57 突然のご来店
私が転移でお店に着くと、予想していた光景が広がっていた。
時刻は夕方、お店は次の日の仕込みをしている最中だった。
普通は朝方にやることが多いのだが、仕込みに時間がかかる場合は前日からやっているところが多い。
そんな仕込みをしている最中、突然女の子2人とドラゴン(ミニサイズ)が現れたのだ。
混乱しないわけがない。
そこへ私がノーエさんを連れて転移してきたことによって、より混乱してしまった。
気になったのは、ホールにいた1人の男の顔。
彼からは、私たちが転移してきたことよりも、ノーエさんがここにいることに対して、人一倍強い反応を示しているようだった。
それも、心配や安心ではなく、混乱の中に憎悪が感じ取れる。
これは……。もしかするかも。
「こ、これは今日いらして頂いたお客様にノーエまで!? な、何が起こっているのですか………」
「クシミルさん。お騒がせして申し訳ありません。少し待ってもらってもいいですか?」
そう言ってノーエさんに目を開けるように伝える。
「ほんとうに……来てしまったのね」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ありがとう」
「あの、あんな事があったんです。私たちで適当に誤魔化せますけど、どうされますか?」
「全て話してくれて構わないわ。命を助けてもらったのに、リンちゃん達が疑われるようなことは絶対にあってはならないから。それに、私は大丈夫よ? ほら」
そう言って胸を張る。
元々張ってる胸がさらに……うっ。なんかつらいよ私。
ともあれ、強気になっているのかはわからなけど、ノーエさんは意外と丈夫な人だ。
私はクシミルさんに事情を説明する。もちろん、疑われない最低限のことまでだ。
一応、代表として私がカードを差し出して身分を明らかにした。
「だ、大聖者様……それに国王様の刻印まで………」
「身分を騙していたようで、ごめんなさい。私みたいな子供がこんな肩書きを持っていれば誰しも疑ったり…その…」
「いえ、リン様の言っておられることは、正しいと思います。我々とて、恥ずかしながらリン様のようなお方が大聖者様、さらには国王様の刻印まで持たれていると言われても、すぐに信じることはできなかったでしょう」
「その、私の身分の真偽はとにかく、ノーエさんが襲われた事実に変わりはありません。しばらくは様子を見てあげてほしいんです。お願いできますか?」
「お待ちください。しかしながら、店の扉は閉めているのに突然姿が見えたと思えば、ノーエのあの破けた服を見せられたのです。あなた方のことを信じないものはここにはおりません。ノーエを1人で買い出しに行かせてしまったわたくしにも責任がありましょう。しばらくはノーエに休むよう伝えておきます」
「すいません。お願いします」
クシミルさんがいい人でよかった。
ノーエさんには、念のためしばらく休むようにと、私からも伝えておく。私のコネを活用して、家に見張りでもつけてもらおうかとノーエさんに打診したが、「不意を取られて襲われただけで、心配ないわよ。今度襲ってきたら返り討ちにしてあげるわ!」と言っていた。
魔術学院を卒業した身だ。ある程度は戦えるのだろう。
とはいえ、一応何かあった時のために、自宅の場所も聞いておいた。
クシミルさんには、今日見たことは、私たちのことを含めて誰にも話さないようにすることを約束してもらい、後のことはお願いした。
クシミルさん曰く「大聖者様に言われたことを裏切れば、間違いなく国を追放され、とんでもないことになるのは目に見えております。そのようなことは絶対ありませんのでご心配なさらず」ということらしい。
思ったよりこの肩書き使えるね。
まぁ信じてもらうのに苦労するだろうけど……。
もし困ってどうしようもない時は頼るのもアリか。
てなわけでテアを含めた私たちは先程いた場所に戻ってくる。
さすがに放っておくわけにはいかない。
「こいつらどうしよっか」
足がひん曲がっているとは言え、抵抗されては困る。今は土魔法で体をしっかりと拘束してある。
「なんかさっきの言い方だと、お仲間さんがいるっぽいんだよね」
「じゃあお仲間さんのところまで案内して貰えばいいじゃん」
「わたしも賛成ですわ」
セリの言葉にシーナが賛同する。
