Ⅴ 神の血 -25
ガザ国王女とアウローラ公国第二公女は、二人きりで中庭にいた。もちろん護衛はついているだろうが、とりあえず彼女たちから見えるところに、その姿はなかった。
ターシャは、庭に置かれた椅子に座るよう燦を促すと、自分もその向かい側に座った。
ターシャはまっすぐ燦を見た。
「それでお話というのは」
真剣な顔で臨んでくる小さな公女に、燦は親近感を新たにするとともに、一種の畏怖の念を覚えた。この公女は自分が子どものくせにとか、子どもなのになどと、自分を決して卑下していない。当たり前のように、公女として、自分に接してこようとする。
「公国とガザの極秘会談ね」
燦がおどけて言うと、ターシャは頬を緩ませた。その緩んだ頬から、少女らしさが零れ落ちた。
「わたしがこの国に来たのは、わたしがあなたと仲良くなりたいからよ。もちろん友達がほしかったからじゃない」
ターシャが国を背負って自分に臨んでくるのなら、こちらもそれ相応に扱うのが礼儀だ。甘い、子守歌のような言葉でごまかすべきではない。
真っすぐ見つめてくる燦の視線を、ターシャは受け止めて頷いた。
「わたしの国の崑という一族が、あなたの国の者と結びついている」
ターシャの目が少しだけ大きくなった。
「それ自体は大事ではないわ。他国とつながりを持つのは悪いことじゃない。悪だくみしなければね」
燦の口が皮肉に歪んだ。
「悪だくみ」
ターシャが燦の言葉を繰り返す。燦は頷いた。
「崑がつながっているのは、ラウル・サボン。あなたの婚約者のお父様よ。ラウル殿はあなたを使って、息子をこの国の大公の座につかせようとしている」
燦がそう言うと、ターシャはムッとしたように口を挟んだ。
「そんなこと分かっています。ユースティスと違って、ラウル殿が強欲で野心家なことは、織り込み済みよ。だから、わたしたちのことにも手を貸してくれるわ。ユースティスは野心に欠けるかもしれないけど、潔癖で頭がいい。わたしたちは、ラウル殿の言いなりになどならないわ」
ムキになって、言葉遣いが普段のものに戻っている。燦は微笑んだ。可愛いと言ったら、怒るかしら。
「そうね。でも、それに崑が加わったら分からないわ。崑はラウルと共にこの国を手中に入れ、わたしたちにも脅しをかけてくる。ガザは正当な王族の血脈というものは存在しないの。力のある一族が、正当な王なのよ」
だから国を手に入れるために、なんでもしようとする。
ターシャは唇を噛み、一点を見つめていた。瞳は揺れていないし、潤んでもいない。
「崑とラウル殿が繋がっていることを、ユースティスは知っているかしら」
ターシャの質問に、燦ははっきりと答えた。
「全く知らないことはないと思うわ。現に、彼の館にいた聾唖の少年は、ラウル殿が崑から買った者よ」
「ナルが……」
初めてショックが顔に出たターシャを見て、燦は心の中でため息をついた。
あのユースティスという婚約者は、善良で頭はいいかもしれないけど、ちょっと呑気すぎる。
毅然とした公女は、今可愛い妹になっていた。
「大丈夫よ」
燦は姉のように鷹揚に微笑んだ。
「だから、言ったでしょ。わたしはあなたと仲良くなりに来たのよ」
ターシャがはっとしたように顔を上げた。
「つながりを持つために?」
そう訊き返したターシャを、燦は心の底からうらやましく思った。この子は、自分がつながりを持つ価値がある存在であると、疑いなく信じている。
燦は頷いてみせた。
「そうよ。悪だくみなしでね」




