37 いきなりの一悶着
なんでもない話をしていると、門に着く。
門の前に人が並んでいる。
入場チェック的なことだろうか。
私の番がくる。門番さん。テアのことを変な人を見る目で見ないでよ。
「えっと、お嬢ちゃんは迷子かい?」
「はい?」
「お父さんやお母さんはどこにいるんだい?」
「いません」
「強がらなくても平気だから、おじさんに話してくれるかい?」
そんなこと言われても、本当にいないのだから、仕方ない。
にしても、テアのことを気にしてはいるものの、何も聞いてこない。
私みたいな子供と一緒にいることで、危険がないと思われているのかも。
まぁ危険はないんだけどね。
「えっと私は迷子じゃなくて、この国の王様に呼ばれて来たんですけど」
「なに? 国王様に…? …………ハッハッハッ! すまないね。お嬢ちゃん。おじさんも仕事中だから遊んでやることはできないんだ」
「いえ、お仕事の邪魔をしてしまったみたいで申し訳ありません。中に入れてくれますか?」
「うむ…?」
本当にどうすればいいか悩んでるようだ。
「ほんとに迷子じゃないんだね? それにその肩に乗っている……えっと……」
「彼女は私の家族です。テア、挨拶してごらん?」
『ねぇテア。可愛げに泣いてみて』
『よかろう』
「キュゥン…」
かっ………!! かわえぇ〜〜〜!!!
この声を目覚ましにしたいよ。
「かわいい家族なことだ。まぁよい、市民カードは持っているかい?」
「これですよね」
「そうだ。ふむふむ………なになに? 冒険者ランクAで【デューセルの大聖者】に、領主様の刻印が押してあるな………」
しばらく私のカードを見ていた門兵さん。
「ガーーーッハッハッ!!!」
さっきよりも大きな声をあげて笑い始める。
なに。こわいよ。
周りにいた門兵さんも、急に笑い出した仲間の元へかけより、我先にと私のカードを見る。
そしてまた皆で笑い始める。
なんか、みんなお仕事サボっても大丈夫なの?
「嬢ちゃん。長いこと門兵をしているが、さすがにここまでよく出来たニセモノのカードを見るのは初めてだ。怒らないから、誰に作ってもらったか教えてもらってもいいかい?」
「えぇっと…それは私の街の商業ギルドの方に作ってもらったカードで、名前は確か……ムイさんと言ってました」
「ムイ? ムイってデューセルの商業ギルドのギルドマスターじゃねぇか」
「あぁなんかそんなこと言ってたような気がします」
「「「………?」」」
門兵がお互いに顔を見合わせる。
いやそんな顔で私を見られても困るよ?
すると、森の方から何人かの兵士らしき人たちが馬に乗ってやってきた。
「何を騒いでいる?」
「ハハッ! これは王国騎士団のグレン殿!」
王国騎士団ってことはカイルさんの知り合いってこと?
「何、この娘が怪しげな市民カードを提出しましたので、皆で審議を図っていたところであります!」
いやいや、おじさん話を綺麗にしすぎじゃない?
「そのカードを見せてみろ」
「ハハッ!」
そう言って私のカードを兵士に見せる。いや私の人権どこいったの?そんなに人の個人情報をたらい回しにしないでよ。
「名前は………リン……?」
「ええっと、はい」
「ま、まさか!? リンと言ったら……!!」
兵士が驚き混乱している。
どうしたのよ。
「どこの街からきた!?」
「デューセルです」
「そ、そんなバカな!?」
「ば、バカと言われましても事実ですし……」
「私たちは国王様よりノイン様に伝達を頼まれ、デューセルからここへと戻ってきんだ。英雄レベルのお方が現れたとのことだったが、それが14歳……の少女………だとお聞きになって……この目で確かめる必要が…あると…………名前は……リン……」
兵士さんが何かを察したように私のことを見る。そんなに見ないでよ。
「あぁそれ多分、私のことです」
「「「「「な、なっ!?」」」」」
兵士さんに加えて門兵さん達まで、私を見て驚く。そんな顔で見ないでよ。私これでも14歳の乙女なんだよ?
というか、私のやったことは秘密になってるけど、私のことが秘密になってないよ?
