↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅴ 神の血
123/151

Ⅴ 神の血 -17

 


 会食の直前に、昂が燦のところに来た。本当に直前だ。だから燦は、昂が自分を呼びに来たと思った。

 気合を入れて立ち上がった時、その力の入った顔を見て、昂がぷっとふきだした。

「せっかく綺麗なのに、そんなに鼻の穴を広げて気合入れてたら、台無しだろ」

 鼻の穴広げて?

 噛みつきそうになった燦の両腕を、昂は優しく抑えた。

「そうそう、それで大丈夫」

 優しい顔で笑った後、こう付け加えた。

「奏の居場所が分かった。あのユースティスって奴のところ。ユースティスもターシャも否定しているけど、奏の身が危ないんだ。俺、今から行ってくる。会食、一人で大丈夫か?」

 燦は目を剥いた。この時の為に、昂たちを連れてきたのだ。

 側にいてくれないのなら、連れてきた意味がない。

 だが、燦の口からはすぐに言葉が出なかった。

 昂たちが奏を探す為について来たことも、知っていた。それでいいと思っていた。二人がどんな想いで奏を探しているのか、自分は分かっているつもりだったからだ。彩を助ける為に必死だった、昂の姿を知っている。

 分かった。いってらっしゃい。こっちは大丈夫。

 そう言いたいのに、不安が燦の口に蓋をする。

 わたしは王女のなりそこない。心の小さい、化け物だ。

 昂は燦の顔を覗きこんだ。

「燦、また鼻の穴膨らんでる」

 昂の顔が間近にあって、燦は飛び上がった。

「大丈夫だよ、燦。ターシャと仲良くなるんだろ?」

 昂は燦の頭を撫でた。

「燦なら、なれるよ。あの子、いい子だよ。燦によく似てる。ユースティスの言うことはともかく、ターシャの言うことは信用できる。だから、自分の目で見てくるよ」

 昂はそう言うと、爽やかな笑顔を残して、さっさと出て行った。

「わたし、何も言ってないのに」

 燦はそう一人で呟くと、クスクス笑い出した。

 わたしに似ているって、どんな子だろう。

 出迎えてくれた時の、キラキラとした目を思い出した。その目で、あこがれを持って見つめられると、こそばゆくなってくる。

 ターシャと話すのが楽しみになっている自分がいた。

 昂は不思議だ。世間知らずとはいえ、燦が王女だと知った後も、変わらず接してくれる。悩むことが当たり前で、出来なくてもどかしい気持ちを抱える、同年代の女の子として接してくれるのは、昂だけだ。

 普通の女の子として接してくれるのが嬉しいなんて、それも王女としては失格だろうか。

 大丈夫だよ。

 昂の声が甦った。

 燦なら、大丈夫。

 王女でも、燦様でもない……燦なら、大丈夫。

 燦は背筋を伸ばすと、ゆったりと椅子に座りなおした。



 皆が燦王女の可憐さにため息をついた。

 エメラルドグリーンというのだろうか、鮮やかな碧(みどり)に、嫌味にならないほどの黒いレースをあしらったドレスは、彼女の淡い金色の髪を際立たせた。

 気取るふうもなく、構えるふうもなく、燦はターシャたちの待つテーブルに向かった。ターシャが立ち上がり、父を紹介した。

 一丁前に大公を王女に紹介する十歳の公女に、皆が微笑んだ。

 燦王女が席に付くと、和やかに会食が始まった。

 そこで皆が初めて、おやっと思った。王女の隣の席が二つ、空いているのだ。

「サン様」

 ターシャが声をかけた。燦は微笑んで応える。

「燦と呼んで、ターシャ」

 親しみのこもった声で言われると、ターシャは赤くなった。

「では、サン。ご友人もご一緒だとうかがったのですが」

 そう言って、空席の二つを指さす。

「ああ」

 と、燦は鷹揚に頷いた。

「一人が体調を崩してしまったの。もう一人は、その傍についています。まだ幼い少女なので。せっかくのお食事の席に呼んでいただいたのに、申し訳ありません」

「そう……ですか」

 先ほどの昂とのやり取りを思い出して、ターシャは内心戸惑った。準備があるからと言うので、会食に出席すると思ったのだ。臥せっていた少女はともかく、昂は出てくると思った。

 相手の言うままにそう思い込んでいたと気が付いて、ターシャは恥ずかしくなった。

 ユースティスの方をチラリと見ると、近くの者と談笑していた。ユースティスはさすがにサボン家の嫡男だけあって、こういう席には慣れている。十歳の公女との婚約者という、突拍子もない立場ながら、存在が浮くこともなく、場に馴染んでいた。

 ターシャの視線に気が付くと、周りに気づかれないように、空いた二つの席に視線を送ると、小さく肩をすくめた。

 ユースティスは、彼らが来ない事をある程度予想していたのだ。出席しないで、何をするかということを。

 ターシャは唇を噛んだ。

 いい気になって、自分は大人より有能だと思い込んでいた。わたしはやはり子どもだ。

 母タミアの言葉が頭をよぎった。

 あなたはきちんと子どもであることを、自覚しなさい。

 ターシャの顔を注意深く見ていた燦は、クルクルとその表情が変わっていくのを、しっかりと見ていた。

 その心の移ろいが、燦には手に取るように分かった。

 自信と落胆、それに羞恥。

 でも、この子の目は何て強いんだろう。

 負けないように、唇を噛んでいる。わたしにそんな強さはなかった。

「ターシャ」

 燦は親しみを込めて、公女に呼びかけた。

 ターシャがパッと顔を上げた。真っすぐ燦を見つめてくる。その強い眼差しに、燦も内心頷いた。

 確かに、この子は信用できる子だ。

「改めて、この国に呼んでくれてありがとう。あなたに会うことができて、本当によかったわ」

 そうして口元をターシャの耳に近づけて囁いた。

「あなたに話があるの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。