78 国家機密
ネアン先生と別れ研究所から帰ってきた私は、王城にある自分の部屋へと帰ってきた。
一応、サリナさんに帰宅報告がてらに会いに行く。
「サリナさん、今帰ったんですけどお話があります」
「あら、リンちゃん。なにかしら」
「魔物のことなんですけど……」
サリナさんなら、ゼーネさんから報告を受けているかもしれないが、一応報告しておく。
「まだ報告に上がってないわね」
「あ、そうでしたか」
昨日の話だ。たしかにまだ報告が来てなくても不思議ではない。
「それで、サリナさんには今年の実践演習について見直してほしいと思っているんです。それから、国王にも知らせておいた方がいいかなと思って」
「わかったわ。そろそろ高等魔術学院の実践も本格的に始まるから、考えておくわね。あと、国王のところにはリンちゃんが行ってきてくれるかしら」
「えっと、サリナさん?」
「あんなのに会うのはごめんだわ」
やっぱりね。
「それと、これからの自主訓練で、もう一度自分の適性属性を見直すきっかけを作って欲しいんです」
「それは、やっぱり魔力量に比例しているという可能性があるのね?」
「わかりませんけど、実際にシーナとセリも本来なら適性外の魔法を何個も使えてますし」
「それもそうね。まぁ実際のところ、適性を見直すという話は上がってきていたのよ」
「それならいらないお節介でしたね」
「そんなことないわよ。リンちゃんのお墨付きということね。ふふ」
なんで笑顔になってるの? 怖いよ?
「じゃあ私、あれのところに行ってきます」
「あら、お気の毒に」
国王に会いに行く人にかける言葉じゃないよ。
仕方なく一人で国王の元へと向かう。
城で働いているものには私のことは知られているらしく、初めて来た時とは大違いの処遇だ。
すれ違うものが皆、手を止め敬礼してくる。
私、何もしてないのに……。
毎日厨二病のごとく転生を願って起きていただけなのに……
とりあえず、私が初めて国王に会った時にきた場所に行ってみる。
「あの、国王様に用があるんですけど、いま大丈夫ですか?」
近くにいた兵士さんに話しかけてみると、国王がいる場所に案内してくれた。
「国王様、リン様がお会いしたいとのことです」
『おぉ。リンか。入れ』
扉の奥から声が聞こえる。
声まで筋肉でできてそうだ。
「失礼します」
「座ってくれ」
「どうも」
ここまでは普通だったはずなのだが………
「何か一発打ってくれないか?」
「はい?」
「最近少し鍛えなおしてな。自分がどれだけ鍛えられたのか試してみたいんだ」
「お主はリンを兵器かなにかと思っておるのか?」
テアが国王に呆れている。
「まさかまさか。そんなわけではあるまい。特訓をつけてほしいと言っているんだ」
「はぁ……」
「あの、前のビリビリするやつで頼む! あれならここが燃える必要もあるまい」
ほんとに大丈夫かよこの国……
「もうこいつには何を言っても無駄じゃ」
「テアもそう思う?」
「こればかりはそう思うしかあるまい」
そういって国王は私の雷魔法(弱)を受ける。
「ッホォォォォ! 以前よりは耐えられるぞォ! 俺も成長したんだ! ガッハッハッハァ!」
ドン引きだ。
国民がこの状況を見たらなんと思うんだろうか。
ある程度私の雷魔法を食らった国王が、満足したのか話を戻す。
「ところでリンよ、なにかあったのか」
「まず先にそのことを聞くべきだったと思うんですけどね……」
優先順位が自分の筋肉の確認って……。
「かなりの魔物が出たことは、知ってますか?」
「ゼーネが言っておったな。やつでも見たことない魔物ばかりだったと言っておったが。これはあの本を出すしかないかもな」
「あの本?」
「あぁ。リンにも見せてやろう」
そう言って国王は、何やら厳重な引き出しの中から一冊の本を取り出した
「これは、我が国が保有する中で最高機密の研究文書だ」
「えっ、そんなもの私が見ていいんですか」
「リンなら構わん。それに、これを見て何かまた危機になるかもしれんことを察知し、対処できることもあるかもしれん」
恐る恐る中を除く。
かなり分厚い本だ。それに何冊もある。
最初のページには、目次のようなものがついている。
………なんだこれ。
「これ、いつの本ですか」
「400年近く前から追加で記されてきている。リンが今見ておるのは最古のものだ」
私が今手にしているものは
─────30種類程度の元素一覧だ。
さらにページをめくると、何やら見たことある魔物の姿が数多く描かれている。
私が遭遇した鹿の魔物、この間シーナとセリが狩っていた見たことないでかい魔物が3体。
他にも何やら色々と生物が描かれている。
どうなっているの?