「でも、ノーエさんがあそこまでやられてたんだよ。2人にはちょっと刺激が強すぎない?」
「わたしは平気よ」
「まぁセリは大丈夫だろうけど」
「ちょっと! わたしだって乙女なんだけど!」
「シーナはさすがに……貴族だもんね」
「もう! わたしが貴族だからって言うのやめてよ!わたしだって精神は強い方よ!」
たしかにシーナは気が強い方だ。体が弱かった分、精神が鍛えられたのかもしれない。
「素直に答えてくれればいいんだけどね、もしダメなようだったら力づくでも聞くしかないね。ノーエさんみたいな人が他にいる可能性が高いし」
「そうだね」
「わたしも協力するわよ」
手始めに水魔法をぶっかける。
どうやら、起きたみたいだ。
死んでなくてよかったよ。
「お兄さん達、おはよう?」
「ヒッ……!?」
「あ、足がァッ…!」
「………っ」
反応はさまざまだ。
逃げ出そうと動くが、拘束された上に足が使い物にならないため、逃げられない。
「お仲間さん達の場所を教えてくれるかな?」
「チッ! 誰が教えるか! 殺すなり勝手にしろ!」
兄貴分はダメだ。こういう時は雑魚から吐かせるに限る。
というわけで、兄貴分の腕をひん曲げていく。
「っっ!!! ぁ……がぅ……!!…」
………
気絶する。口だけじゃん。
「セリ」
「わかった」
そういうと、私がしたようにセリも気絶した兄貴分に水魔法をかける。
目を覚ます。
「これでもまだダメかな? 今度は、あなた達に聞いてみようかな?」
そう言って取り巻き2人を見る。
「わ、わかった!! わかった! 話すから!! もう何もしないでくれ!! お願い……します………」
「話して?」
「お前らッ! 後でわかってんだ ガッフゥ!?」
「うるさい」
シーナが兄貴分の腹に風魔法パンチを食らわせていた。怖いよシーナさん。
恐ろしい威力だ。これ内臓逝ってるんじゃないの?
「見ての通りこいつに後はありませんから、正直に話してくださいね?」
と、笑顔のシーナさん。怖いよ。
「お、俺たちは……バルナ様に、雇われている……」
「だれ? 知ってる?」
「確かルーズの街の商業ギルドマスターよ」
「商業ギルドのギルマスがどうしてこんなことを?」
「し、しらねぇよ! 俺たちは女を定期的に連れてくるように言われてんだ…今回捕まえた女も、やり甲斐があるって、男から聞いて……」
「その男って誰のことかしら?」
シーナが問い詰める
「お、俺たちもしらねぇんだ! 酒場で連れ攫う女の話をしてたら、いきなり声をかけられて……」
「見ず知らずのやつの言うことを信じたの? そもそも人に聞こえるようにそんな事話してるあんた達はどんな神経してんの?」
「そ、その酒場は同業の奴等が集まってる場所だ……そいつもよほどのやつなんだよ……」
そんな場所が王都にあるのか。まぁこれだけ人がいれば悪い奴が出てくるのは仕方ないか。
「じゃあその酒場を教えてくれるかな? 男には心当たりがあるから、もういいわ」
そういうと男たちはすんなり酒場の場所を吐いた。
そのほかにも情報を吐かせようとしたが、本当に知らないみたいだった。
ノーエさんのような被害者が、他にもいることに間違いはないが、その人たちがどこに連れて行かれているのかまでは知らないとのことだ。
取り巻き2人を治療してやろうかも考えたが、やはりそんなことをしてやる価値はない。
このまま縛り上げ兵士を呼ぶことにした。
しばらくして兵士がくる。
2人は足がひん曲がり、さらにもう1人は腕まで曲がり、口から血を吐いている。
それを見た兵士たちは険しい顔をしていたが、事情を説明し、私の身分を明かしたことで納得してくれた。
セリとシーナは酒場に乗り込んでやる気満々だったが、今のところは現状維持のほうがいいと説明した。
酒場にはいろんな犯罪者がいる。そこを抑えたところで証拠が出なければ終わりだ。将来的にむしろ捕まえにくくなる。
男たちの証言があるとは言え、物的な証拠が全くない今、バルナとやらを捕まえるのも無理だろう。変に動いて警戒させる方が厄介だ。
それに、なんて言ったって明日は学院試験だ。わたしは2人にもう休むように言って聞かせた。
セリはイリアさんのところへ、シーナはノインさんの屋敷へと帰った。
私はというと、一つやることが残っていた。




