86 手がかり
授業を3日間ほど乗り切った。
今日は休みだ。
飛行魔法を練習しようとも思ったんだけど、自主訓練中にある程度使いこなせるようになってきた。
私どころか、2人も自主訓練で特訓した結果、飛行魔法をある程度習得していた。
問題があるとすれば、同時にある程度強力な魔法を使うことができないということだろう。
それは私とて同じだ。
2人に比べれば強力な魔法を放てるだろうが、仮にテアのような強さの相手と空中で戦うとなれば、絶対的に不利だ。
というわけで飛行魔法はさて置き、今日は私とテアの2人(?)でルーズへと向かう。
「あの2人を説得するのがどれだけ大変だったか……」
「シーナもセリも、悪気があるわけではなかろう。本当にリンのことを好いているからこそ、わがままになるのじゃよ」
「それはわかってるけどさぁ…」
今回、シーナとセリはお留守番だ。
理由は主に一つ。
あまりにも危険すぎるからだ。
セリはともかく、シーナは一応貴族。
今回の砂糖盗賊騒ぎは、商業ギルドマスターはともかく、貴族まで絡んでいるという。
もし、ややこしい時にシーナの存在がバレてしまってはノインさん達にまで被害が出るかもしれない。
私も積極的に揉め事を起こすつもりはないが、盗賊をしている連中がまともに会話できるとは考えていない。
戦争とまではいかないにしろ、多少は事を荒くしてしまう可能性がある以上、シーナを巻き込むわけにはいかない。
それに、あまり2人に過激な真似はさせたくない。
こういう事をするには、さすがにまだ早いと思う。
私?
大丈夫よ。精神年齢はアラサー。
それに、色んなアニメを見てきたので耐性も強い。
虫は絶対に無理だけど。
「王都からルーズまでは一本道だって言ってたけど、どうする?」
「散歩がてらに少し飛び回っても構わんぞ?」
「じゃあ乗っけてくれない?」
「構わんが、リンは魔法を使わなくてよいのか?」
「テアにひっつけないじゃん」
「わがままなやつじゃ」
私とテアは認識阻害の魔法をかけ、空からルーズの街へ向かうことにした。
道中、私たちは道からかなり逸れた森の上を飛んでいた。
魔物も結構な数いるようだ。
どうやらこの世界は予想通り、全体的に強くなっていってるようだ。
責任を感じないこともないけど、以前に『シーナを助けた意味を考えろ』と言われたことを思い出し、自分を責めるようなことはしなくなった。
そんな事を考えていると、何やら小屋のようなものを見つけた。
「ねぇテア。あれ何?」
「よく見てみるんじゃ」
テアが『よく見ろ』という時は、探知魔法を使ったりして、視覚以外の情報に注意しろということだ。
探知魔法を使ってみる。
なにこれ。
地下?
