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ドラゴンと山暮らし  ~休日は異世界でキャンプライフ~  作者: EDA
第17話 天の橋

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03 さらなる味見

 とりあえず冒険者の一行は魔力を回復するために、ドラゴンの案内で水晶石の温泉へと移動である。

 咲弥としては裸のおつきあいを楽しみたいところであったが、現在は行商の品を味見しなければならないところであるし、その後にはランチの調理も控えている。ここは大人しく、自らの使命を全うするしかなかった。


 まずはドラゴンから借り受けた『竜殺し』の短剣で、『オークの棍棒』なる野菜を寸断する。ドリアンのごとき棘つきの表皮を断ち割ってみると、その内側には白いぷりぷりとした身が詰まっていた。


「現地では生鮮のまま食する方々もおられますが、食べ慣れていないと腹を下す危険が生じます。熱を通すほうが、無難でありましょう」


「了解でぇす。このまま火にかけちゃっても大丈夫かなぁ?」


「はい。表皮が焦げる頃には、身に熱も通ることでしょう」


 そんな行商人の助言を頼りに、咲弥は二つに断ち割った『オークの棍棒』を焚火台の火にかけた。

 また、『紫の悪夢』も炙り焼きで問題なしという話であったので、一センチていどの厚みでスライスしたものを横に並べる。そちらは真っ黒のボールめいた外見であるが、中身はナスのような乳白色だ。何にせよ、まったく見慣れない二種の食材が焚火台にのせられて、実に愉快な様相であった。


 ちなみに焚火台は、洞穴の出口に張ったタープの下に設置している。今日は洞穴で過ごすとしても、やはり火だけは屋外で焚く必要があった。


 雨は相変わらず土砂降りで、表の岩場でも物凄い勢いで水が流れている。これでは通常のタープも雨足に負ける恐れがあったため、風雨をよせつけない『精霊王の羽衣』を活用していた。


「こんなお宝を屋根に使っちゃって、行商人さんを切ない気分にさせちゃってないかなぁ?」


 咲弥がそのように呼びかけると、行商人は不思議そうに小首を傾げた。


「『精霊王の羽衣』は、風雨や炎や雷を避けるための魔法具となります。現在は、まさしく正しい使い方をされているのではないでしょうか?」


「あ、そーお? ドラゴンくんは衣装の生地だって言ってたし、さっきのトナちゃんも最初はびっくりしてたんだよねぇ」


「確かに昨今では、『精霊王の羽衣』を宴衣装の材料とするのが主流であるのでしょう。ですがそれは希少な品をあえて本来の用途と異なる形で使用することで、己の豊かさを誇示しようという行いであるのです。それが罪であるとは言いませんが……私としましては、その品が持つ力を十全に引き出すことこそが、もっとも美しく感じられます」


