58 後処理
私とテアはノーエさんの家の近くまで来た。
隣には、王都に入る時にお世話になったグレンさんもいる。私がお願いしてついて来てもらったのだ。
とは言っても、見つからないように認識阻害を使い外にいる。
ちなみにグレンさんに認識阻害を使ってしまうと、グレンさん自身が脳筋パワーで私たちに認識してもらうような魔法を使う必要があるが、そんなことできるわけないので、私たちがグレンさんの魔力をコピーし、その魔力を感じることで存在を認識している。
面倒だけど、どうにかなっているので問題ない。
しばらく待っているとノーエさんが帰ってくる。
とりあえずはスルーだ。
それから1時間ほど経った頃だろうか、1人の男がノーエさんの家の前で立ち止まる。
「やっぱりこいつか」
「そのようじゃな」
「あいつがリン様の仰る犯人ですか」
あの料理店にいた、私が気になっていた男だ。
よく見ると、ポケットに手を突っ込んで、どうやらよからぬことを企んでいる。
しかし、ここで捕まえるわけにはいかない。もう少し先、言い逃れできない場面まで待つ。
認識阻害をかけているため、ほとんど真後ろまで近づく。
男がノーエさんの家まで歩き出し、玄関に立つ。
男が声を発した。
「ノーエさん。お忘れ物があったので、届けに来ました」
『あれ? ケト君? ちょっと待っていてね』
どうやらこいつはケトと言うらしい。
ポケットからナイフが出てくる。間違い無いね。
扉の前に防御魔法を発動し、見えない魔力の壁を作っておく。
もしものことがあっても万全だ。
ノーエさんが扉を開ける。
直後、ケトがノーエさんに向かってナイフを突きつけた
─────カンッッ!!
「きゃぁっ!?」
が、壁に防がれてナイフが通らない。
「な、なぜだ!? なんだこれは!? どうなってる! クソ!」
「グレンさん。これで文句ないですよね?」
「はい。間違いなく確認しました」
私はナイフを握っているケトの手を、反対方向に無理やり捻じ曲げる。
「ガァァァッ!? う、腕がぁっ! ぁっ……!!!!!」
突然の出来事にノーエさんは戸惑っている。そりゃそうだ。
ケトを土魔法で固定し、わたしたちの認識阻害を解く。
「っ!? リンちゃん!?」
「ノーエさん。驚かせてすいません」
「い、いきなり現れないでよ。びっくりするわ」
私はノーエさんに事情を説明する。
するとノーエさんは私たちにケトのことを話してくれた。
「前からわたし、この人に言い寄られていて。何回もお断りしていたんだけど、最近ではだんだんエスカレートしてきちゃって……」
「逆恨みですか」
「そんなところね」
こいつは大切な人を自分の手で傷つけようとしていたのだ。救いようがない。
狂ってしまった人は、理屈では何を言っても変わらない。
グレンさんがケトを別の場所に移動させ、自白させている。狂気に満ちた態度、言動、動機、何よりその目つき。
見ているのも不快だ。
案の定、あの男たちにノーエさんを襲うように言ったのはこいつだった。
近くに兵士を待機させていたため、後はグレンさんとその兵士たちに任せることにした。
ノーエさんに少しだけ家に上がるように言われたので、せっかくだしお邪魔する。
「それにしても、リンちゃんには命を助けられてばっかりね」
「何を言うんですか、あれはたまたま通りかかっただけですし、今回も少し気になったから来てみただけなんです。自分でもこんな偶然が重なるなんて、ってびっくりしてます」
「ふふっ。真実は変わらないわよ。私は2度もリンちゃん達に救われたの。これは何かお礼をしないといけないわね」
そう言って奥の冷蔵庫に向かう。
「リンちゃんは甘いもの、好きかしら?」
「えっ、好きです」
「よかった。これ食べて帰ってちょうだい」
そう言って出て来たのは、ケーキだった。
「え、だけど砂糖が手に入らないんじゃ……」
「わたしね、こういうデザートを作るの昔から好きだったの。それである程度材料を買い溜めしてあるのよ。まあそれでも砂糖は無くなりそうだけどね」
「本当にいいんですか?」
「もちろんよ。今はこんなことしかできなくてごめんなさいね」
ケーキを食べる。
う、うまぁ………。
この世界に来て、砂糖でできた甘いものって初めて食べたような気がするんだけど………。
うまぁ………。
「お、おいしい………おいしすぎます……」
「あら、ほんと? 喜んでもらえてよかったわ」
あっという間に平らげた。うぅ。
もっとゆっくり食べるべきだった……もったいない……。
私が悲しそうな目をしているのをみて、「あまり食べると太っちゃうから、これくらいにしときなさい」と言われた。
ごもっともだ。
よし。なんとしてでも砂糖を手に入れる。
そう決意した私はノーエさんのお家を出て、王城にある部屋へと帰る。
今日はいろんなことがあった。疲れも相当溜まっている。
何より、私ってあんなことできたんだ。
改めて考えるとなかなか刺激が強かった。
テアを抱きしめていると「リンは強い女の子じゃの」と言われ、余計に抱きしめる。
明日、私は試験を受けないとはいえ、一応同じ時間に学院へ行くようにと言われた。
寝坊しないようにしないと。
テアを抱きしめたまま、深い眠りについた。
『!』や『?』の後に半角スペースを入れることにしました。
そっちの方が読みやすいかもと思ったので、ヒマを見つけて順次やっていきます。




