56 不憫な人たち
買い物も一通り終えた私たちは、少し道を外れて休憩することにした。
シーナもセリも少し人酔いしてしまっている。
「さすがに疲れたわね」
「ほんと。わたしもう帰りたいわ」
まだ15時過ぎたばかりでしょ。
セリは最近、イリアさんのお店でもすぐに弱音を吐いている。まぁ、言いつつもやってるからいいんだけどね。
今までセアのこともあって、ずっと気を張っていたのが緩んだ、ということも影響してるだろう。
自慢じゃないけど、私がいなかったらセアもシーナも救えていなかったと思う。そうなればセリもノインさんも、みんな笑顔にはなれなかったかもしれない。
それにテアだって、まだ一人ぼっちだったかもしれない。
そう考えると、本当にこの世界に来て、みんなを救えて、友達ができて、よかった。
「リンがまたニヤけてるよ」
「また変なことを企んでいるのよきっと」
「たくらんでないってば!!」
この世界がもっと平和になって、大切な人の笑顔が守れるなら……。
私はそのためなら全力で戦おう。
……なんてくさいセリフ、私には似合わなかったわ。
街を観光がてら散歩していると、時刻は夕方。
朝型のこの世界では、もうあまり人は歩いていない。
明日は試験だ。合格は間違いないだろうが、遅刻なんてすれば本末転倒だ。そろそろ帰ろう。
すると、セリが口を開く。
「ねぇ。転移できる場所探しておかない? 夕方になってこの辺りも人がいなくなったけど、路地裏とかは昼も人がいないと思うんだよね」
「たしかにそうね。いいと思うわ」
「私も賛成。それじゃ、帰りながら探そうか」
移動が面倒な時に転移するため、より人気のなさそうな場所を探す。
しばらく裏道を歩いていると、本当に人が近寄らなさそうな雰囲気になってきた。
王都にもこういうところあるのね。
「今ならこうやってこんなところ来れるけど、1人だと絶対来たくないね」
「今のセリなら、変なのに絡まれても大丈夫よ。きっと」
「これでもわたし乙女なんだけど?」
「あら、そんなのわたしも同じだわ」
2人がそんなことを言い合いながら進んでいく。
テアが融合を解いて私の肩に乗ってきた。
そんなに私が恋しくなっちゃった?
「複数人の魔力を感じるぞえ。気をつけるんじゃ」
違ったよ。
だけど人の魔力……ほんとだ。
4人いるね。ただの街人ならいいけど。
「2人とも、この先に人がいる。注意して」
「わかった」
「わかったわ」
少し歩くと男が3人。なんか、悪そうなんですけど。
というか3人なのに、4人の反応がある……?
………そういうことか。
「リン。あの袋、動いてるよ」
「そういうことらしい」
「1発殴る?」
「セリ、脳筋すぎるよ。とりあえず2人ともついてきて。本性出させてくるから。もし危なくなったら転移して」
2人は私の後ろへついてくる。
「あのーっ」
「なんだァ? ガキか?」
「私たち、道に迷っちゃって……。おうちに帰れないんですけど、道を教えてくれませんか?」
すると、1人がこそこそ話しだす。
私たちに聞こえないようにしているつもりかな?丸聞こえだよ?
テアを透明化させ、奴らの側に居させている。
テアから聞こえた内容がそのまま私の意識へと送り込まれる。
テアと私は、融合を解除しながらも意識を同調させることができるようになっていた。
「兄貴、あのガキ達も持って帰りましょうや。ガキが好みのやつもいるに違いねぇっすよ」
「そうっすよ兄貴。捕まえた女もいいですが、この女達もなかなかっス……じゅるっ」
うえっ。きもちわるい……。
「ふん。勝手にしろ。俺は依頼通りこいつを持って帰る」
『テア、その袋こっちまで持ってきて』
『まっておれ』
そういうと、取り巻きが地面に置いてあった袋が、一人でに移動し始める。
「な、おい! 足も折って動けなくしてあるはずだろ!」
「し、してあるっすよ!」
足を折って動けなくしてある?
うん。こいつらに慈悲の心はいらないね。同じように足を折ってやろう。
すると私たちの元に袋を持ってきたテアが、袋を開けた。
「……………っ!! ノーエさん!?」
「えっ!? ノーエさん!」
「うそ!?」
袋の中には、目から涙を流し足がありもしない方向に折れているノーエさんがいた。
咄嗟に全力で治癒魔法をかける。
破られた服はそのままだが、足は再生し、あっという間に元の姿へと戻る。
3人の男達を睨む。
男達は何が起こっているのかわからないようで、袋が動き始めたところから呆然と立ち尽くしている。
「ノーエさん!」
「リ、リン……ちゃん……? ごめんなさ…い。わたし……買い出ししていたら……襲われて……何もできなくて……痛くて……つらくて……」
ノーエさんはまた涙する。
「待っていてくださいね。もう大丈夫ですから」
「リンちゃん……」
「2人はノーエさんをお願いね」
2人は頷く。袋からノーエさんを出し、2人が優しく抱きしめる。
身体は戻っているはずだが、ボロボロになった服を見て、再度怒りが込み上げてくる。
「お前ら覚悟できてんだろな?」
「あ、アァ!? ガキが何強がってんだ!? さっさと女を返せ!」
「お前たちも一緒に連れて行ってやるからよ! 大人しくしとけやオラぁ!」
取り巻き2人が私を気持ち悪い目で見てくる。
兄貴分らしきやつも、どうやらお怒りの様子だ。人を攫っておいてお怒りって、こいつどんな神経してんだよ。
『テア。こいつらを吹っ飛ばされないように上半身だけ固定しておいてくれない? 全力で足飛ばすから』
『ふふふ。リンもなかなか怖いことをするの』
『いくよ』
テアが、やつらの腰から上、その前後に風魔法を使い、風の壁を作り出す。
さすがのテアもあんな汚いやつらを自分の体で受け止めることを拒んだ。当たり前だ。
「大人しくしてろよガキィ?」
「後で可愛がってやるから…じゅるっ」
やつらが腰に刺さっているであろうナイフを取ろうとする。
そこで気づく。
「ッチ! おい! なんか壁みたいなのがあって動けねぇ!」
「ど、どうなってんだよこれぇっ! 兄貴ィ!」
「クッ、知るか! さっさとやれ! ガキ1人に手こずってんじゃねぇ!」
じゃあまず取り巻きから足をへし折ってやろう。
どっちにしようかな。
「ど れ に し よ う か な 地 獄 の 底 の 悪 魔 様 の 言 う 通 り……。お前だね」
「なっ、なにをやって………」
─────ゴォォッッッッッッ!!!