「へえ、そうなんだねぇ。あとでドラゴンくんにも教えてあげようっと」


 そんな歓談を楽しんでいる間に、二種の野菜はじゅわじゅわと焼けてきた。

『紫の悪夢』はいくぶん縮んで、まさしく炙り焼きにされたナスのような風情になっている。

 いっぽう『オークの棍棒』のほうは、白い身が割れて豊かな汁気をふきこぼし――そして何やら、野菜らしからぬ香りをあげ始めていた。


「なんか、魚みたいな匂いがするな!」


 と、ケイが瞳を輝かせている。

 咲弥も存分に好奇心を刺激されながら、行商人のほうを振り返った。


「あたしとしては、エビか何かを思い出す香りだねぇ。でも、これって野菜なんでしょ?」


「はい。ですが『オークの棍棒』には、魚介類に類する滋養も含まれております。それで南方の区域においては、珍味ともてはやされているのです」


「なるほどぉ。これは、意外な伏兵だったねぇ」


 適当に熱が入ったところで、咲弥は二種の野菜をカッティングボードの上に引き上げた。

『オークの棍棒』は頑丈な表皮からほぐした身を、銀の平皿の上に移し替える。白くてぷりぷりに焼きあげられたその姿は、外見からしてエビの身に似ていた。


『オークの棍棒』はなりが大きいので、八人で味見をするのに不足もない。そこで快哉の声をあげたのは、やはりケイであった。


「普通の魚とは違うけど、やっぱり何かの肉みてーな味だな! 塩やら何やらをふるだけで、十分に美味いんじゃねーか?」


「うんうん。やっぱりあたしが知ってるエビっていう魚介類と似た味わいだねぇ。これなら、スキュラさんも喜ぶんじゃないかなぁ」


 エビの味がする野菜というのは実に珍妙なる存在であるが、『大地の卵』も鶏卵そっくりの味をした果実であるのだ。異界に咲弥の常識を持ち込んでも、詮無き話であった。


 いっぽう『紫の悪夢』のほうは物騒な名前に反して、罪のない味わいである。ドラゴンが解析した通り、ナスに似た野菜であるらしく、水気がたっぷりで味らしい味はしなかった。


「これはどっちかっていうと、食感を楽しむ食材かなぁ。名脇役になりそうな気配がひしひしと感じられるねぇ」


「そうですか。そちらの品にも、商品としての価値を見出すことはかないますでしょうか?」


「うん。あたしとしては、どの品も頂戴したいところだよぉ。でも、代わりの品を準備するのは山を見回ってるみんなだもんねぇ」


 ドラゴンは不在であるために、咲弥は三名のケルベロスたちを見回す。すると、ルウが凛然たる面持ちで答えてくれた。


「先刻のヤツデモドキであれば、野生の種を収穫することも難しくないように思われます。それ以外に、如何なる種を収穫すればよろしいのでしょうか?」


「私の側からお願いしたいのは、『世捨て人の悦楽』『イブの誘惑』『ジャック・オーの憤激』『サラマンダーの心臓』の四品で、あとはこちらの見知らぬ三品が候補となります」


 行商人が見知らぬ三品とは、ヤツデモドキとコメモドキとしゅわしゅわの実である。その返答に、ベエが鬱々とした言葉を返した。


「先刻、竜王も申し述べていたが……そちらのしゅわしゅわの実という果実は、二つの世界の融合によって生まれた種であるのだ……それはサクヤの世界の実りと同様に、外界へ持ち出すべきではなかろうな……」


「承知いたしました。こちらの二種も名が不明であるという話でしたが、我々の世界の産物なのでしょうか?」


「うむ……我々には見分けもつかぬが、竜王には判別できるらしい……まあ、世界を融合させた張本人であれば、異界の要素を解析することも可能なのであろうよ……」


「なるほど」と、行商人は洞穴の内部を見回した。


「実のところ、私はこうしてこちらの山に身を置いても、世界の融合などという大それた術式の気配を感知することがかないません。……ただ、この雨でそうと察するばかりです」


「雨? 雨がどうかしたのぉ?」


「はい。外界では雨など降っておらず、空も晴れ渡っているのです。それが、こちらの山に足を一歩踏み入れるなり空は暗雲に覆われて、豪雨に見舞われることになりました。これはまさしく、山中だけが異界と繋がっている証であるのでしょう」


 そういえば、咲弥がドラゴンと二回目のキャンプを楽しんだとき、予報にはなかった豪雨に見舞われた。あれは咲弥の世界の雨ではなく、ドラゴンたちの世界の雨であるという話であったのだ。どうやら今回は、その逆のパターンであるようであった。


「そっちは砂漠のど真ん中だから、滅多に雨が降らないって話だったもんねぇ。でも、こっちの世界ではちょうど雨が多い季節なんだよぉ」


「ええ。このひと月ばかり、こちらの山においては三日と空けずに雨が降っています」


 ルウの言葉に、行商人は再び「なるほど」と首肯した。


「ともあれ、異界にまつわる品に頼らずとも、こちらの山には価値のある品が数多く存在いたします。私としては、何としてでも商談を成立させたいところです」


「参考までに、こちらがどれだけの品を準備すれば、商いは成立するのでしょう?」


「そうですね。輸送の手間を考慮しますと……こちらの木箱四つ分の品を準備していただければ、半月に一度の取り引きで利益が生じる計算になります。こちらが準備できる品の上限は、その倍ていどでありましょう」


