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暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅰ 孵化
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Ⅰ 孵化 -5

 


 ザシュッ

 空の放った短剣は、空気を切り裂いて、まっすぐ野ウサギの(くび)に命中した。

「すっげぇ」

 昂は興奮して駆け寄り、痙攣している野ウサギに止めをさしてやった。

「俺は狩りをしに来たわけじゃないんだけど」

 渋い顔で空が、文句を言う。

「分かってる。分かってる」

 昂はそう返しながら、笑顔で振り返った。

 空の身体能力はずば抜けていて、特にナイフの技術はピカ一である。この村では子どものころから狩りを仕込まれるので、皆それなりに腕はあるが、短刀を投げて獲物を仕留めるといった芸当は、専門職の狩師でもなかなかいない。

 昂はそれを見せてくれとせがんだのだ。

 空はだいぶ渋ったが、昂のしつこさに辟易し、やると決めたら早かった。前方を横切った野ウサギが、目をかすめたと昂が思った瞬間、短刀は投げられ、獲物は仕留められていた。

「どうして狩師にならなかったの?」

 何万回言われたか分からない質問を昂からされて、空はため息とともに回答した。

「狩りに興味がなかったから」

 それに……と続ける。

「薬師がいなかったら、困るだろ?蘭も凛も継がなかったから」

 自分の母親の名前が出てきて、昂は首をすくめる。自分には何の咎もないのに、何となく後ろめたい気持ちになる。

 そして、もう一人の名前。凛。

 母の妹であったらしい凛という人は、大人になる前に村から出て行ったらしい。

 らしい……というのは、蘭をはじめ、家のだれも語らないからだ。凛という存在も、よその大人の昔話の中で、ひょっこり出てきて知ったに過ぎない。いま、空が口に出したように。

 それゆえに、その存在はあやふやで、何かに宿る神さまのようだと昂は感じていた。

 そういえば、空も十年ほど、村から姿を消していた。

「ねぇ、空」

 空に話しかけようとすると、空は森の先の方を指さした。

「ほら、(せい)さんたちがいたよ」

 見ると、確かに空の師匠であり、昂の祖父である青が、岩のくぼみに張りついていた。その横では、陽が興味ぶかそうに青の手元をのぞき込んでいる。

「おい」

 夕の姿が見えないことに気が付いて、昂は急いで陽の許に駆け寄った。

「夕はどうした?」

 怖い顔で問う兄に、陽は焦る様子もなく、答える。

「その辺で鳥射ちしてるはずだよ」

「二人以上で行動するのが基本だろうが」

「してるよ、ほら」

 耳を澄ますよう陽が促すと、確かにシュッと矢を放つ音が聞こえてきた。

「覚えたての弓を使いたくて、仕方がないんだよ」

 それでもそわそわしている兄に、陽は呆れたように言った。

「そんなに心配なら、昂が夕を連れて行けよ」

 痛いところを突かれて、昂はバツの悪い顔をする。

 そんな兄弟を見て、空はニヤニヤしていた。

「ほら、見ろ、陽」

 青が急に声を上げ、くぼみに注意を向けさせる。そこには苔がびっしり生えていて、その苔が発光しているように揺らめいた。

「へぇ、ヒカリゴケ」

 空が面白そうに言う。

「綺麗だね」

 陽は感動したように言った。昂の存在など忘れたかのようだ。実際、ヒカリゴケの妖しい光は、昂の目も引いた。これは食べられたり、薬になったりするのかと聞くと、青は苦笑した。

「残念ながら、食べられないし、薬にもならない。人の役に立たなくては駄目かな、昂?」

 祖父の問いに、昂は決まり悪そうに首を横に振った。

「いや、駄目じゃないけど……」

 興味深そうにヒカリゴケを見つめている陽に、青はそばにあった薬草も教えている。

 この草は毒の持つ植物と形が似ているから、注意するように。花は違うから、花が咲く時期の方が見分けがつく。云々。

 大人にもなっていない弟に、薬師見習いに修行をつけるように教える祖父を見ながら、昂はため息をついた。

「どうした?」

 青が見とがめて、眉を寄せた。

「いや……」

 言いよどんでから、気を取り直して話そうとした時、陽が急に割り込んできた。

「俺、薬師になりたいなぁ」

 昂も含め、皆が陽を見た。陽が薬師の青に特に懐いていることも、草花が好きなことも皆が知っていた。だからこの発言は、だれも意外に思わなかった。空は結婚もしておらず、子どももいない。後継ぎがいないので、陽のこの意向は、皆万々歳だろう。

 本人にとっても、村にとっても、しっくり収まる。

 宙ぶらりんになった昂に、陽は笑顔で訊いてきた。

「昂は何になるの?」

 その笑顔は父親である信によく似ていた。

 分からない……と答えようにも、言いにくくなった昂が再び黙っていると、夕の元気な声が聞こえてきた。


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