↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅴ 神の血
126/151

Ⅴ 神の血 -20

 


 切迫した昂の心境とは裏腹に、ラウル・サボンの館の様子は、のどかだった。

 使用人たちは裏庭に集まり、腰を下ろして一服している。側にはやりかけの薪割りが放り出されていた。

「天国だな、今日は」

 使用人の一人がうまそうに煙草をくゆらせながら、至福の煙を吐いていた。

「お館様、いつごろお戻りになるんだっけ」

 顔にそばかすが広がった少年が、きょどきょどと目を左右に動かしながら言った。昂とそう変わらない年頃だ。それにしては、落ち着きがない。

「あと、二、三刻は戻って来ないよ。何と言っても、大公さまの館でのパーティだ。帰れと言われたって、なかなか帰らんだろうよ」

 恰幅のいい女が、嘲るように言った。

「だけど、戻って来た時に、仕事が終わってなかったら……」

 少年がおびえるように言った。

 叱られることがよくあるのだろう。今にも主人が帰って来るのではないのかというように、チラチラと表の方を気にしている。

「大丈夫だよ。臆病者だね、あんたは。こんなチャンス、なかなかないんだよ。いつもこき使われて、ビクビクしてさ。たまには、羽を伸ばさなきゃ」

 ユースティスの父親なら、今日、会食に呼ばれているはずだ。当然と言えば当然だが、思いつかなかった自分に、昂は苦笑した。

 少し、焦りすぎだな。

 昂は呼吸を整えた。

 使用人たちが自分たちの話に夢中になっている隙に、昂は館の塀を登った。昂の視界から使用人たちの姿は見えなくなったが、あちらからも、昂のいるところは死角になっているはずだ。

 そのまま、塀の中にするりと入り込んだ。

 そろそろと裏口に近寄る。

 使用人たちは完全に裏口に背を向けていた。女の使用人の口からは話が次々飛び出していて、最初は抑え気味だった声も、次第に大きく高くなっていった。男たちも相槌こそ面倒くさそうにつくが、女の話にすっかり耳を奪われていた。

 少年は女の迫力に身を縮めるようにして、丸まって座っていた。

 皆の意識が女に集中している隙に、昂は扉が開いている裏口から滑り込んだ。

 女はまだ意気揚々としゃべり続けていた。

「そういえば、ユースティス様の所の子どもが、さっき連れて来られていたね。えらく小綺麗な格好をしてたよ」

「ああ、あの耳の聞こえん、唸ってた子か」

 男の一人が応じる。

「また、お館様の嫌がらせかね。ユースティス様の留守中に、連れて来たらしいよ」

「やれやれ、本人同士はいいがね。巻き込まれた子どもは災難じゃな」

「おい、坊主。お前、忍んでいって慰めてやれよ。歳が近いんだからさ。あの端っこの塔の部屋だってよ」

 男が笑いながら言うと、少年はビクッとして叫ぶように言った。

「やめてくれよ!見つかったら殺されちまう」

 男たちはギャハハと笑い、その話は終わりになった。

 昂は引っ付いていた裏口のドアと壁の隙間から身をはがし、静かに館の中を進んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。