時代が進むに連れて文明が衰えていった?
「これ、どうして国家機密なんですか」
「当時、それらの文献の一部を発表した研究者が暗殺されてな。それ以降は表に出ることなく裏で研究していたんだ。それを国が保護し、保管していた」
なぜ?
「どうやらそんな信じがたい事実が受け入れられなかったようだ。発表は全国民が聞いていたが、誰一人として信じることはなかったようだ。当時はそれくらい無茶な話だったということだ」
「だけど魔物は実物もあったんじゃないんですか?」
「魔物のことに関しては、一応この時代にも残っている。書庫に行けば見られるはずだ。まぁ、今となっては御伽噺のような扱いになってしまったがな」
だよね。王都冒険者ギルドのギルマスが知らないんだから、無理はない。
しばらく本に目を通し、この国の科学技術レベルが見えてきた。
これらの本を見る限り、実際にわかっていることはかなりある。
通りで私の前世の数学知識をあれだけ容易に吸収できたってことだ。
私が研究所の人たちに教えた問題は、化学において理論を構築する際に使われるものだ。
私の話を聞いたあと、あそこにいた者たちは皆、理論化学に近しい話をしていた。
変かもしれないが、理科系の議論について、数学を補助的に使い進めていくのはよくあることだ。
もちろんただの数オタだった私からすれば、その先のことはあまりわからなかったけどね。
一方、物理的な内容はまだ疎い。
発達しているのは化学分野だけだ。
しかし、火を理解することなど、容易なほどにすでに研究が進んでいる。
公表されずただ研究されている理由は、おそらく暗殺を恐れていたりする、ということか。
あるいは優秀な人材をめぐり国同士で戦争が起きたりする可能性だってある。
シーナとセリは納得してくれたが、今思えば、この世の全てのものが粒でできているなど、誰も信じるはずがない。
それも目に見えないとなれば、さらにだ。
とはいえ国王が発表したとなれば、国民も信じると思うし、各国に研究者を募れば戦争なんてことは起きないと思う。
うーん。
諸々を国王に聞いてみると「俺に言われてもわからん。今のままで別に不自由はないし、無理に危険を冒さずとも良いではないか」と言われた。
脳筋に聞いた私が馬鹿だった。
「この研究は、あそこの研究所でやってるんですか?」
「そうだ。そう言えばリンの答案が云々と言っていたが」
「その件でさっき研究所に行ったんです。皆さん研究熱心で…その……」
「ガッハッハッ! あいつらは頭が良すぎて逆に頭がおかしくなっちまってるからな。そう言うのも無理はない」
この筋肉馬鹿に思いやりという概念はないの?
まぁ否定できないと言うのが現実だけどさ…。
「ま、まぁとりあえずですね、魔物のことは頭に入れておいてくださいね。実際にこの書物にあるような魔物が現れていますから。証拠ならゼーネさんのところに行って見てください」
「待て待て。別にリンを疑ってなどおらん。全て信じている。だからこそ、この書を見せたのだ。それに、この書を見ているリンはいかにも頼りになりそうな顔をしていたぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「ほんとに14歳なのか疑ってしまうほどだ」
「あはは……さすがにこんな小さくて可愛らしい30歳超えはいないですよ」
「ガッハッハッ! それもそうだな。ところで最後に特訓をつけてくれないか?」
「あぁ……っと……」
これが……国王………
もう帰りたいよ……
「妾はもう知らんぞ」
私の心の声を感じ取ったテアが私を見放す。うぅ。
─────ガチャッ
ドアが開いた。
これ、国王に用事じゃん!
自然な流れで帰れるじゃんっ!!
扉を開けた人物へと目を向ける。
「あの、お父様……。お呼びということで……? え…?」
うん?
「リンさん!?」
あれ? 私のことを知ってる…?
というか、この子どっかで見たことあるような………
えぇっと…
───あ。
昨日冒険者ギルドで絡まれていた子だ。
ん? この筋肉馬鹿がお父さん?
えっ?
「えぇっと? 国王の娘さん…? ってことは……」
……。
「いや、王女かよ!!!!」
今回ちょっと長いです。
明日はお昼と夕方の2話投稿になります〜!




