91 盗賊退治2
国王の執務室を出た後、認識阻害をかけ、ルーズの宿へと再び転移する。
もちろん言うまでもなく、私とテアはお互いだけ認識できる。
「リンか」
「テア。ありがと。ところで、こいつ?」
「こいつじゃ」
「こいつかぁ…」
私の前には例の見張り役の男がいる。
「なんか弱そうだね。これで見張りなんてできてるの?」
「さぁな。リンや妾に比べりゃ、みな弱いじゃろ」
「それもそうだ」
そうこうしていると、ジェルドさんが宿から出てきた。
今から向かうのは、商業ギルドだ。
ジェルドさんは紹介状のようなものを渡されており、それを受付に渡すと、商業ギルドの悪者がお出ましになるということだ。
しばらく後をつけると、商業ギルドについた。
でっかぁ〜〜。
こりゃ王都の商業ギルドよりもでかいわ。
ルーズはグレイス国領土の南方位の境界に当たる部分だ。
他の国への流通も、この街からの荷物がかなりの量を占めている。
そりゃこんなにデカくなっても不思議じゃない。
……っと。ジェルドさんが中に入っていく。
受付に紹介状を渡すと、奥から1人の男が出てきた。
こいつの顔と魔力も覚えておこう。
ジェルドさんが何やら手続きをしている。
よく見てみると、護衛契約と荷馬車の配達依頼だ。
ジェルドさん側から依頼しているという形になってる。そりゃそうか。
なるほどね。契約させておいて、言い逃れできないようにしてあるってことかな。
しばらくすると、護衛らしき人が現れ、ジェルドさんと共に商業ギルドを出る。
あの護衛も弱そうだね。
「じゃあ、テアどっちやりたい?」
「どっちでも構わん」
「じゃあ年長にラクな方を譲るね」
「そんなこと言うでない。妾が年寄りみたいではないか」
「うそうそ。私が側についてるって約束したから、テアは小屋見張ってて。もし、生きてる人たちに危害が加わるようなら、作戦のことなんて考えないでいいから」
「まぁそう慌てるでない。妾のことを信じよ」
「うん。もちろん信じてる」
テアと、しばしの別れだ。
テアは盗賊の小屋へと転移する。
何か起きた時に対処するためだ。
私はこのままジェルドさんを見守る。
3時間ほど経った頃。
悪人護衛を連れ、街を出たジェルドさんだったが、特に何事もなく小屋へとたどり着いた。
しかし、一つ気になったことがある。
なぜかやたらと迂回していた。
森の中なんて、そうそう人がいることはない。
やましい事をしているとは言え、森の中でまで無理に迂回する必要はないと思う。
さらに変なことに、人どころか、魔物の気配もなかった。
普通、これだけ森を彷徨っていれば魔物の1匹や2匹出てくるはずなんだけど…。
何か理由があるのかもしれないが、それは後回しだ。
とりあえず今のところはテアからも連絡は来ていないし、何も異常はなさそうかな。
『テア。もう近くまできたよ』
『こちらは何もなかったぞ』
『退屈じゃなかった? 寂しくなかった?』
『何を言っておる、さっき別れたばかりではないか』
きっと、時間感覚がバグってるんだ。
寂しくなかったわけじゃないと思うんだ。
そう信じてるよ。
とりあえず、私も便乗して中に入る。
……なるほど。
どうやら、ジェルドさんと同じ境遇の人が他にもいるみたいだ。
いちいち会話して確認できないが、見たところジェルドさんを含めて5人。
皆が同じような険しい顔をしている。
どうやら集団でやらせるようだ。
まぁ私が街に入った時に見た光景を考えれば、その方が自然だ。
それに、別の街へ買い出しに行く時、ついでに何人か集めて自分たちの街のものを売りに行くのは、よくある光景だ。
きっと事情を知らない人が見れば、そう思われるのだろう。
ここにいる人は皆男だ。
ジェルドさんの場合は子供と孫だが、恋人や妻、他にもいろいろ人質に取られている可能性もある。
女を攫って男を誘き寄せる。
なんとも最低な奴らだ。
ジェルドさん達は、荷物が置かれている小屋の一階部分で待機させられている。
すると何やら会話が聞こえて来る。
「もう少しすれば馬が来るからな。そうすれば出発だ」
「ったく、めんどくせぇ話だ。まぁ金がもらえれば構わねぇがな」
「お前はいつまでこの仕事やるんだ?」
「俺たちも本業は冒険者だからな。例のギルマスの部下がヘマして捕まったみたいだし、そろそろ引き際だぜ」
どうやら護衛してきたのは、本当に冒険者みたいだ。
冒険者にもこんな汚い仕事するやついるんだね。真っ当な冒険者が見たら悲しむよ。
「にしてもあいつらは荷馬車を襲撃するだけでこんな昼間から飲んだくれてて、いい身分だよな。全く」
「ほんとそうだよな。俺も冒険者やめてこっちを本業にしたいぐらいだ」
こんなクズに憧れてる時点で、こいつらの末路もわかったもんじゃないね。
『テア。そっちはどんな感じ?』
テアは今、地下にいる。
『奥まで来たのじゃが、どうやら人が捕らえられていたようじゃの』
『ってことは、私たちが見捨てて来ちゃったってことか』
『まぁそうなるが、あまり気を負うでない。皆無事のようじゃ』
『そっか。一応、みんなにヒールかけてあげてくれない?』
『すでに終わっておる』
『さすがだ』
有能な家族は心強いね。
『テアは人質にされてる人に付いててあげてくれない?』
『よかろう。ちょうど試したいこともあったのじゃ』
『うん?』
『ふふふ。内緒じゃ』
『あとで教えてよね!』
『気が向いたらの』
もーっ!!
まぁ、可愛いから許すよ。
───コンッ。コンコンコンッ。
扉がノックされる。何かの合図みたいだ。
「おい! 行くぞ! 早くついてこい」
どうやら、出発の合図だったみたいだ。
扉を開けると、荷馬車が準備されていた。




