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暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅰ 孵化
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Ⅰ 孵化 -6

 

「え?生業?わたしは石師になるよ。矢じりを作りたいし、川師と仕事ができるし」

 夕は結局、鳥は一羽も射落とせなかったようだ。それでも上機嫌だった。矢を射ること自体が、楽しかったらしい。

 夕に生業の話を振ったところ、石師になるとはっきり言われて、昂は面食らった。

「え、お前、織師じゃないの?」

「やだよ。小屋の中で、ずっと織機と向かい合っているなんて、気がおかしくなっちゃう。大体、なんで決めつけてるのよ」

「……」

 単純に織師の妹が可愛いと思ったなどとは、口が裂けても言えない。

 夕は母に似て気が強く、父に似て容赦がない。

「静が川師になるからか?」

 仕方がないので、別口から攻めてみた。

 三人の従兄でもある静のことを、夕はよちよち歩きのころから好きだった。

 川から水路を引いている関係で、川師と石師はよく一緒に仕事をする。

 先ほどの気の強さとは一転して、夕は顔を赤らめて下を向き、ぼそぼそと言う。

「そういうわけじゃないけど」

 そういうわけなのは、一目瞭然だ。

 残るは……織師。なんだかなぁ。

 機を織っている自分が全く想像できなくて、昂は顔をしかめた。

「昂が一番上なんだから、昂が最初に決めたらいいよ」

 自分が釘を刺したくせに、陽がしれっと言った。弟妹の希望を横取りするほどには、心を決められていないことを見透かされている。

 昂は腹立たしさと、自分のふがいなさに、舌打ちしたい気分だった。

「じゃあさ」

 空が急に口を挟んだ。

「俺、ちょっとガザに用事があるんだ。お前も一緒に行く?」

 何がじゃあさか分からないが、空の突然の提案に、三人は口を開けて空を見た。

「何しに行くのよ?」

「なぜ昂と?」

 同時に声を上げて空に詰め寄ったのは、昂ではなく、陽と夕だった。当の昂は状況が把握できず、空を見つめるばかりだ。

 昔は、村を出ることは死別と同じだと考えられ、縁故の者は永遠の別れに涙したという。それほどのことだった。

 今はそんなことはない。商売で外と行き来している者もいるし、知識技術を深めに、外に出る者もいる。

 現に昂の父、信は、村の外で石師の仕事をすることもあり、その時は何週間か村から離れている。

 それでも、基盤は村にある。自分の村での生業を獲得し、生活の基盤を村に置いた上で、何かの目的があって、村を出るのである。

 しかし昂は何者でもない。生業を決めてもいない。

 そんな人間を、何をしに連れて行くのだ。

 意味が分からない。

 三人の反応ももっともであった。

「薬草を届ける用事があるんだけどね、一人で行くのは寂しいんだよね」

 空は頭を掻きながら、子どもみたいなことを言う。だいたい、今までも空は外に出ていたが、いつも一人だったではないか。

 そう言うと、ああ、まぁね、とバツの悪い顔をした。

「まぁでも、昂、煮詰まってそうだったから、ちょっと外に出てみたほうがいいんじゃない?」

「ちょっとって」

 昂が呆れた声を出す。針森はガザ帝国とアウローラ公国の国境にある。そしてどちらの首都からも離れている。どちらの国にとっても辺境にある。一番近くの町に行くだけで、数日かかる。

 ちょっとお出かけでは、村を出られないのだ。

 昂は助けを求めるように、青を見た。青なら、ちょっと変わった弟子の戯言を窘めてくれるはずだ。

 青は昂と目が合うと、少し首を傾げて言った。

「いいんじゃないか」

 青がはっきりそう言ったのを聞いて、昂は意味が理解できなかった。

 いいというのは、なにがいいのだ?

「お前は、外の世界を見てきた方がいいかもしれん」

 青はそう言うと、薬草を摘む作業に戻っていった。

「来週には立つからさ、考えといてよ」

 空は軽くそう言うと、師匠とは少し離れたところに籠を置き、薬草を摘み始めた。

 昂たちはなぜか黙って、二人の作業を見ていた。


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