「こんな山奥に小屋があるだけでも不思議なのに、地下にしか反応がない?」
「それもかなりの人数じゃろ」
「うん。まぁ山奥は魔物が多いから隠れてるって事?」
「わからぬが、行ってみるのも良いかもしれんぞ」
まぁもし遭難とかしているなら、助けてあげたい。
行ってみよう。
一応警戒のため、初めは認識阻害をかけたまま近づく。
ちなみにテアは私の肩に乗っている。
小屋の前まで来た。
一周まわるが、不自然なことに窓がない。
そのため中の状況がひとつもわからない。
入り口の前まで来たが、扉に鍵がかかっている。
南京錠だ。
うーん。どうしよ。
ここにいる人が全員遭難者だった場合は、鍵が閉まってるからという理由で見捨ててしまっては示しがつかない。
開けよう。
南京錠を開けるため、ちょっと力を込めてみる。
……無事に開いた。
どこかで、開かないでいて欲しいと思っている自分がいた。
もう、私の存在がみるみる脳筋になっていく。
扉を開ける。
誰もいないことは分かっていた。
が、それよりも惹かれるものを見つけた。
「これ砂糖よね」
テアが匂いを嗅ぐ。
「そのようじゃ」
「鼻もいいのね」
「当然じゃ」
砂糖が大量に置いてあったが、他にも様々なものがある。
これ全部盗まれたやつかな。
─────コンッコンッコンッ…
誰かが地下から上がってくる音が聞こえる。
「私たちの声は聞こえないはずだけど、扉の音で気が付いたのかな」
「そうかもしれぬの」
「ちょうどよいし、妾たちも下にお邪魔しようではないか」
テアが私の中に入ってくる。
─────ガチャッ
地下へ繋がってる扉が開く。
「ディル、帰ってきたのか? …ってあれ?」
地下から出てきた男が困惑している。
よし、今のうちにお邪魔しよう。
私はそっと、開いた扉から地下へと降りていく。
結構広い。
人数は、さっきの男を含めて32人か。
奥にも人が結構集まってるね。
だいぶ騒がしい。
うーん。
こいつらが仮に盗賊だったとして、今すぐ国王なり軍隊なりをここに転移させてしまえば、こいつらは捕まえられるかもしれない。
けど、ルーズの商業ギルドマスターの関与まで暴くのは難しいかも。
俺は知らないと言われれば、それでおしまいだ。
ここに問題のギルマスがいれば問題ないんだけど、さすがにそうもいかないよね。
とりあえず証拠を集めるか。
物色し始めて間もなく、何やら襲撃の計画書のようなものが出てきた。
この場所は安全だと思って安心しきっているのか、いたるところに置いてある。
一つぐらい拝借してもバレないよね。うん。
どれどれ。
次の襲撃は…
明日じゃん。
というか、ほとんど毎日やってるじゃん。
砂糖だけじゃなくて、他にも色々やってる可能性が高いぞこれ。
「それにしても噂なんだが、ディルのボスはルーズの商業ギルドマスターらしいぜ」
地下にいた男達が、なにか気になる会話をし始めた。
「まじかよ…。ディルが頭じゃねぇのか。通りで順調に仕事ができるわけだよな」
「まぁ、噂だけどな」
「そういやディルは何やってんだ?」
「その噂のギルマスから何か別の依頼があったんじゃねぇか?」
「なんでそんなこと知ってんだよ」
「こないだ、街中で女を襲った3人組が酷い有様で見つかったって言ってただろ?」
「あぁ」
あ、ノーエさんを攫ったので私がボコボコにした奴らのことかな?
「あれがどうやらギルマスの部下らしい。そいつらが失敗した分がディルに回ってきてるっていう話だ」
「なるほどな。けど、信用できる情報なのか?」
「あそこで聞いたから間違いねぇと思うぞ」
あそこ……?
悪い奴らが集まってる酒場のことかな。
てかこの話を聞く限り、まさに今、そのディルってやつが女の子を攫ってるってことだよね。
うーん。
もちろん止めたいけど、さすがに広い街中全てを見回ることなど不可能に近い。
そういうのは兵士や門兵がしてくれているだろうし…。
それに、実際私があの3人をボコボコにしたけど、こうして他のヤツが同じようなことをしている。
下っ端を何人も潰しても、上を潰せない限りは同じことの繰り返しだ。
私の探知魔法を使えば、この世界のどこにいたところで人探しはできるけど、事前にその人物の魔力を感じる必要がある。
とは言え、誰が攫われているかもわからないのでこの方法は無理だ。
今攫われているかもしれない子を見捨てたいわけではないけど、こればかりはどうしようも無い。
どちらにせよ詰んでいる。
「ここは情報を集めるだけにしておいた方が良いじゃろ。変に動くと余計面倒になる」
「テアもそう思うよね」
テアの助言もあり、とりあえずは襲撃予定の日時、場所が書かれてある紙を拝借した後、転移魔法で小屋の上空へと離脱した。
さてさて、ここからは少し盗賊退治のお話が続きます。




