26 魔力授受術式
魔法陣をよくみると、何やら不気味な粒のようなものがうごめいている。
これが、集められた魔力なのだろう。
目に見えるほどとは、相当な量だ。
『とりあえず、魔法陣ってどうやって破壊するの?』
『妾が知っておる魔法陣なら、その魔法陣を構成しておる魔力を乱せばよい』
『よくわからないけど、とりあえずテアに任せていい?』
『やってみよう。とりあえずはこの魔法陣が何者かを見る必要があろう。リンも妾の思考回路に繋げてやろう』
……
…魔力を感じる。
しかし、どうやら普通の魔力ではない。
よく見ると文字になっている。ぼやけていたものが、はっきりと見えるように浮かんでくる。
………。
要約するとこうだ。
〈魔力授受術式〉
この地に存在する魔力を取り込み、別次元空間へと溜め込む。
また、その空間に架空の転生神を作成。
溜め込んだ魔力を、転生神の能力により特定の人物の魔力と同等のものに転生させる。
転生させた魔力を、この術式を媒介にして、その人物に付与する。
(魔力を転生させる際に、あらかじめ同調する者の魔力を魔法陣に流し、読み取っておく必要がある。)
この術式は半永久的に作動する。
魔力を付与しない場合は、魔力の取り込みのみを続ける。
魔力を取り込まずに付与し続けた場合は、魔力不足が生じて術式が解体される。
従来の術式は、術式を構成する魔力の撹乱によって解体されるが、膨大量の魔力を取り込み続けるこの術式は、その方法により無意識的に解体される恐れがある。
そのため、魔力の撹乱によっては解体できないように改良を施した。
他にもいくつか改良したことで、解体するには先に述べた、魔力不足による方法しか存在しない術式が完成した。
なんだこれ。バケモンじゃん。
『リン、聞こえるか』
『うん。聞こえる』
『リンにこの術式が読めるかえ? 妾も試そうと思ったのだが、どうやら文字が未知のもので書かれているらしくてな。さっぱりじゃ』
『ということは、この術式は暗号化されているということね』
『そうなるじゃろう』
『なら、大丈夫。あのジジィが言ってたけど、私このバカみたいな術式作った人と同郷だから。文字は読めるし、意味もわかった』
『なんて書いてあったんじゃ?』
『んーっと、テアがさっき私にしてくれた思考回路を繋げるのって、私にもできる?』
『リンならできるじゃろ。何、簡単じゃ。妾と思考を繋げたいとそう念じるだけじゃ』
いや脳筋魔法だったのかよ。
『んーっと………ほい!』
『さすがリン。できておるぞ。リンの思考を読み取る故にちょっと待っておれ……』
しばらくするとテアが、ドラゴンの姿に戻って出てきた。
「全く、なんだこの非常識な術式は」
「やっぱテアもそう思うよね?」
「当たり前じゃ。しかも、これに書いてあることを考えると、あのバカは撃退システムなどは組み込んでおらんじゃろ」
「それは私も思った。だってこれ、破壊不可能じゃん」
「まぁ試しにやってみるか」
─────ゴォッッッ!!!
テアが魔法陣が描かれてある地面に向かって、爆裂魔法を使った。
「見てみ、びくともせんわ」
「これはもうバケモン魔法陣って名前でいいよね?」
「構わん」
というわけでバケモン魔法陣をなんとかする方法を模索する。
その後しばらく試行錯誤した。
もちろん再びテアと融合し最大火力の魔法を放ったが、もちろん壊れない。どのような仕組みになっているのか知らないが、解体不可能の言葉は伊達じゃない。
試しに魔法陣の外にちょっとした魔法を放つと、その地面はすぐに割れ、地面の破片が飛び散った。
この結果から、脳筋で破壊しようとしても、周りを危険にさらすだけで意味がないということで一致した。
それから私たちは魔力を流してみたり、別次元空間とやらに入れるかを試してみたり、魔法陣を書き換えられたりできないかを試してみた。
しかしどれもできなかった。
テアの考えによれば、どの手段も間接的に魔法陣を解体しようとしていると判断され、破壊不可能のギミックが発動するのだろうとのことだ。
納得した。
そうなれば、ますますこのバケモン魔法陣を破壊することができない。
破壊しようとすればするほど、破壊できなくなる。
なんだこのバケモン魔法陣は。
こんなバケモン魔法陣作れるなら異世界ぐらい渡れるだろうがよ。
迷惑かけずにさっさと帰っとけよ。
さてそうなると、ここに書いてある通り、魔力不足を起こさせるしかないか…。
とは言え、頭がおかしいほど魔力が溜まっている。
この術式で魔法陣を作った時点で、英雄は勝ちを確信したのだろう。
くそ。なんかむかつく。顔わからんけどニヤニヤしながらこっちみてる気がする。
くそーっ!!!
だけど、どうして戻ってこなかったんだろう。魔力は十分すぎるほどに溜まってるし、これだけ溜まってれば元いた世界に帰れるんじゃないの?
ジジィは、帰る魔法自体は別で作ってたって言ってたし。
「ねぇテア」
「どうしたんじゃ?」
「なんであのバカはここに戻ってこなかったの?十分な魔力溜まってるよね?」
「リンは魔人のことを聞いてなんとも思わんかったのか?」
んーっと。
「あ、そっか。言われてみれば。帰ってこなくて当たり前か」
生物には魔力が入る器のようなものが存在する。
その器から魔力が溢れて仕舞えば、その魔力を制御できなくなり、魔人や魔物になってしまう。
「じゃああのバカは人間が扱える魔力には最初から上限があったって知らなかったってこと?」
「そうなるじゃろう。だからあんなバケモン魔法陣を作ってしまったのじゃろ。魔人化した人間を見た時に、もしかしたら悟ったのかもしれぬな」
「ますますバカじゃん」
「同感じゃ。それに、その時すでにもう自分の想定を超える量の魔力が集まっていたんじゃろ」
「まぁ、1人1人から奪ってた魔力は少ないとは言え、国、いや、世界を巻き込んでの魔法陣だもんね」
「そうじゃ。もしこの国だけが魔力を奪われておるなら、弱体化しておる故に周りの国に支配されていても不思議ではない。そうならなかったのは、この世界から等しく魔力が奪われておるといったところじゃろう」
あ、そっか。
今分かったけど、魔物が減ってる理由はそれか。
魔力を奪われたことで魔力が器に収まっているんだ。だから魔物が魔物になる前の、動物という状態で止まっているんだ。
「ちなみにその器って見れたりするの?」
「あぁ、試しに妾の器を見せてやろう」
「お願い」
するとテアの中に、球体のようなものが見えた。その中に魔力らしき液体があるのがわかる。
魔力は水みたいなものか。で、球体が器か。
わかりやすくていいねこれ。
そういえば、ポーションに込められていた治癒魔法も、液体のようなものだった。
「えっと、テアの器しか見たことないんだけどみんなこんな感じなの?」
「あぁ。リンもこんな感じじゃ」
「私の器も見れるの?」
「うむ。コツを掴めば誰の器も見える。探知魔法みたいなもんじゃ」
と、すると………
私の脳に1つの作戦が閃く。
よし。これならいける。
私はテアに考えを話す。
テアは一瞬驚いたが、すぐに私を信じてくれた。
「まったく。リンはなかなか楽しませてくれよるの」
こうして、私とテアによる英雄の尻拭いが始まった。




