237 探し探され
シーランに泊まり始め、今日で4日目を迎える。
1日目は特に進展なく、出だしの悪いスタートとなったが、2日目はともかく3日目まで何もないとなると、いよいよこちらの負けすらも見えてきた。
相手側から仕掛けられることはおろか、向こうの情報もこれといって見当たらない。
怪しいやつらを見つけては、無理やり視界に入ったり、大声で泣いて迷子のフリしてみたり、色々やったけどダメだった。
子供3人でうろちょろするのも限度があるため、そろそろ引き際というところだろうか。
今更ながら私たちは、迷子になったアーニャのお母さんを探している、という設定になっている。
私とフレアはそれに協力しているお友達、てなところだ。
アーニャの似顔絵を描いてもらって、そこに『お母さんを探しています』という文言付きのチラシを、冒険者ギルドや商業ギルドに貼ってもらった。
すぐに見つけてくれるだろうと思っていたけど、残念なことに、迷子というか、子供を街に放ったらかして親が逃げる、なんてのはよくある話らしい。
そのため、人探しの掲示板は、もはやギルドの風景の一部として、背景に溶け込んでしまっている節もある。
しかしまぁ、宣伝効果としては何もしないよりかはマシだろう。
「アーニャ。今日ダメだったら、一旦引こう」
「リンさん…本当にありがとうございました…」
「いやいや待って、全然解決できなかったから、何も感謝されることはないって」
「わたしたちが助かっただけでも奇跡です…」
「それはそれ。これはこれ」
もし盗賊が逃げただけなら、最悪の場合放ったらかしておいても良かったけど、他にも被害者がいるとなれば、どうしても歯切れが悪い。
まぁ、ある程度見切りはつけないとキリがないから、仕方ないと言われれば仕方がない話なんだけどね。
世界を見渡せばそんな子達は山ほどいるんだし。
私の後味の問題だ。
「もっと私の頭が回れば、他に何かできたかもしれないけど…」
「リ、リンさんは悪くありませんっ!」
「アーニャの言う通り。それを言うならわたしにも責任がある」
「そっ、それを言い出せば………」
2人の言う通りなのはわかる。
悔しいこの気持ちを、どこか自分の責任にすることで、現実から目を逸らそうとしてるだけだ。
私も、わがままな女になっちまったもんだよ。
「もう日も落ちてくるし、今日はあっちの方をぶらぶらしてから帰ろっか」
「うん。もう割とこの街の怪しそうなところは行き尽くしたよね?」
「市街地図を見る限り、いかにもなところは全部回ったね」
テーマパークぐらい歩き回ったよ。
もうこの街の道については、割と細部まで把握できてそうな気がするレベルだ。
さて、似顔絵はしばらく置いといてもらって、もし何かあればリーシャさんかヒルドさん経由で知らせてもらう段取りになっている。
いつまでもここにいても埒があかない。
ここは素直に下がろう。
気持ちを切り替えていかないと、日常生活に支障が出ちゃう。
クズ共を見つけられるにしろ、そうでなかったにしろ、私のメンタルを維持するためにもここは踏ん張りどころだ。
「お嬢ちゃん達やぁ。ご飯ができたよぉ」
「はーい! 行きます!」
結局、ダメだった。
私たちはといえば、お世話になっている小さな宿へと戻っていた。
そして今、宿のお婆さんから、ご飯ができたとのお達しが来たので、これにて作戦と反省会は一旦終わりだ。
昨日までは、やつらが活発になるであろう夜中にも街を歩き、目立つよう行動していたんだけど、さすがに睡眠不足だ。
アーニャやフレアに、負担をかけすぎるわけにもいかない。
今日は宿でゆっくり体を休めて、明日みんなの元に合流する体力を付けないとだ。
「どうだったんだい?」
「あーっと…今日もダメでした…」
「そうかい…」
お婆さんには、アーニャの母親を探していると言ってある。
それに、最初はお金もいらないと言って、意地でも受け取ってくれなかった。
もちろん、そのまま引き下がるわけにもいかず、せめてこれだけは受け取って欲しいと、普通の宿の半額ほどを半ば強引に渡した。
今度、何かお礼を持ってこなくちゃね。
それに、お婆さんにはめちゃくちゃ良くしてもらっている。
こんな家でよければいつまでも居なさい、と言われた時はめちゃくちゃ心が痛かった。
騙したいわけじゃないんだ。これだけは許してほしいよ。
「それじゃあ、明日帰るのかい?」
「はい。私たちも、どれだけ長くても4日間って約束して、この子についてきたので」
「そうかい。今日ぐらいはゆっくりしなさい」
「はいっ!」
続いて2人が降りてきた。
「今日もすごくいい匂いがしてますっ!」
「そうかい。喜んでくれたのなら、作った甲斐があったというもんじゃい」
部屋の数も少ししかなく、お客さんは私たちしかいないので、お婆さんを含めた4人で食事を取ることにする。
この世界における、おふくろの味というのはわからないけど、なぜかここでご飯を食べてるだけで安心感に包まれる。
これが実家のような安心感というやつかね?
「明日、お昼ご飯は食べていくかい?」
「いいんですか…?」
「もちろんかまわないさ」
「甘えさせてもらいます。フレアとアーニャもいいよね?」
「もちろんっ。ありがとうございます」
「はいっ!」
私の感覚ではお昼前にチェックアウトだったけど、その辺は割かし、うやむやなのかも。
何はともあれ、明日はお昼を食べてから出発かね。
……寝れない。
もうみんな寝静まっている時間なのに、どこか空気がざわついている。
何か心臓がバクバクする。
試しに魔力探知を使ってみるも、この宿にはお婆さんと私たちしかいない。
当たり前だ。
というか、お婆さんには念のため防御魔法をかけてあるから、何かあっても安心は安心なんだけど。
……にしても、寝れない。
こういう時は昔から、今食べたいラーメンを思い浮かべながら寝ていた。
心が落ち着くんだよね。
私の今の気分は…
清湯スープにキリッと塩分が効いた、塩ラーメンだ。
鶏油をふんだんに使い、鶏のエキスを存分に感じられる一杯。
熱々に煮えたぎったスープから、さらに熱々の麺が掬い上げられる。
啜ろうと顔を近づけると、顔の周りは熱気で覆われる。
そう、まるで今の私のように…
……んっ?
今の私、なんか熱気すごくない?
こんなに体温上がるほど、胸ざわついてた?
「リ、リンさんっ!」
「んんっ? アーニャ?」
1人でゴソゴソしてたから、起こしてしまった。
…他意はないよ?
「なんか熱いよっ…」
「アーニャまでっ!?」
けっ、けしからんっ!
って……
言われてみれば、部屋全体が熱い…?
「ねぇ、燃えてない?」
「フレア?」
フレアも起きたのか、ぼそっと呟いた。
そして、言われてみれば、燃えてる。
いきなり自分のいる空間が燃えるなんて思ってもいないから、訳わからない勘違いしていたよ。
いや、勘違いであって欲しいよ。
なんで燃えてんの?
『馬鹿野郎! あんまりやると騒ぎになるだろ!』
『大丈夫っす任せてくださいよアニキ』
私たちの寝室の扉の前から、汚らしい野郎の声が響いてきた。




