Ⅵ 破壊 -5
「ドムから都へ行くときも、見えたわ」
燦は、前方に聳え立つピラティウス山を目にすると、ほぉっとため息をついた。
「何回見ても、素晴らしいわ」
「ガザからは見えないの?」
身を乗り出さんばかりに、ピラティウス山に釘付けになっている燦に、ターシャは呆れたように声をかけた。
ピラティウス山を含むこの山脈は、ガザとアウローラ公国の国境になっている。
「この一番高い山は見えないと思う。見えていても、他の山の後ろになっているのかな。だから山脈全体で、黄神山脈とか、神々の山とは呼ぶけど、一つの山に名前はついていないの」
「へぇ」
「神々の山は、公国から見た景色の方が素敵だわ。特にピラティウス山の神々しさは、わたしでも感じる。ここを太陽神の聖地としたのも納得がいく」
素直に他国を褒める燦に、ターシャは目を細めた。
このおおらかさは、ガザが大国ゆえの余裕かしら。それとも燦自身のおおらかさなのだろうか。
第一印象とは違って、燦が思ったより子どもっぽいことに、ターシャは驚いていた。好奇心が強く、王女としての立場を時として忘れ、誰に対しても質問する。気さくと言えば聞こえはいいが、王女としての威厳は薄らいでいた。
ただ燦はいつでも真摯だった。
その誠実さで、この人は信頼を勝ち取ることができる。
「ほら、神殿も見えて来たわ」
ピラティウス山に抱かれるように建っている、白い神殿が見えてきた。
また目を輝かせると思っていた燦の目は、しかし不思議な色になっていた。
「大神殿ね」
燦は低くそう呟くと、思い詰めたような目で神殿をじっと見ていた。
ターシャは何か言おうとして、止めた。触れてはいけないような気がしたからだ。
「何?」
それまで燦の隣で、置物のように黙って座っていた彩が、急に顔を上げた。
辺りを窺うように、首を動かしている。
「どうしたの?」
ターシャが眉を顰めて訊いた。
最初はナルにそっくりだと思ったが、数日一緒にいると、似ていないところも多かった。
顔立ちもよく似ていると思ったが、造作そのものは少し違っている。雰囲気がよく似ているから、一見、ぎょっとするほどよく似ているように見えるのだ。
性格は全く違う。ナルは慎重で、意外に周りに目を配っているし、気を使う。しゃべれないことを差し引いても、大人しい。
だが、彩はよくしゃべる。自分の意思をはっきり表明するし、自分が思いついたまま、急に行動するようなところがある。
「誰かに、呼ばれている気がする」
見えない目で、あちこち視ようとするように、キョロキョロしている。
「誰かって?」
ターシャが訊くと、彩は横に首を振った。
「奏かしら?」
燦がそう言うと、彩はまた首を振った。
「違う。もっと大きなもの」
ターシャと燦は顔を見合わせた。
全く分からない。
彩は、今度は、身を縮めて小さくなろうとした。
「……怖い……」
そう言って、震え出す。
「行きたくない?」
燦がそう訊くと、彩は顔を強張らせたまま、また首を横に振った。
「行かなきゃ。奏もきっと来るから」