「っ………ぁ……………………が……」
取り巻きの1人の足を反対方向に蹴り飛ばして、捻じ曲げた。
一瞬のことにやられた当人も理解が追いついていないようだ。
背後に転移し、思いっきり両足を前方に蹴り飛ばした。ありえない方向に膝が曲がっている。
「次はあなたね?」
「なっ!? 後ろに! いつの間─────」
─────ゴッッッッ!!!!
「ガァァァッ!? あ………あ……あし………あしが…………あが…」
2人はあまりの激痛からか、気を失った。
「最後はあなたね? こいつらみたいに気を失わないようにしてね?」
「ま、ま、まってくれ!! わかった! お前達のことは見逃す! そいつももういらねぇ! だから! まっ…………!?」
転移して、再び兄貴とやらの目の前に立つ。
私は風魔法でやつの背後、膝の部分に風を作り、さっきと同じように反対方向に曲げていく。
ゆっくりと。
「ま………まっ………!? ガァァッ!…………やめ………て……くっ……ぁぁぁ!……だ………く……くださ……おねがぁぁぁぁぁぁぁあっ!…………がい……し…………がっ……」
同様に足をひん曲げた。
うん。まだ気が済んでないから、とりあえず後で腕もへし折ってやろう。
2度と女性に手が出せないように。
「おわったよ!」と、笑顔で振り向くと、2人が私を見て苦笑いしている。
自分でしといてなんだけど、あなた達この状況をよく苦笑いで済ませられるわね。
「リンだけは敵に回したくないわね」と、セリ。
「本当に同感だわ」と、シーナ。
「リンちゃん……あなた何者なの……」と、ノーエさん。
「ノーエさん。もう安心ですから、服も破れていますから、私ので良ければ着てください」
そういって私の収納魔法から、気持ち少し大きめの服を出す。
特に胸あたりが。
「ありがとうね……。なぜかさっきまでの痛みも全くないし、体も元に戻っているわ……」
「だから言ったじゃないですか。リンは非常識なんです」
「なるほどね。これは明日の試験免除、納得だわ」
「ちょっと! ノーエさんもそこまで冗談を言える元気があるならもう大丈夫でしょ!帰りますよ!」
とは言っても、これ以上この路地裏を歩くのは、ノーエさんにとっても精神的に耐え難いかもしれない。
「もう、使うよ?」
「わたしもいいと思うわよ」
「わたしもよ。お昼はあんなに親切にしてくれたんだし。わたしたちの変なプライドでまた危険に晒すのはごめんだわ」
2人とも納得してくれたようだ。
「じゃあ私とテアは残ってこいつらの処分をしておくから、2人でお店まで行ってくれる?」
「ちょっと待ってよリン! わたしだってこいつらのこと許せるわけないじゃん。ノーエさんをあんなにしたんだよ? 私がこいつらをボコボコにしておくからリンとシーナが行って」
「そ、そんな! わたしだって─────」
「「あんたは貴族なんだからダメ!」」
「そ、そんなぁ……」
「貴族……? シーナちゃんが……? 貴族様だったの!?」
「あ、いえ、あの………」
「もうわかった! こいつらは閉じ込めておいて認識阻害かけておくから、テアも一緒にみんなで戻ろう。こいつらの処分は後からまた戻ってきてからにしよう」
「「それなら納得」」
そういうことになったので、ノーエさんに今から転移することを伝える。
「ちょ、ちょっとまってよ! 転移なんて御伽噺の世界じゃない! そんな、信じられない……けど………リンちゃん達を信じるしかないよね……」
「大丈夫です。怖ければ目を閉じていてください。次に目を開けたらお店に着いてますから」
「わ、わかったわ……」
ノーエさんが目を閉じる。
「よし、行こう」
「「了解!! マイマスター!!」」
「な、なにそれ!?」
と言ったが、もう2人はいないし、ちゃっかり転移魔法を使えるようになっているテアもいない。
って。私あのゴミの処理忘れてんじゃん。全員気を失ってるから空気になってたよ。
私は土魔法で作った箱に3人を押し込んだ後、認識阻害をかけて誰にも見えないようにし、急いでノーエさんを連れて料理店へ転移する。
悪い人たちは幸か不幸か、見つかってはいけない人たちに見つかってしまいました。




