81 尊厳、再び
「お〜あっ!…ヒクッ! あらよっと! ヨイショ〜! ─────おい! 何を座って…ヒクッ! いる! 皆も手伝わぬか!! 王族ともあろう人間が、ヒクッ! 客1人もてなせんでぇ! どうす─────」
私は今、地獄を目の当たりにしている。
さて、最初から話そう。
料理はどれも美味しく、皆との会話も弾み、大変満足な内容だった。
それはそうと、国王が馬鹿みたいに酒を飲んでいた。
その様子を見たマイシアさんが「ほんとに恥ずかしいわ」と、止めようとしていたのを、私が「仕事も終わって息抜きをする時間も必要ですよ」となだめると、「後でどうなっても知らないわよ」と言われた。
食事も終わり、しばらく世間話をしていたところ、何事もなく無事に帰れると思っていたのだが……。
国王の一言が場の空気を変えた。
「ガッハッハッハ!! ハッ!? ───リンは客に当たるのか。…ヒクッ! …これはなにかもてなさんとな……」
その一言で私とテア以外の顔が凍りつく。
─────バンッ!!!
突然国王が立ち上がり、護衛用につけていたであろう、双剣を取り出す。
「─────食事と言えばァッ! ……ヒクッ! 演芸だァッ!!!」
すると突然、双剣を器用に空中で回し出し、ジャグラーのようなことを始めたのだ。
食事と言えば演芸…?
そんなしきたりあったの…?
「ほら、始まったわ」と、マイシアさん。
「あんな風にはなりたくないね」と、ケイアさん。
「恥ずかしい……」と、フレア。
「おとうさまはなにをしているの?」と、ニナ。
これ、誰がとめるの。
「ねぇフレア。これどうするの?」
「こうなったら、もう無理なんです」
「どういうこと?」
「これは、まだ序章なんです」
「うん?」
「父様は、ある御伽噺を1人で再現しているんです」
「うん?」
「あれは、物語の始まりです。あれは、世界が戦争で荒れ狂っている様子を現しています」
「ごめん。さっぱり意味がわからない」
「わたしもわからないので大丈夫です」
ダメだこの国。
すると、マイシアさんが話しかけてくる。
「しばらく見ているしかないわ。5分もすれば自分の世界に入るから。そこからまたお話ししましょう」
5分経った。
もう自分の世界に入ったようだ。
私たちが全く見ていないにも関わらず、お構いなしで1人芝居を続けている。
結局国王を除いたメンバーで話していると、かれこれ1時間ほどが経過していた。
その間にも、酒に溺れてしまった筋肉馬鹿の1人芝居が続いたことは言うまでもない。
さらにしばらく話し込んでいると、もうかなり遅い時間になった。
ちなみに国王は全演技がおわり、床で寝ている。
誰も助けようとはしない。
ひどい国王もいたもんだね。
「今日は本当にお世話になりました。私、今度美味しい食べ物を作る予定なので、完成したら持ってきますね! その時はみんなで食べてください」
そう、ラーメン作りの夢は諦めたわけじゃない。
「あら、噂の非常識なリンちゃんが作る食べ物なんて、どれだけ美味しいのかしら」
「ちょっと失礼ですよ!」
「うふふ。冗談よ。楽しみにしているわ」
「リンさん!私も楽しみにしています!」
マイシアさんもフレアも、本当に楽しみにしてくれているようだ。
「とは言ったものの、なかなか忙しくて……」
「ごめんなさいね。うちのあれが何か面倒な役を押し付けちゃったみたいで……」
「いえ、それはもうこの際いいんですけど、砂糖がなくなっているって街で聞いて。ちょっと色々探ってみようかなって思ってるんです」
「…リンちゃんならもう犯人は知っているかもしれないから、一応忠告しておくけど、バルナは相当厄介よ」
「それほどなんですか」
「えぇ。何やら太いパイプを持っているようでね。それも貴族よ」
「えっと、国は動けないんですか?」
「証拠がないのよ。だからわたしたちも、いくら王族とは言え無理な処罰は与えられないの」
「手強そうですね」
「気をつけて。何かあったらすぐにわたしたちを頼るといいわ」
筋肉馬鹿と違って相当頼り甲斐がある。
うん。最後に一応聞いておこう。
「そろそろ帰ろうと思うんですけど、あれは放っておいていいんですか?」
「構わないわ。そのうち自分で部屋に戻るわよ」
「リンさん…その、ごめんなさい……」
「なんでフレアが謝ってるのよ。なんか騒がしくて楽しかったから平気だよ」
「あ、あはは…それならよかったです…けど……」
まぁ心配になる気持ちはわかる。
父親の失態を終始見届けたのだ。フレアも大変な家庭で育ってるみたいだ。
「すいません、それと今更なんですけど、私サリナさんのお屋敷にお部屋を頂いていて、そこに住まわせてもらっているんです。サリナさんに、国王にいちいち言わなくてもいいと言われていたので、その……」
「その事なら平気よ。サリナもあれには相当参っているからね。実はその事、わたしにはすぐ報告してくれたの。サリナもあぁ見えてやる事はしっかりやっているのよ」
「えっ! そうなんですか。なんか、サリナさんって適当な部分が多かったんで心配だったんですけど、ちゃんとしてそうでよかったです」
「ふふ。14歳に心配されるみたいじゃ、まだまだのようね」
「改めて、これからもよろしくお願いします」
「えぇ、もちろんよ。娘とも仲良くしてあげてちょうだい」
「リンさん! よ、よろしくおねがいします!」
「さん付けはもう治らなさそうだね…」
ニナと遊んでいたテアを呼び戻す。
ニナも寂しがっていたが、「また来てやるから安心せい」とテアが言うと、なんとか笑顔を取り戻してくれた。
皆とお別れした私たちは、自分の部屋を目指し城の中を歩く。
お酒はほどほど…に……




