上もかかってしまったのです」


「ふん。しかもあっちには手練れの暗殺者まで待ちかまえてて、さんざんだったわよ」


 いきなり物騒なワードが飛び出したため、陽菜は目を丸くしてしまった。


「あ、暗殺者って? みんな、大丈夫だったの?」


「ふん。どこかのノロマが毒の罠にかかったぐらいで、どうってことなかったわよ。死ぬほどの毒でもないのに、泣くわわめくわの大騒ぎだったけれどね」


 すると、ルウと歓談していたミシュコが顔を赤くしながら「何か言ったか?」とがなりたてる。どうやら気の毒な目にあったのは、彼のようだった。


「暗殺者ってことは、人間なのかなぁ? 冒険者のみなさんは、同じ人間ともバトってるのぉ?」


「い、いえ。わたしたちは、東方区域の領主から魔獣の討伐を依頼されていたのです。ただ、その魔獣が宝物の眠る遺跡にこもっていたもので……うまく事情が伝わっていなかった領民の方々に、遺跡荒らしと間違われてしまったのです。その中に、暗殺者を生業とする一派が含まれていたということですね」


「ありゃりゃ。そいつは大変だったねぇ。暗殺者さんとは、仲直りできたのぉ?」


「は、はい。誤解が解けたのちには、手を携えて魔獣を退治することになりました。そもそも領民の方々も、大切な遺跡を魔獣に占拠されたことに心を痛めていたのです」


「そうなんだ。すごいねー」と、陽菜は瞳を輝かせる。トナは冒険者の最年少であるし、人あたりのやわらかい内気な人柄であるため、陽菜も馴染みやすいのだろう。咲弥もそれを見込んで、こちらの両名に集まってもらったのだった。


「それで、あの……ウィツィさんは、エルフさんなんだよね?」


 咲弥がおずおず問いかけると、ウィツィは不愛想な流し目をくれた。


「エルフはエルフでも、ダークエルフよ。何か文句でもあるのかしら?」


「う、ううん。エルフって、ゲームでしか見たことがなかったから……」


「ゲーム? 何よ、それは? あんたたちの世界では、ダークエルフをいたぶる遊戯でも存在するのかしら?」


 ウィツィが眉をひそめたので、咲弥がフォローすることにした。


「たぶんそっちの世界には、アプリゲームもテレビゲームも存在しないんだろうねぇ。あたしたちにとっては、エルフっていうのも架空の存在なんだよぉ」


「架空? どういう意味よ?」


「こっちの世界には、魔法が存在しないって言ったでしょ? だから、魔族も亜人族も存在しないってことさぁ」


 ウィツィは意表を突かれた様子で、わずかにのけぞった。


「……そうか。魔法が存在しないってことは、魔力が活用されてないってことなのよね。それで、魔力の影響で生まれた魔族も亜人族も存在しないってこと?」


「そうそう。そういうことだねぇ」


「それじゃあ、あんたにとってもわたしは初めてのダークエルフだったっていうことよね。そのわりには、ずいぶんと平然としていたじゃないのさ」


「そりゃあまあ、ドラゴンくんやケルベロスくんに比べたら、べつだん驚く要素もないしねぇ。あたしたちにしてみれば、ただの綺麗なおねえさんだからさぁ」


「うん。目も髪もきらきらしてて、すごくきれいだよね」


 陽菜がおずおずと笑いかけると、ウィツィはいっそう困惑の表情になってしまう。そんなウィツィの姿に、トナがくすりと笑った。


「ウィツィはどこに行っても、幼い子供を避けていますよね、もしかしたら、子供が苦手なのですか?」


「に、人間族の幼子は、騒がしいから嫌いなのよ」


「それに、ダークエルフを怖がる幼子も多いですものね。でも、こちらのヒナは怖がりも騒いだりもしないようですよ」


「うん。ウィツィさんとも仲良くなれたら、うれしいな」


 陽菜がもじもじすると、ウィツィはますますたじろいだ。ウィツィはスキュラと似た部分を持っているように見受けられるが、ここでも格の違いが出るようだ。スキュラであればどれだけ困惑しても、妖艶な笑顔を崩すことはなかった。


(陽菜ちゃんは、異界の要素が多いほうが好奇心を刺激されるんだろうしな)


 ウィツィが普通の人間と異なるのは、ぴんと長くのびた耳ぐらいのものである。しかしその白銀に輝く髪と瞳も大層な美しさであるし、やっぱりどこか雰囲気も違っている。それもまた、咲弥がこの場に呼びつけた一因であった。


(テクトリさんとミシュコくんは、陽菜ちゃんから見たら普通の立派な大人だろうしなぁ。まずは、このお二人に架け橋になってもらおう)


 そうして咲弥たちは歓談を楽しみながら、調理を進めていく。

 そんな中、背後ではテクトリと行商人が会話を始めていた。


「砂の民は、砂漠に面するすべての辺境都市に顔を出しているそうだな。お前たちであれば、半月とかけずに東方の区域まで出向くことがかなうのか?」


「砂漠の東側に位置する辺境都市という意味でしたら、七日ていどで出向くことが可能です。ただしその先は砂渡りの船を使うこともかないませんので、進むすべがありません」


「七日であれば、俺たちの半分以下の日数となる。なんとか見習いたいものだが……しかし、あらかじめ流砂の存在する場所を把握していない限り、そこまで速やかに船を進めることはかなわんのだろうな」


「はい。なおかつ流砂の動きは日によって変動いたしますので、それを即時に見抜ける眼力が必要となります」


「ふん。そんな芸当が即時に身につくわけもないか。砂の民を案内人として雇ったほうが、よほど話も早かろう。……しかしお前たちは、案内人としての仕事をありがたがる気風でもないようだな」


