↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅴ 神の血
129/151

Ⅴ 神の血 -23

 


 ラウル・サボンの館の裏口から少し離れたところに、館の庭園を管理する小屋がある。小屋の前には平板を渡しただけのベンチがあり、そこに庭師が足を投げ出して座っていた。ぼおっと遠くを見つめ、煙草をくゆらせている。こちらも、主人が不在とあって、気が緩んでいるのだろう。

 そこからは館の裏口がちょうど見えた。突然、裏口から小さな子供を背負った少年が出てきて、林の中に消えていった。

 馬の微かな嘶(いなな)きと、それを宥める声が遠くに聞こえ、その音が次第に小さくなり、そのうち聞こえなくなった。

 庭師はほっと息をつくと、立ち上がった。

「うまくいっているのか、空(くう)」

 急に声をかけられて、庭師姿の男は珍しく動揺した。近づいてくる気配に気が付かないなんて、とんだ失態だ。

 そんな失敗を前にしたのはいつだったか。庭師に扮していた空が振り返ると、同郷の男が腰に手を当てて睨んでいた。

 空ははぁっとため息をつく。

 この男なら、自分が気が付かなかったのも仕方ないかもしれない。

「なんで、こんなところにいるの、信?」

 空の言葉に、信の眉がピクリと動いた。

「お前がここにいるからだろう。公国嫌いのお前が、この国にいて、何か企んでいる」

 企んでいる、か。

 信にそれを言われると、押し殺してきた怒りが、不意に吹き出してくる。

「それを止めに来たって?昔、この国に仕えた身として?」

 せせら笑うように言う空に、信の表情が消えた。

「この国のことは知らん。分かっているだろう?お前が、俺の息子にちょっかいを出そうとしているからだよ」

 信は、昂たちが消えた林に目をやった。

 空は指に挟んでいた煙草をもうひと吸いすると、投げ捨てた。

「ちょっかい?どうやって?昂がこの国でどうにかなるわけがないって、信は知っているだろう?」

 空がそう言うと、信は無表情なままで頷いた。

「だからお前が何を考えているか分からん」

 空は嬉しそうに鼻を鳴らした。それから、空も林の方を見る。

「息子を追わなくていいの?心配で来たんでしょ?」

 信は空の目を見た。空の目は澄んでいた。迷っていない者の目だ。

「昂は自分でどうにかできる。俺はお前の真意が聞きたい」

 空は微笑んだ。その微笑みがあまりにも静かで、信は驚いた。

 今までのやり取りを考えると、唐突ともいえる微笑み。不意を突かれて、信は言葉を失った。何もかも悟りきったような、凪いだ笑み。それでいて、一瞬で壊れてしまいそうな、儚い微笑。

 そんな微笑みを、信は昔見たことがあった。

 蘭の、あの時の、微笑み。

「信は俺の望みを知っているはずだよ」

 それは一瞬だった。

 痛みを感じたかどうかも分からなかった。

 信の意識は暗闇に落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。