「半月の間に、木箱四つ分から八つ分の間ということですね。どの品をどれだけ準備するかという条件については、如何でしょうか?」


「それは準備された品目によって、こちらが対応いたします。たとえば、先刻挙げた品の中でもっとも高値であるのは『世捨て人の悦楽』であり、もっとも安値であるのは『サラマンダーの心臓』となります。『世捨て人の悦楽』の価格は『サラマンダーの心臓』のおよそ五倍ということになりますので、それに準じた品をお渡しする形になるかと思われます」


「なるほど。あらかじめすべての品の値段をわきまえておけば、公正に取り引きができるということですね」


「はい。あとは、見知らぬふた品の価値ですが……これは、私自身が値をつける他ありません。ですがこれらは砂漠に面した区域には存在しない品でありますため、味によっては『世捨て人の悦楽』と同等の値をつけるべきでしょう。あとは私に、それを売りさばく手腕があるか否かです」


 行商人とルウの間で、きわめて建設的な話題が繰り広げられている。

 そんな中、ケイが焦れた声を張り上げた。


「どーでもいいけど、いつになったらメシを食えるんだよ! もうとっくに中天は過ぎてるはずだぞー!」


 するとギューも切なげな眼差しになりながら、「ぎゅう……」と鳴き声をこぼす。咲弥は膝を折ってギューの頭を撫でながら、「ごめんごめん」と笑顔を振りまいた。


「今日はずいぶん、色んなことが重なっちゃったねぇ。ドラゴンくんたちが戻ってきたら、すぐに取りかかるよぉ」


 そうしてその後は陽菜たちに手を借りて、薪割りの作業を進めていく。それが終了したところで、ついに冒険者たちを背中に乗せたドラゴンが舞い戻ってきた。


「待たせたな。道中で聞き及んだが、この者たちは今回も宿賃代わりの品を持参したそうであるぞ」


「なんだよー! まさか、そっちでも味見が必要になるんじゃねーだろうなー?」


 ケイはそのようにぼやいたが、幸いなことに見知らぬ品は準備されていなかった。『精霊の寝床』、百里香、小麦粉、重曹、そして火酒という、以前にもプレゼントされた品々である。『大地の卵』や『老賢者の杖』はこちらの畑で栽培を始めると告げておいたため、それ以外の品を多めに準備してくれたとのことであった。


「いつもいつも、ありがとうねぇ。お礼に美味しい料理を準備するからさぁ」


 咲弥がそのように伝えると、ミシュコとトナは気恥ずかしそうにはにかんだ。テクトリとウィツィは相変わらずの仏頂面であったが、それでも彼らはさしたる用事もなく、こうして七首山を訪れているのだ。七首山とその住人にそれだけの魅力を覚えてくれたのなら、咲弥もめいっぱいの気持ちでもてなそうという心意気であった。


「さてさて。それじゃあ調理を開始したいけど……よくよく考えたら、行商人さんが持ってきてくれた食材は、まだ使えないんだよねぇ」


「否。今日の分の食材ぐらいは、畑の収穫でまかなえばいいのではなかろうか? 我々が食する分でまかなえば、コメコ族の取り分が減ることもなかろうからな」


「おー、なるほどぉ。じゃあ、そのついでで行商人さんにはコメモドキとヤツデモドキのお味を確かめていただこうかぁ」


「ありがとうございます。私が口にする分は、対価で差し引かせていただきます」


 ということで、まずは物々交換が実施された。

 こちらは『世捨て人の悦楽』『イブの誘惑』『ジャック・オーの憤激』『サラマンダーの心臓』の四品を差し出し、行商人からは『紫の悪夢』『オークの棍棒』『アリアドネの情愛』『夜のしずく』『蜂蜜酒』の五品を受け取る。『世捨て人の悦楽』が高値であるために、この人数でも十分な量を手にすることができた。


 問題は、それらの品々でどのような食事を仕上げるかである。

 本格的な調理は夜に持ち越すとして、まずは手軽に豊富な食材を楽しみたいところであった。

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