69 国の思惑とは
「サリナさん! ほんとに! どういうことなんですか!!!!」
「あら? リンちゃんじゃない。それにみんなも」
変わらず陽気なサリナさんが出迎えてくれる。
「なんでこんなことになったのか説明してください!!」
「まぁまぁ落ち着いて」
「うー」
サリナさんが事の詳細を話してくれた。
当初は、私を学院の講師として迎えいれる予定だったらしい。
生徒じゃなかったのかよ。
だからお金はいらないって言ってたのね。むしろ貰えるくらいだ。
それが、シーナとセリを特訓したことから、この悲劇は始まってしまう。
2人がこの世界では考えられないほど常人離れしている力を得て、さらには転移魔法まで使えるようになったことを国王に報告すると、今すぐ宮廷魔術師団の団長にしろと言われたらしい。この世界は完全実力主義だ。
だけどサリナさんは私を実践に行かせるよりも、講師として人物を育成することに力を入れたかったらしい。まぁ学院長だからそう考えるのも自然だ。
その対立に加えて、今ある役職を無理やり14歳の子供に変えてしまっては、変えられたものはともかく、様々な場所から非難が湧きあがる。
そこで、新たに役職を置くことにしたのだ。
しかしそれでは、不満を持った上級役職の偉いさんから大非難になることは見えている。最悪の場合は、権力を使い私に嫌がらせをするのではないかと考えたわけだ。
私の実力を知っている国王とサリナさんは、私を怒らせると国が一つ滅びると本気で思っているらしく、誰も文句が言えないように、今あるどの役職よりも事実的に上の立場になるような役職を考えたのである。
私が、任命式で怒って国が滅びる可能性は考えなかったのかよ、と思って聞いてみたところ「リンちゃんのことだから楽しんでくれるかと思っていたわ」と言われた。
………ちょっと楽しかった。
くーーっ!! なんか悔しいよーーっ!!
魔法師会議では、当然、最初ほとんどの偉いさんが新たな役職に私が就くことを非難していたが、私の倒した鹿みたいな魔物を20人がかりで冷凍庫から持ってきたらしく、すぐに黙りこけたらしい。
さらに途中で国王まで乱入してきて、国王が私の実力を証明すると全員文句なしで賛成になったと言う。
まぁ確かにあの国王も、この世界では強い部類だ。
それに、脳筋だけど悪い人ではない。実際に皆に信頼されているからこそ、国王が口を挟めば皆が賛成に回ったのだろう。
なるほど、めでたしめでた───
そんなわけあるかぁい!
どこの国が14歳に国王並みの権力持たせるんだよ!
「あら、リンちゃん。あなたいま、自分が14歳だからおかしいって思ったでしょ」
「なんでわかったんですか…」
「顔に出ていたわよ」
「そんなことまで顔に出てるんですか私」
この人の前で思考するの、やめよう。
「リンちゃんの村ではどうだったかは知らないけど、この国では13歳から大人としての扱いになっているわ。大人見習いという感じだけれど。実際に冒険者も13歳から認められているわけだし」
「いやぁ……ルール上はそうかもしれませんけど、実際になってる人なんていないでしょ…」
「何事にも初めてはつきものよ」
かっこよく言ってるけどやっぱりおかしいよ。「もうなってしまったものは仕方ないわ」と開き直られた。
国王に任命されたし、仕方ない。
もうそう思うことにするよ。
「そうは言ってもね、いきなりリンちゃんに政治のことなんて任せられないわよ。だってこの国の名前すらわかってないんだもの」
「そ、それは…たまたま忘れちゃって……」
「それに、わたしたちもリンちゃんにそういう面倒なことをさせるつもりはないわ。最初も言ったけど、ただリンちゃんに、人材育成をして欲しいのよ。それから、有事の際にはこの国のために、戦ってほしい」
「ちょ、ちょっとお母様! それはリンに戦争に行けと言っているのですか!?」
「……そうね」
「そ、そんな……」
シーナの表情が、いきなり普段のものと段違いに変わる。