「ま、待て! そもそも、我らはノイン様に伝言した後、すぐにここまで戻ってきたのだぞ? なぜ先にここに着いている!?」
「わ、私も言われてからすぐ来ましたし……」
「そんな事があるか! ここまで一本道のはずだ!!」
「そう言われましても……」
「一体何がどうなっているんだ!」
「さ、さぁ………」
1晩寝た後にカレー食べてドラゴンに乗って飛んできましたなんて言えない。
『ねぇテアどうしよ……』
『妾に乗って飛んできたことにすれば良いではないか』
『だ、だけど……』
『妾は構わん。それに、転移してきたというよりかはまともな言い分じゃろう』
『うーん。わかった。それなら……』
「あの、カイルさんってご存知ですか?」
「カイル殿を知っているのか!?」
「ま、まぁ。そのカイルさんに、お前のことはできる限り内緒にしておいた方が良いと言われているんですけど……」
「ど、どう信じれば………………」
「私があなた達より早くここに来れる事がわかったら信じてくれますよね?」
「あ、あぁ。信じよう。それに我らが英雄様に働いた無礼も詫びる。どんな処罰でも受けよう」
「や、やめてください! 私は英雄じゃありませんから。それじゃあえっと、あなたのお名前を聞いても良いですか?」
「あぁ。私はグレンという」
「じゃあグレンさんにだけ教えるので、このことは黙っておいてもらえますか?もし約束を破ればカイルさんに言いますよ?」
「な!?」
「私、カイルさんに貸しがあるので、もし私が言いつけたらグレンさんが大変なことになっちゃうかも………」
「なんと!? カイル殿に貸しがあるのですか!そ、そんな恐ろしい事、決してしません!!!」
『リンもなかなかやる事が鬼畜じゃの』
『秘密はできる限り秘密にするのが1番だよ』
そう言って私はグレンさんを森に連れてきた。
認識阻害魔法を、私たちのいる場所から半径50m範囲にして発動しておく。これで見られることはない。
「じゃあテア。お願い」
「よかろう」
そう言ってテアが中サイズになる。
「な!?」
「もう良いよ。テア」
「うむ」
「か……っ……」
「こういうことです。テアはおっきくなれるんですよ。もちろん内緒ですよ?」
「あぁ………」
「テアの上に乗ってきたので、30分で着きました」
「な、………」
「信じてくれますか?」
「こんなものを見れば………………信じるしかないな………」
グレンさんと一緒に門へと戻ってくる。
「わたしが責任を持つ。彼女達を王都へ入れなさい」
すると、最初の門兵さんが私の元へやってきて、頭を下げる。
「数々の無礼、大変失礼いたしました!」
「いえいえ、こんなちっさい女の子が国王様に用があるなんて、誰も思いませんよ。だから気にしないでください」
「ハハァッ! ありがたきお言葉!!」
この世界の人たちはみんな大袈裟すぎるんだよ……。
「そういうことなんで、私行きますね」
「お待ちください! 大切な国王様のお客様、いえ、街を救ってくださった大聖者様をそのまま放っておくわけにはいきません!」
グレンさんが私を呼び止める。
いやぁ、私からすればテアと2人のほうがいいんだけども………
「私なら、自分を守れる程度の力はありますから、大丈夫ですよ」
「そうもいきません! 大聖者様とはいえ、得意なのは治癒魔法。我々は戦闘に長けている身でございます故、失礼ながら大聖者様よりはその身をお守りさせていただけると自負しております!」
いやあなたさっきテアの姿を見たでしょ。
これほど強い護衛この世界にいないよ。
って言っても、そういえばこの世界の人ってドラゴン見たことないんだっけ………
テアが、ただおっきくなれて空を飛べる動物としか思ってない可能性があるな……
まぁ恐れられるよりはマシか。
『リンは妾だけでは不満か?』
『そんなことないに決まってるじゃん。でも、テアの実力を見せちゃうとまた騒ぎが起きそうなんだよね……』
『まぁそれもそうかもしれんがな。しかし一度こうなった堅物は、生半可なことでは譲らんぞ』
『確かに……。うーん………』
あっ、いいこと思いついちゃった
『ねぇテア。私の体を使ってあの兵士の人と剣で勝負できる?』
『ふむ。所詮はあのガキンチョの下っ端になる男じゃろ? 造作もない』
『さっすがー! じゃ、お願いね』
残念ながら私の脳筋身体強化を使えば、明らかに実力差が出てしまう。
かといって魔法で勝負しようもんなら「しかし我らには剣が!」とネチネチ言ってきそうだ。
なら、本業で勝てば何もいってくることはないと予想した。
しかし私には剣の心得など一切ない。
その私がこの体の脳筋さに任せて接戦勝負なんてものをすれば、何かしら違和感がでてしまいそうな気がする。
てことでテアに代役をお願いする。
とは言っても今テアは私の肩に乗っている。いきなり私の体の中に消えれば、それはそれで問題になる。
頭にテアの分身をイメージする。
それも、私の肩から動いて足元へ動くようなイメージで………
『テア。やりたいことはわかってるよね?』
『もちろんじゃ。思考を読んでおる。好きなタイミングで魔法を使うとよい』
『いやぁ、さすが私の推しね』
「はよせい』
足元へテアの分身を作ると同時に、テアが私の体へと融合する。
幻術作戦、成功だ。
周りの人たちは気づいていない。
「グレンさん。私と剣で勝負しませんか?」
「何を言っているのですか?」
「私が勝てば、少なくともここにいるあなた達よりは強いはずです。なら、護衛は必要ないですよね?」
「ま、まぁ仮に勝てた場合はそうなるかもしれませんが………」
「よし! じゃあ私が勝てたら、護衛は今後一切必要ありません! 絶対につけないでください!」
「な、わたしは王国騎士団でも実力はある方です。そ、その……大聖者様が怪我をされては……」
「私は治癒魔法は得意ですよ? 本気でかかってきてください。もし後で手を抜いていたなんて言われても困りますし」
「し、しかし………」
仕方ない。私は小声で、しかし聞こえるような音量で呟く。
「帰ったらカイルさんに、こんな心の弱い者を王国騎士団に入れるのはどうかと思いますって報告しよっかな〜」
「ほ、本気でやらせていただきます!!!」
「うむ! よろしい!」
てなわけで私、じゃないや。テアとグレンさんの真剣勝負が始まろうとしていた。




