Ⅴ 神の血 -15
ターシャは公舎の裏手にある、裏上門の前で、柄にもなく緊張していた。隣にはやはり緊張した面持ちの、ユースティスがいる。
ユースティスの館で一報を受けてから、とぶように公舎に戻った。納得したとは到底言えない疑問を胸に抱えたまま、ターシャは急いで着替え、ほとんど息を弾ませながら、裏上門にたどり着いた。
私的な招きなので、正門ではなく私邸に近い裏上門で館内の者だけでの出迎えである。
大公である父は、後程会食に加わることになっていた。
高まる興奮と不安で、ターシャは心臓がドキドキと音を立てているのを感じていた。
自分は、自分で思っているより、肝が小さいのかもしれない。
ターシャがそんなことを考えていると、出迎えの先の方に立っていた近衛兵がざわめき、姿勢を正し始めた。次いで、ガラガラという馬車の音と共に、蹄と車輪で立つ砂埃が見えてきた。やがて先導する馬と馬上の人物が見えた。
その一団は出迎えの人達を目にして、速度を落とした。だが、ターシャは、あっという間に馬車が目の前に来たと感じた。
ターシャはごくりと、唾を呑み込んだ。手がじっとりと汗ばんできた。王女が姿を見せたら粗相は出来ない。ターシャは馬車の扉が開く前に、そっと手のひらを拭った。
馬車が止まると、最初に若い男が降りてきた。公国では珍しい金髪が目を引いたが、ターシャの目は、その男に手を取られて降りてきた、ガザ国の王女に奪われた。
可愛らしい。
大国の王女だから、もっと圧倒される何か、華やかという言葉の、威圧感のようなものがあると思っていた。
だがガザの王女には、親しみやすさと軽やかさがあった。
十歳のターシャが言うのもおかしな話だが、可愛らしい方だ、というのが第一印象だ。
ガザの王女は、馬車から降りた瞬間に、今回招いてくれた第二公女を見出した。
躊躇することなく、一番にターシャに微笑みかける。
「はじめまして、ターシャ。お招きいただいて、ありがとうございます」
その微笑みは、清々しい風をターシャに送った。はにかみながら急いで笑顔で返そうとしたターシャは、王女の後ろで、金髪の若者に抱きかかえられるように下ろされた少女に、釘付けになった。
目が見えないようで、瞼が降りている。明らかに少女だ。絶対に違う人間だと、ターシャも分かっていた。
何より、今この時に、王女以外の者に目を向けてはいけない。
分かっていても、思わず声が出てしまった。
「ナル?」
その少女は、驚くほどナルに似ていた。
オモイダセ
ああ、この声はいつか聞いたことがある。
身体の奥から響いてくる声。
オモイダセ
何を思い出すんだろうか。大切な何か。
自分たちに関わる何か。
でも、決して思い出してはいけない。
オモイダセ
このままでは引っ張られてしまう。
カミサマに。
オモイダセ オモイダセ
どちらが自分だろうか。
わたし(ぼく)は……




