33 カレー
私は今、イリアさんのお店でお手伝いをしている。
今は、お昼時。
そして
─────大行列だ。
「セリ! そっちの卵付きは2番さんにお願い!」
「わかった!」
「リンちゃんはそっちのを5番テーブルに持っていってくれるかしら」
「おっけー!」
「あなた! もうちょっとペース上げれないの!?」
「もうこれ以上無理だ!」
ひっきりなしに声が飛び交う。
セルニアさんが、仕事してる。なんかすごい。
さて、なぜこうなったかというと、原因はシーナにある。
それは一昨日の出来事だ。シーナがここでカレーを食べて家に帰った後、ノインさんにカレーのことを報告したらしい。それを聞いたノインさんが翌日食べに来る。
当然、領主が街を出歩けば自然と目立つ。
そしてノインさんがこの店に入り、カレーを食べる。それを見た街の人がカレー屋に入る。
最近おすすめしている辛さがマイルドに抑えられている卵入りのカレーを食べる。
当たり前に美味しい。
そして今日。
噂が噂を重ね、ご覧の通り、この店は戦場になっている。
私がラーメン屋として大成させる前に、カレー屋として大成してしまった。
今からここをラーメン屋に魔改造するのは、さすがの私とてできない。
イリアさん達はずっとカレーで商売を続けてきた。それが大成してる今、無理矢理に私が別のメニューを押し付けるのは気がひける。
それに、ここのカレーは本当にお世辞抜きで美味しい。前世で食べたカレーを合わせてもぶっちぎりで1番だ。
カレーといえばパパッと提供できるイメージがあったが、どうやらセルニアさんには相当なこだわりがあって、あらかじめ元となるカレーは作ってあるのだが、提供する前に火入れし、後になにやら食材を入れて、最終調整をする。
とにかく、かなり手間がかかっている。
そのあとも行列は止まず、用意していたカレーは13時前には売り切れてしまった。
もちろん他のメニューも多少はあるのだが、何せみんなが初めての大行列に疲労困憊し、今日の営業は終了することになった。
そんなわけで営業終了後に私は声に出す。
「いやぁまじで戦場だったね」
「こんなの初めて…もう…限界……」
「おねえちゃんだいじょうぶ?」
セリが机に伏してる姿を見て、セアが心配そうにしている。
セアは元気だね。
「もう! リンちゃんがシーナちゃんを連れてきただけでも驚くというのに、なぜ領主様が食べにくるのよ!」
「まぁまぁ、ノインさんは『前にこの店に無礼を働いてしまったことを詫びる目的もあった』とかなんとか言ってたし。いいんじゃないですか?」
「まぁ、リンちゃんみたいな子が急に街に現れたらみんなびっくりするわよ」
「そうかな?私は気を使ったつもりだったんだけ─────」
「「どこがよ!!」」
机に伏してるはずのセリまで私にツッコミをいれる。
2人して私をいじめてくるよ。
って、そんなことを言ってる場合じゃない。私はこのお店をカレー専門店にすることを提案した。
「けどリンちゃんが私たちのためにメニューを考えてくれていたんじゃないの? いくらこの店が売れ出したからって言って、リンちゃんの好意を無碍にすることなんてできないわ」
「私は、このお店をもっとみんなに知って欲しかっただけなんです。それで、私の村にあった食べ物をここで売れば、珍しくてみんなが来てくれるんじゃないか、って。だから、イリアさんの気持ちもわかりますけど、今回に限ってはむしろ私にとっても嬉しいことなんです。だって、これまで苦労してでも守ってきたカレーが、私が何かするまでもなく、これほどまで皆んなに評価してもらえて、食べてもらえてるじゃないですか」
「リンちゃん……。だけどこれも、リンちゃんが卵を教えてくれたりシーナちゃんを連れてきてくれたおかげね。ほんとにあなたには救われてばかりだわ」
イリアさん。そんなに褒めても私からは出汁も何も出ないよ。
「それに私も、イリアさんとセルニアさんが作ったカレーをまだまだ食べ足りなかったので。これでいつでも美味しいカレーが食べられるよ!」
「ほんとにリンちゃんは……セリのお嫁さんにでもなってくれないかしら」
「ちょ、ちょっと母さん!! それはっ!!」
セリがなぜか顔を真っ赤にしている。
この際、性別は置いておくとして、セリは可愛いけど将来が心配そうだから却下だ。
「聞き捨てならん話じゃ」
そう言って私の中からテアが出てくる。
ちなみにイリアさんとセリには、先日あった騒動の真相を話してある。信頼できる人たちだ。それに、私に家族のように接してくれている。話さない理由がない。もちろんシーナの許可も、とっておいた。
テアがドラゴンだということは話してあるし、融合魔法についても話してある。
最近テアは、私の思考などには一切干渉せず、ただ単に私の身体を住処にしている。
そういうこともできたのね。
何を考えているかバレるので、その方がありがたい。まぁテアにバレて困ることはないんだけど。
「それはつまり妾の家族が増えると言うことか?」
「テアもいきなりすぎるよ! さすがに女の子同士では結婚はできない………よ?」
あれ? この世界って同性婚とか認められていたりする?
「どうして疑問系なのかしら? 女の子同士で結婚なんてできるわけないでしょう」
「だよね。びっくりした」
「もしかしてリンちゃんのいた村では女の子同士も…?」
ああー、まぁあるね。
あるんだけど、一応ないことにしとこう。こんなところから私が異世界からやってきたなんてバレたら困る。
「さすがにね、ないよ」
「そうなのね。私は別に構わないと思うんだけど」
イリアさんは許容派だった。ちなみに私も許容派だ。
てか、なんの話からこうなったんだっけ。もうわからないよ。
『リン。誰かがくるぞ』
『え、急に誰よ』
『わからんがこちらに走ってくるのが見えての。これは人間じゃ』
私は一応警戒しておく。
今みたいに、テアは常に周りを警戒してくれている。どうやら癖で警戒してしまうらしい。どんな癖だよ。
「イリアさん。もしかしたら誰か来るかもしれないけど、私がいるから安心して」
「リンちゃん? 急にどうしたの?」
『来る』
─────バタンッッ!!
扉が勢いよく開く。
「リン!」
ってカイルさんかーい!
「今すぐ屋敷に来てくれ。ノインと俺の人生がかかっている。拒否権はない」
「うん?」
呑気な話をしている間に、私は勝手にノインさんとカイルさんの人生を背負わされていた。




