232 久々のピンチ
「うーん…」
「どうじゃったかの?」
「それらしい人はいませんね…」
「そうであったか…」
「怪しい人ならもちろんいるんですけど、それこそ証拠がねぇ…」
「この街はいわば、大きな病院とでも言えましょう。色んな場所から怪我人や病人が訪れる街ですからの」
「ですよねぇ…それが良くも悪くも、善人や悪人の区別がないわけだし」
「ほほほ。本来はその判断をして頂くのが、門兵のはずなのですからな」
「その通りでなんとも言えねぇっす」
「我々に出来ることは、目の前にいる者の命を救うことでありますからの」
私たちは、ヒルドさんの元を訪ねていた。
結果から言ってしまえば、これ以上にない情報を提供してくれた。
というのも、ここ2週間にこの教会を訪れ、何かしらの治療を施されたもののリストを見せてもらった。
いわゆるカルテってやつだ。
この世界には生憎、個人情報を保護してくれる法律なんてのはないからね。
…ってのは置いといて。
もちろんダメな場合もあるが、今回は一応、正義の行いということで、私がカルテを調べても問題ないということになった。
一通り調べ終えたが、やはりヒルドさんの言っていた通り、ここから特定するのはかなり難しい。
怪しいやつもいるにはいるが、そいつらが果たして今回の件に関わっているかとなれば、また話は別だ。
「やっぱり、見つけてもらった方が手っ取り早いってもんなのかなぁ…」
「しかしながら、いつまでも若造達がここでのんびりしておる、という保証もないじゃろう?」
「この街にはもういない可能性もありますよね」
「うむ」
それが一番困る。
アーニャ達を助けた場所からここまで、注意を払ってシーランまで来たが、怪しいやつは見かけなかった。
そうなれば、アーニャ達のことは諦め、潔く上司へ報告しに別の場所へ、あるいは逃走、なんてことも考えられる。
もちろんそういった場合も作戦段階であがってはいたものの、こうなればいよいよ探すのは難しい。
だからこの場合はなるべく想像したくなかったんだけど…
ここになって少し現実味を帯びてきてしまったか。
「治療を受けてすぐ街から出ていく、なんてこともあるあるですよね」
「むしろ、大半がそうであろうな」
「うーん…となると滞在期間から絞るのも難しそうかぁ…」
リーシャさんとヒルドさん、両方を頼ってダメなら、いよいよ私もピンチってものだ。
他人任せな私の作戦に欠陥があったと言われればそこまでだけど、頼りになる人が周りにいるんだもん。
仕方ないじゃん。
「我々もリン殿のお役に立ちたいのじゃが、このくらいが限界かもしれませぬ」
「いやいや、これだけでも十分価値がありましたよ。それにヒルドさんも大変なんですよね…」
「教会内も色々とややこしいことが多くての。ロドル派のやつらが起こした一件で、内部の派閥がまた大きく揺れていての…」
ロドル派というのは、メズナ達が信仰していたように、ドラゴンを神として祀る宗派だ。
後から聞いた話では、ドラゴンを神として祀る宗派は他にもあるらしく、ロドル派はその中でも、そこそこの規模を誇っていた模様だ。
私には縁もない話だけど、同じ神を信仰する宗派同士での地位の争いや、他を神信仰する宗派との潰し合いなどがあるのだろう。
その辺のごちゃごちゃで、ヒルドさんもかなり大変そうだよ。
「我々の方でも、できる限りのことはするが、あまり期待はせんでくれの。リン殿への感謝を忘れたわけではあるまいが、今はどうしてものう…」
「あの一件を解決できたのはヒルドさんのお陰でもありますから。私たちも結果的に大事なヒトを助けられたので。そこはお互い様ということで、貸し借り無しですっ!」
大事なヒトというのは、テアの妹であるロアだ。
もちろん、結果的にはセシアも助けられたんだけど、セシアに関しては自力でどうにかできたんじゃないの? って感じがすごい。
「また何かわかれば、すぐに知らせましょう」
「助かります」
ヒルドさんにお礼を言って、教会を出る。
ひとまずは、盗賊が嫌いそうな大通りからは少し離れ、住宅街のような場所へと向かうことにする。
「リンさん…面倒ごとに巻き込んじゃってごめんなさい…」
「どうしてアーニャが謝る必要あるのさ」
「だって…」
「だってもへったくれもありません! そんなことで自分を責めないっ!」
「はっ、はい…」
こんな歳から自分を責めていては、体がもたなくなるよ。
「けど、少しピンチかも」
「そだなぁ…怪しいやつをこちらから探りつつ、向こうから見つけてもらうのがいいかなぁ」
「わたしもそう思う。でもまずは少し腹ごしらえした方がいいかも」
フレアがアーニャの方に目を向ける。
確かに、朝少し食べたきり、何も食べてなかったっけか。
「あそこのお店に行こっか」
ちょうど目の前にあった店に目がいく。
看板は肉が出ているから、お肉の専門店って感じかな?
そして、何やらとてつもなく美味しそうな匂いもしている。
言われてみれば、ステーキが食べたい気分だ。
いや、匂いに釣られ、たった今私の口がステーキの気分になったのかもしれない。
ステーキがあることを祈ろう。
なんと、明日も投稿できそうです!
自宅療養……本当にすることがないっ……