セリも、サリナさんの肯定の言葉に表情を暗くしている。
2人とも、明らかに、私を心配してくれている。
だめだ。もう私泣きそうだよ。
「シーナ。ありがとう。大丈夫だから」
「リン……わたしも行くから」
「シーナ!?」
「リンが行くなら、わたしも行く。わたしだってこの国では強い方だと自覚しているわ。邪魔にはならないはずよ。お母様だって、わたしと同じ歳のリンを行かせるというのに、わたしを行かせない理由はないわ」
「ならわたしも行くしかないね。料理店の娘の中では1番強い自信あるわよ」
「ふふ。セリは頼もしいわね」
あんたたち2人は何を盛り上がってるの。
「お母様、何か反論はありますか?」
「もちろん、ないわよ。わたしだって娘と同じ歳のリンちゃんを戦争に行かせることは反対よ。だけど、リンちゃんは戦力としてこの国の何よりも規格外なのよ」
その後に「まぁ戦争なんて今のところある気配は微塵もないけどね」という。
まぁこの世界は国と国の仲も悪いわけではない。どうやら交流などもしているようだ。
「リンちゃんが戦うにあたって、味方が邪魔な場合もあるでしょ。作戦だって、わたしたちが思い浮かばないようなことを思いつくことだってあると思うの。そういう時にいちいち検証したりリスクがなんたらと、うるさいのよ。お偉い人は。そういうやつらを黙らせるための、リンちゃんの地位よ」
「まぁ要するに、私が仕事するのは余程の有事の時ってことでいいんですよね?」
「そりゃそうよ。平和な世界なのにわざわざ戦争を起こす理由もないわ」
とにかくは一安心ね。なんとか学生生活を楽しめそうだ。
「ただ。今すぐ学院生徒の力を根こそぎ上げる必要はないけど、日頃の宮廷魔術師団の訓練はリンちゃんにも面倒を見てもらいたいの」
うーん。
シーナとセリの場合は9割近くの魔力を注ぎ込んであるが、この国の人々を皆そのレベルにしていては、国家として力が強すぎる。
だから私としてはせめてものバランスを取るために、これ以上魔力を増やす事はしたくないのだ。
つまりは、自分たちで努力して頑張って強くなってほしい。
私が無駄に魔力を与えてしまって、ちょっとした喧嘩で建物や街を破壊されては困るし。
「私としても、条件があります」
「なにかしら」
「はっきり言って、この国の戦力をみんなシーナやセリのように、化け物にする事は可能です」
「ちょ!」
「ば、化け物ってひどい!」
「ですが、今のところする気はありません。平和なこの世界に、この国だけ皆強大な力を持ってしまえば、必ずトラブルが起こるからです」
「そうね。それに、彼女たちは魔力量が人より多いのでしょう?」
「はい。それも私がしました。しかし、おそらく私かテアほどの魔力を持たない限りは、人に魔力を与える事はできません。だから2人の魔力量のことは内緒にしてください。もしマネをされたらどんなことになるか……」
「もちろんよ」
サリナさんはちょっとおかしい人の部類だが、話はわかるようだ。
「とりあえず、リンちゃんには今の宮廷魔術師団の現状を見てほしいの。団長に適当に指示を付ければあとは自分たちでなんとかするわよ」
「そ、そんな適当でいいんですか……」
「もちろんよ。強くなりたいと思う者たちなら自分の力でどうにかしようとするわ。あまりにも見るに堪えないようだったら何かアドバイスをしてやってちょうだい」
「わかりました」
「とは言っても、まだ入学初日よ。とりあえずは自分のことを優先してちょうだい。1ヶ月ほどすれば慣れるでしょ? それぐらいで構わないわよ」
「ハハッ! サリナ様! ご命令承りました!」
「やめてちょうだい! あなたの方が立場が上なのよ!」
フフッ。普段から困らされそうなので、細かいところで仕返しをしておく。
……仕返しになってるの? これ。
そのあと思念伝達の魔法を練習し、無事に2人は習得した。
こういう役職って実際あったら便利ですよね。
もし自分が持ってたら、悪人相手に「この紋所が目に入らぬか」的な感じで使いたいところです。




