225 来客
どうしてだ。
「んむぅ…」
何故なんだ。
「っにゃ…」
セリよ。
「んむにゃ…」
こんな寝言立てるのは反則だよ。
普段はちょっと気が強いくせに、とんでもなく可愛い寝息を立て、寝言とも言えないほどの短い単語をぶつぶつと呟いている。
今日の突発水鉄砲大会で、よほどはしゃぎ過ぎたのか、3人ともぐっすりと寝ている。
美味しいシチューを食べてお腹いっぱいになり、疲れがどっときたのか、普段ならそこから話したりするのに、3人揃って一目散にテントへと向かって行った。
私はと言うと、3人に続きテントに入り、ぐったりとしているうちに寝落ちした。
すやすや寝ていると、横からあまりにも可愛い寝言が聞こえてくるもんだから、つい目が覚めてしまった。
…と言うのは嘘だ。
正直なところ、小腹がすいた。
この時間にメシを食うのは罪だと分かっている。
だけど、堪えられねぇんだ。
全世界のダイエット中の皆さん、ごめんなさい。
……いや、待てよ。
せめて、少しぐらいは言い訳を考えよう。
そういえば、シチューを放ったらかしだった。
そうだ。私は今から、残ったシチューを片付けにいくんだ。
そのついでに、まだ消費期限が切れてないかを確認するだけだ。
私は正当な理由で、今からシチューを食べる。
「ふふ。でゅふふ。ついでにパンも1つくらい……」
誰が見てもわかる、薄気味悪い笑みを浮かべながら、テントの出口に手をかけて……
…
「……ん?」
私たちが座ってシチューを食べていた方に、何やら人の気配がする。
この時間に来客…?
とは言っても、私たちのテントはバリバリの防御魔法で固められている。
そんじゃそこらの野郎共が近づいてこようものなら、一生後悔すること間違いなしだ。
しかし、テントに魔法がかけられてるだけで、外側には何の魔法もかかっていない。
「外にはシチューしかなかったはずだけど…」
貴重品は、各自の収納魔法の中だ。
ということは、やはりシチューに群がっているのか…?
もしかして、炊き出し的な扱いになっているのかっ…?
私が丹精込めて作ったシチューがっ!?
そこらの野郎たちの糧になったとでもいうのかァッ!?
「リン…?」
「あっ、ごめん。起こした?」
「どうしたの…?」
どうやら、悶絶している最中にフレアを起こしてしまったみたいだ。
まぁ、どう考えてもシチューを放ったらかしにしてた私が悪いんだけど。
「外に誰かいるみたい」
「うん…?」
フレアがテントから、外をこっそり覗いた。
「子供…?」
「えっ…?」
私もその横から外を覗いてみる。
「全部で5人…」
「ほんとだ。子供だけ…?」
こんな時間に子供5人で遊びに来たわけじゃないよね?
それに、服装も気になる。
どう考えても、服ではない。ただの布だ。
どうしたもんかね…
「話しかけてくるよ」
「大丈夫?」
「うん。任せて」
フレアが対話をするらしい。
確かに、私たちの中では一番まともに会話ができる可能性がある。
一国のお姫様だからね。
まぁ懸念があるとしたら、身の安全くらいかな。
けどフレアも、こう見えて結構やり手だ。
テントの出入り口に手をかけ、ゆっくりと慎重に出て行く。
「こんな夜中に、どうしたの?」
フレアの声が、静かに響いた。
すると、全員が一斉に振り向き、1人の少女を盾にして、その後ろに隠れた。
先頭に立つその少女は、フレアをかなり威嚇している様子だ。
対話しようという意思はない。
「大丈夫だから、怖がらないで?」
フレアがなだめようとするが、かえって逆効果になってるようだ。
困り果てたフレアが私の方を振り返った途端、先頭にいた少女の足が動いた。
─────ドスッ
フレア目掛けて、とてつもないスピードで蹴りを入れようとしたが、その攻撃は咄嗟に転移して防いだ私に受け止められた。
「っと、大丈夫だから。落ち着いて」
「っ…!」
ダメだ。
余計に本気にさせてしまったみたいだ。
というか、おそらくこの子達に、言葉は通じてない。
例え読み書きは出来なくても、話せるのが普通なんだけど、どうやらこの子達はかなり特殊な環境にいるらしい。
「ねぇリンさん」
「どした?」
フレアが耳打ちしてきた。
「よし。じゃあこういうのはどう?」
私は収納魔法から、パンを何個か出した。
それをちぎって、まず私が一口食べる。
毒は入ってないよ、ということを伝える為だ。
決して小腹が空いたわけじゃないからね?
そのちぎったパンを、子供達に渡す素振りを見せた。
すると、リーダー格っぽい少女が、パンを手に取り、他の子達に渡した。
「食べてる」
「なんとかなったかな?」
「ひとまず警戒は解いてくれたんだと思う」
「ふぅ…」
相当お腹が空いていたのか、無我夢中でパンを食べている。
ここまで美味しそうに食べられると、こっちまでお腹が……
「これも食べな」
大量の食料を持っているから、この子達の胃袋が見た目通りのサイズなら、とりあえず満腹にさせてあげるくらいの余裕はある。
言葉は通じていないけど、気持ちは伝わったのか、私の出したものを、私の目を見ながら美味しそうに食べてくれた。
さて、問題点はいくつかあるな。
「まず、この子達はどこの誰なのか」
「うん。あと、他にもいるかもしれない」
「とてもいい環境にいるわけじゃなさそうだから、それはあんまり嬉しくないかもね」
「けど、もしいるなら、幾つか残して持って帰ったりするはずじゃないかな」
「それもそうか」
とりあえず、コミュニケーションの取り方を考えないとだ。




