77 魔術研究所
魔術研究所にやってきた。
場所は王城の裏手に当たる。
ネアン先生が、入口の前で説明してくれる。
「ここは魔術を研究する場所よ。内部は様々な分野に分けられているの。算術はもちろん、純粋な魔術、魔導書、魔力そのものだったり、古代の遺物なんかを研究しているところもあるわね」
この時代は魔法をもとに発展してきたと言ってもいいだろう。
だから、物事の中心に魔法が根付いているのだ。
こういった内部形態になっているのも納得がいく。
逆に言えば、魔法に関すること以外は期待できないということだ。
火属性魔法が使えることから、酸素や水素などといった物質にたどり着くのは、ほとんど不可能だ。
逆はできるかもしれない。というより、逆のことが分からなければ、普通火なんて扱えるわけがない。
それが今までは魔導書という便利なものに頼り、学ばずに済んでいた、ということになる。
おかげでこの世界の理学的なレベルは散々だ。
とはいえ、それをもちろん非難するつもりはない。
誰しも最初から魔法があればそれに頼って生きるのは当然だと思う。
そんなことを考えながら歩いていると、算術分野の人が集まる場所へとやってくる。
「失礼します。ネアンです。例の子を連れてきました」
そういって部屋に入る。
……。
かぁっ………。これは………。
……間違いなく数学者たちの空間だ。
知識レベルは元いた世界と比べて低いかもしれないが、熱意などは決して劣っていない。
「あ、あの……はじめまして……。リン・フォーセ───」
「ハッッッ!! キ、キミが……っ! このっ、この記号つまりはこういう性質を持っていてだね、だからこの部分はこうなることが予想されたんだけど、この下の部分ではこのようになっているからして、その部分はこの記号に対して何かしら特別な性質を持っていると想像できて、さらに言えばここの─────」
早速とヤバいのが絡んできた。
自己紹介よりも己の知識の探求が最優先事項だ。
「ちょ、ちょっと所長! リンちゃんが怖がってますよ……」
「あ、あ、あぁ……すまなかった……しかしこの部分は何度考えても────」
もう笑うしかない。
なんと、今の人がこの研究所の統括所長らしい。
こんな人に所長なんて任せていいのか……。
「私が今から皆さんに説明しますから、聞いてくれますか?」
「ハッ!! よろしくお願いします!」
これは………大変なことになりそう。
しかし相手は研究者。鍛え甲斐がありそうだね。
こうして私の授業が始まった。
─────約5時間後、
ぶっ続けで私の知識を研究員に押し付けた。
とは言え、あくまであの問題の答案を説明するための知識だ。
それでもあり得ないほどの量だけどね。
その結果、15名ほどいた研究員が、みな私の答案を理解し、さらにその応用を次々と仮定し、結論を導いていた。
控えめに言って理解力がバケモンだ。
そもそも、私が筆記試験で解かされた難問は、この世界の算術レベルでどうこうできるものではない。
ハッキリ言えば、その問題自体を想像することすら難しいレベルだ。
しかし、その問題が解決できれば、ありとあらゆる事柄が解決するという結論まで辿り着いていたのだ。
すると、ネアン先生が話しかけてくる。
「わたしは途中から追いつけなくなったわ。相変わらずバケモン揃いよ。ここの人たちは」
「ネアン先生も十分ですよ。私がしてきた話は本来3年以上かけて学ぶくらいの量ですよ」
「ところで、リンちゃんはなんでこんなに算術が得意なの? この世界から見て数段先の知識だと思うんだけどこれ」
「そ、それは……私の村はこういうのが流行ってて……みんなこぞって研究してたんです………」
「すごい村ね」
嘘はついてない。うん。大丈夫。
周りを見渡す。
もうダメだこれは。
ここにいる人たちは、もう私の姿など見えていない。
目の前にある、紙と鉛筆と空虚しか見えていない。
『ちなみにテアは私の言ってることわかった?』
『妾もそれ以前の知識がないのでの。しかしながら今日言っておったことだけは理解できたぞえ。本当の意味では理解できてないのかもしれんがの』
『すごいね』
テアもなかなかの頭脳派らしい。
私たちはそっと研究所を後にしたが、誰一人として気付いてくれるものはいなかった。




