↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅴ 神の血
118/151

Ⅴ 神の血 -12

 


「見えて来ましたよ。あれが都です」

 馬で並走するナナライが、馬車の中に声をかけた。昂、燦そして彩が馬車から外を覗くと、小高い丘の上に白い壁が太陽の光を受けて、光っていた。そのすぐ下近くに、市街地が広がっている。割とごちゃごちゃした町だ。かつて白亜の城と呼ばれた公舎に、町がしがみついているような感じを、昂は受けた。

 国の端であるドムから、都に向かって馬車を走らせているとよく分かったが、アウローラ公国は町や村が少ない。一つの集落の人口は少なくはない。だが集落の数が少なかった。走る先々に広がるのは荒れ地と右手に見える神々の山。こちらではピラティウス山といったか。進んでも進んでも、変わらぬ景色が続いていた。

「この国は荒れ地が多いですからね」

 休憩の折、ナナライに尋ねると、そんな答えが返ってきた。海から吹いてくる潮風で、作物が育ちにくい土地なのだ。よってわずかに条件が良い場所に、人が密集する。

 確かにガザとは比べ物にならない小国だ。

 だが、神殿の数は多かった。人が住んでいないところにまで、小さな神殿があった。ただし、廃墟と化した元神殿も多い。

「太陽神国からアウローラ公国になってから、手厚かった神殿へ援助も減らされていって、小さな神殿は続けることができなくなったんですよ。小さな神殿から、神官や巫女が他の神殿に移っていく。周りに人がいないなら、尚更です。神殿は信者に頼るしかないからですね」

 ナナライは、たいして残念でもなさそうに説明した。

 凛がかつてこの国の巫女姫だったことは、昂も聞いて知っていた。だが、いまいちよく分からなかった。針森の村は太陽神への信仰が薄い。巫女姫と聞いてもピンと来なかった。

 だが、集落より多く見かける神殿、更には朽ちて行く神殿を見ると、じんわりと実感が湧いてくる。巫女姫は、凛を最後にいなくなったと聞く。

 神が去っていった。

 忘れられたような、さびれた神殿を見ると、信仰心のない昂でも、ふとそう思ってしまう。

 休憩から後、馬車の中では誰もしゃべらなかった。燦も物思いに耽るように、ぼんやりと窓から景色を見ている。

「神さまはいるよ」

 ふと彩が呟いた。昂は自分の頭の中を覗かれたのかと思って、ぎょっとした。

 一瞬、閉じられているはずの彩の瞼(まぶた)が、開いているように見えた。見えないはずの彩の眼(まなこ)を見た気がした。慌てて、昂が瞬きしてもう一度見ると、彩の瞼は降りていた。

 昂は目をこする。

「どういうこと?」

 燦が彩に訊き返す。燦は彩の目には気が付かなかったようだ。

 目の錯覚だったのか?

 昂が見極めようと、彩の顔をじっと見つめたが、彩の顔は普段と何ら変わらなかった。

 彩は何も答えずに、昂にもたれて眠り始めた。

 昂と燦は顔を見合わせると、どちらからともなく、二人で首を横に振った。


「おい、大丈夫なのか」

 ナナライは、後方についていた兵の馬に近寄って、囁いた。

「あれは、どう見たって」

 ちらりと馬車の方に目を向ける。

 兵は馬上でククッと肩を震わせて笑った。

「あんたでも、そう見える?じゃあ、一目瞭然だね」

 馬の蹄(ひづめ)の音に紛れて、その声はとぎれとぎれにしか聞こえなかった。

 ナナライが訊きなおそうとすると、向こうが先に声を張って言った。

「大丈夫ですよ」

 有無を言わせない言い方に、ナナライはすごすごと持ち場に戻った。

「お前が言うから、不安になるだろうが」

 ナナライの呟きもまた、誰に聞き咎められることはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。