「はい。我々には行商の予定がありますため、それを二の次にして別なる仕事を受け持とうとする人間はごく少ないことでしょう。たまさか行先が同じであれば、引き受けないこともありませんが……ただし、帰還の時期まで一致することはそうそうないように思います」


「片道だけでは、案内役を雇う甲斐も半減だな。なかなかままならぬものだ」


 いかにもテクトリと行商人らしい、実務的な会話である。

 いっぽうミシュコは、ひとりで三名のケルベロスを相手取っていた。


「あのな、西の果てでは個体種のフェンリルが暴れ回ってるらしいんだよ。フェンリルってのは、お前らと同格の力なのか?」


「フェンリルとは相まみえたこともありませんので、わかりかねます。そもそも個体種というのは育った環境および齢によって大きく力が変動しますので、未見の相手では予測も立てられません」

「そーそー。魔狼族ってだけで、ひとくくりにするなよなー」

「うむ……我の属性は雷だが、フェンリルの属性は炎であるからな……その時点で、比較する甲斐もなかろう……」


「なんだ、属性すら違うのかよ。それじゃあ確かに、参考にもならないな」


「ええ。ただしフェンリルは、この身よりも長きの齢を重ねているはずです」

「だよなー。おめーらが挑んだって、ケシズミにされるだけじゃねーの?」

「うむ……そもそも四人で個体種に挑むというのは、あまりに無謀な話であろう……」


「べ、別に俺たちでフェンリルを退治しようって言ってるわけじゃねえよ」


「では、何のために情報を収集しているのでしょうか?」

「どーせ個体種をぶちのめして、名をあげようって魂胆なんだろ?」

「うむ……功名に逸って寿命を縮めるような真似は、差し控えるべきであろう……」


「う、うるせえな! 三人がかりで、まくしたてるんじゃねえよ!」


「口が三つあろうとも、心根はひとつですので」

「そーそー。おめーを黙らせるには、ひとつの口で十分だけどなー」

「うむ……其方は今少し、熟慮というものを学ぶべきではなかろうかな……」


 気の毒なミシュコは、すっかりやりこめられてしまっている。

 しかしケルベロスたちも意外に楽しげな様子であるため、咲弥としては微笑ましい限りである。そうして咲弥がひとり満足していると、ウィツィが「ちょっと」と顔を寄せてきた。


「わたしたちを呼びつけたのは、あんたでしょ。何を知らん顔をして、黙りこくってるのよ?」


「ごめんごめん。でも、そっちは陽菜ちゃんと盛り上がってたでしょ?」


「……こんな幼い人間族の子供は、扱い方がわからないのよ」


 と、ウィツィは陽菜に聞かれないように声をひそめる。そんな心づかいも、咲弥にはありがたい限りであった。

 そうしてウィツィが身を引いたため、トナが陽菜の相手をしてくれている。最初から陽菜に好意的な態度を見せていたトナは、いっそう明るい表情になっていた。


「ヒナはまだ十歳なのですね。でも、とても素直で聡明です。しかも調理の手腕まで備え持っているなんて、素晴らしいことですね」


「そ、そんなことないよぅ。料理は家で、ときどき手伝ってるだけだから……」


「ヒナのように賢く可愛らしいお子を授かった親御さんは、果報者ですね。きっとヒナの家族たちも、清く正しい心をお持ちなのでしょう」


 笑顔のトナに褒め殺しにあって、陽菜はとても気恥ずかしそうにしている。

 咲弥は切り終えた『老賢者の杖』を大皿に移しつつ、ウィツィのとがった耳に囁きかけた。


「トナちゃんって、子供好きだったんだねぇ」


「ふん。人間族の神殿では、捨て子やみなしごを育てているからね。神殿に仕えていた時代を思い出して、悦に入ってるのじゃないかしら」


 そういえば、トナは若き神職者の務めとして、しぶしぶ冒険者の活動を手伝っているという話であったのだ。見るからに柔和で心優しいトナは、安全な神殿で幼い子供たちと過ごしているほうが相応しいのかもしれなかった。


「あたしはまだ冒険者って仕事の内容を把握しきれてないんだけど、やっぱりバトルが盛りだくさんのワイルドな毎日なのかなぁ?」


「そりゃあ安全な冒険なんて、この世に存在しないわよ。危険がないなら、高い報酬を出して冒険者を雇う甲斐もないでしょうしね」


「にゃるほど。どうか怪我だけはしないように気をつけてねぇ。今回は期間が空いてたから、けっこう心配してたんだよぉ」


 咲弥がそのように伝えると、ウィツィは表情の選択に困っている様子で視線をさまよわせた。


「な、何よそれは? わたしたちがどうなろうと、あんたには関係ないでしょ?」


「そんなことないさぁ。ウィツィさんたちに何かあったら、ドラゴンくんだって悲しむはずだよぉ?」


 ウィツィはいっそうの動揺を見せながら、ドラゴンのほうを盗み見る。

 ちょうどドラゴンは語らう相手がいないタイミングで、ギューをあやしているさなかである。ドラゴンが振りたてる尻尾の先端をギューが楽しそうに追い回すという、実に牧歌的な光景が展開されていた。


「……王の威厳もへったくれもないわね」


「あはは。ドラゴンくんは、もう王様を引退してるからねぇ。あたしは今のドラゴンくんが大好きだなぁ」


「ふん。変人同士、お似合いよ」


 ウィツィは傲然と腕を組み、舌を出す。

 ただその銀色の瞳には、いつになく愉快げな光がたたえられているように思えてならなかった。

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