254 帳尻合わせ
「リンさん? あなた正気なの?」
「もちろん」
「フィリアさんからも何か言ってあげて」
「いやぁ、ウチにはもう止められへんのです」
「フィリアさんが止められないって…一体どういうことなの…」
もちろん、毒ガスに飛び込もうって話じゃない。
とりあえず近くまで行けば何かわかるかもしれないからね。
まぁ、偵察みたいなものだ。
もしかすると、ハーフフェアリーのセシアなら何かわかるかもしれない。
最近セシアはずっと、テアの妹であるロアと一緒にいる。
サリナさんがセシアに学院での研究を与えて以来、ずっとロアと2人で引きこもって研究している。
まだそこまでの時間が経ったわけではないけど、かなりお似合いのカップル(?)だ。
なんてことを考えていると、しばらく黙り込んでいたカレナさんが口を開いた。
「わたくし達は包み隠さずお話しすると誓いましたわ。けれども、それとこれとはまた別です。あなた方お2人を危険な目に合わせるわけにはいきません」
「ですよね」
「けどカレナさん。こうなったリンちゃんは、そう簡単には引きませんよ」
フィリアが私を呆れたように見てくる。
何よその目は。
「それは困ったわね…好奇心があるのは良いことだけれど、あまりに危険すぎるわ」
「もちろん私が解決するなんて、おおそれたことは言えないですけど、何かわかることがあるかもしれませんし」
「ならば、約束してちょうだい。わたくしが指示した場所までしか行かないと」
「それは、安全だと保証されている場所まで、ってことですよね」
「えぇ。そこまでは確実に毒の効果が及ばないことはわかっているわ」
「………わかりました。約束します」
とりあえず、その場所からどこまで把握できるかはわからないけど、確実に毒の効果が及ばないと言うことは、私が毒を受けられないということだ。
困ったもんだ。
この脳筋ボディでも耐えられるかどうか気になっていたけど、それはまたこっそりと一人で実験することになりそうだね。
とまぁ何も、私だってただ毒を喰らいたいだけではない。
もし毒の成分とかがわかれば、そこから繋がる話もあるということだ。
例えば…
「あの、その毒の被害に遭った人というのは今どうなっているんですか?」
「そうね。良くも悪くも、体質や毒にさらされていた時間によるから、個人差があるの。良くて咳程度、最悪の場合は死んでしまうわ」
なるほど。
「つまり、毒の効力によって今も苦しんでいる人がいるということですよね」
「えぇ。もちろん面倒を見ているのだけれど……」
あとは察してくれ、ということだ。
カレナさんはこんなに優しい人だ。治療してあげたい気持ちはあるのだろうけど、解毒できるほどの優秀な治癒師になればなるほど、国にとっては貴重な人材だ。
そしてなにより、毒が伝染しないとも限らない。
つまり、治癒師としてはあまり腕のない者たちや、メイド、家族などが世話をしたりしているのだろう。
まぁ聞いた感じ、細菌性やウイルス性のものではなさそうだから、実際のところ感染はしないだろうけど。
さて、私は薬剤師でもなんでもないから、薬を作ることはできないけど、脳筋魔法で毒の成分を体から抜いたりできるかもしれない。
てか、出来なければあの神様をぶん殴ってやろう。
こういう時のための脳筋魔法だ。
しかしまぁ魔法でゴリ押したとバレると、ちょっと困る。
どう説明すりゃいいか考えるのも面倒だ。
うーん…
んっとー…
あっ…!
私の知り合いの治癒師(架空)を登場させ、適当に誤魔化そう。
私が実際に目の当たりにした毒の特徴や、吸ってしまった人の症状などを治癒師(架空)に伝えて毒の成分を分析してもらい、薬を作ってもらった、とカレナさんにはそう伝える。
そしてその薬を飲ませる。
もちろん、薬の中身は適当に用意した苦い粉末だけどね。
そんで、薬を飲んでる最中に、こっそり治癒魔法でも使って治してあげよう。
架空の知り合いのことは、相手の希望で正体を明かさないことにしとけば、問題なかろう。
カレナさんも、謎の治癒師(架空)が正体を明かしたくないと分かれば、そこまで追求して来ないはず。
ふっ。
私、天才だ。
まぁ人を騙すのは少し心が痛む。
特に、カレナさんのような出会って早々確実にいい人そうなオーラが出てる人を騙すなんて、尚更だ。
けど私の場合は、何でもかんでも馬鹿正直に話すと、とんでもないことになりかねない。
「リンちゃん」
「あっ、ごめん」
危ない。また1人の世界に入っていた。
「明日、朝ご飯を食べてから出発にしましょう」
「そんな急に大丈夫なんですか?」
「えぇ。ちょうど我が国が誇る魔法師も帰って来るところだし、護衛も万全よ」
「ほほう…」
つまりこの国の最大戦力にほぼ等しいと。
これでとんでもないのが来たらどうしよう。
……良くも、悪くも。




