↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の皇子  作者: さら更紗
Ⅴ 神の血
108/151

Ⅴ 神の血 -2

 


「姫様に付いて、アウローラ公国へ行ってくれ」

 泣く子も黙る国軍大将が低い声を出したので、良は思わず息を呑んだ。

 訓練の後、渋い顔をした大将が近づいてきたときは、肝が冷えた。しかも、自分で言い出したくせに、気に喰わない様子がありありと見受けられる。

「アウローラ公国……ですか?」

 恐れている風も、臆している風もなく、昂が答えた。櫂を正面から見つめている。良は昂を密かに称賛した。

「姫様が公国の公女さまに招かれて、赴くことになった。隼には先に公国に入ってもらう。姫様に護衛はつけるが、側に付いている者が欲しい」

「で?俺ですか?」

 釈然としない顔で昂が問うと、櫂も釈然としない顔で頷いた。

 説明しようと、櫂は口を開きかけたが、途中で放棄した。

「知らん。姫様が、お前たちがいいと言うのだ」

「お前たち?」

 切れた櫂を見ながら、昂が首を傾げると、櫂は後ろにいた良を指さし、それから城の西側に指を向けた。そちらには彩の部屋がある。

 彩も?

 昂は眉を顰めた。

 せっかく安全なところに落ち着いたのだ。また連れ出すのは、嫌だった。

「王妃様が賛成なさった」

 吐き捨てるように言った櫂の不機嫌な顔を見ながら、昂は頭を巡らせた。

 空(くう)のこと……そして、取り返さなくてはならない、彩の片割れ、奏(そう)。


 アウローラ公国の第二公女から、婚約を知らせる書簡と、年が近い燦にぜひ我が国に来てほしいという招待状が届き、櫂は頭をひねりながらガザ王炎のところに持っていった。炎は一読すると、凛と燦を呼ぶように、侍従を使わせた。

 自治領とはいえ、属国に近いアウローラ公国が、ガザ国の王女を国に呼びつけるのは礼を欠いている。普段なら一蹴することも出来たが、婚約の祝いの席への招待なら話は別だ。

 祝い事の招待を拒むことは、両国の親交に差し障る。

 しかし微妙なのは、はっきりと婚約の祝いの席の招待とは言っていないことだ。婚約をするという知らせと、国への招待とは別々の書簡に書かれていた。

 しかも第二公女は十歳だ。

 やっかいなこの書簡に、櫂が眉間に皴を寄せている所で、当の本人があっさり承諾した。

「わたし行きます」

 燦ははっきりとそう言った。悩む様子も見せなかった。

 姫様は事が分かっていないと思った櫂は、書簡の胡散臭さも、第二公女が十歳であることも伝えた。

 だが、燦は考えを変えなかった。

「十歳ね、なるほど確かに歳は近いわね。大人たちよりは」

 ねぇ、櫂、と燦は先を続ける。

「公国がわたしに何かを企てて、何の得があるというの?」

 確かに燦を害すれば、アウローラ公国は一瞬でガザに押しつぶされてしまうだろう。

「わたしを招待してくれたのよ。わたしはその第二公女に会ってみたい」

 燦のその言葉を聞いて、櫂は黙って座っている炎王に目を向けた。

「と、おっしゃっておられますが」

 その目は王に対してというよりは、お前の娘を何とかしろと文句を言っているようであった。

 目を閉じて考えていた炎は、おもむろに目を開けると、首をひねった。

「うーん、分からん」

 そう唸ると、一同を見回した。そして最後に燦を見ると、頷いた。

「婚約が本当なのか、お前に会いたいのが本当に公女なのか分からん。だから、公国を見てきてくれるか」

 ついこの間まで、娘が城を出ることを許さなかった父王とは思えない言葉に、燦は驚いて目を見開き、櫂は思わず立ち上がった。

「何、言ってるんですか?そんな分からんところに、姫様を遣るわけにはいかないでしょう!やっと、家出から戻られたというのに!」

 家出と言われて、燦は思わず俯いた。

「あれと、今回は違うよ」

 宥めようとする王に、櫂は怒鳴りつけたくなった。

 この間まで、娘の家出に消沈していたのは、どこのどいつだ。

 炎は口の端を持ち上げた。こういう顔をする時は、炎が王として攻めている時だ。

「燦と第二公女殿が親密になれば、それは我が国の利にもなる」

 炎はそう言ってから、ちらりと櫂を見た。

 あ、やられた。櫂は観念した。

 国に貢献できるという言葉は、今の姫様には一番効く。これを言われたら、是が非でも行くと言ってきかないだろう。

 案の定、燦の目の色が変わった。

 櫂はあきらめて、王妃を見た。

「凛様もよろしいんですか?」

 先ほどから、一人だけ涼しい顔で成り行きを見守っていた王妃は、微笑んだ。

「ええ、もちろん」

 もちろん、ね。

 櫂は内心舌打ちしながら、話を進めた。

「では、隠密を先行させましょう。隼も連絡係として出した方がいいが、そうなると姫様の側が……」

「昂たちがいい」

 櫂の話の途中で、燦が話を割った。

「はい?」

 櫂が思わず素で、問い返す。

「昂と彩と良を連れて行く。わたしの側に付いていてもらえれば、心強い」

 きっぱりと言う燦に、櫂は頭を抱えた。

 なぜ、あの三人?

「姫様、遊びに行くんじゃありませんよ」

「分かっている。だから気心が知れている者がいい。公女様と仲良くならなくてはならないんでしょう?」

 いや、駄目だ。大公の息子である金髪の少年を、アウローラ公国に入れてはいけない。しかも、王女と一緒に。

 櫂が炎を見ると、炎の顔も引きつっていた。

「あの三人は駄目だ。大体、お前の警護にはならないだろう」

「護衛は別につければいいわ。わたしは近くにいる者が欲しいの。公女様の部屋に兵を連れて行くわけにはいかないでしょう」

 こんなに我を通そうとする燦は珍しかった。珍しい娘の姿に、炎は気圧されてしまう。

 昂が大公の息子であることを、燦に言ってしまうべきか。

 二人がそう思った時、凛が口を開いた。

「連れて行けばいいわ」

 凛は相変わらず、涼しい顔をしていた。

「友人なんでしょう?ターシャには、わたしから伝えておくから、皆で行ってらっしゃい」

 第二公女の名前を親し気に呼ぶ王妃に、一同は呆気にとられた。凛は皆の顔を見渡すと、微笑んだ。

「そうしないと、何も始まらないし……何も終わらないわ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。