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21 1つの可能性


 ノインさんの屋敷にある図書室にこもって5日間が経過した。

 さすがに、ラーメン屋魔改造計画は一旦休止中だ。


 私もそこまで廃人ではない。


 それと、4日目にカイルさんが王都からいくつか書物を持ってきてくれた。

 このためだけにわざわざ王都まで行ってくれたらしい。カイルさん見直したよ。


 そして5日以上かけて書物を漁り、ありとあらゆる仮説を検討した。

 

 その結果、あるひとつの可能性を見出した。


 私がまず気になったのは、カイルさんが持ってきてくれた王城直属の宮廷魔術師団が行っていた魔物討伐の実戦演習録だ。そこにはどういうわけか、この街の常識とは比べ物にならない威力の魔法を使用している記述があった。


 だが、200年以上前の話だ。


 当たり前のように、タイガーやグリズリーといった大型高ランクの魔物を一撃で仕留めている。


 しかもどうやら、新入りに向けた魔物討伐訓練での出来事らしく、新入りがそんな魔法を使えている時点で、宮廷魔術師団とはいえ当時の魔法レベルは今より格段に上だ。

 他の文献を漁ってみるが、やはり200年以上前は明らかに魔法のレベルが高い。


 文明が違うならまだしも、街が滅んでいるわけでもないのに、200年以上前に使えていた魔法が今はほとんど使えなくなっている。


 普通、そのことに疑問を持たないだろうか。


 私ですら疑問に思ったのだ。


 そこでカイルさんに聞いたところ、国同士の見解では、今は200年以上前よりも魔物の数が激減し、争う必要がなくなったため、自然と人間の魔力も衰えていったものだとされているという。


 まぁ、たしかに納得できる理由ではある。


 この世界の人たちを全て把握しているわけではないが、私の周りの人たちは生活に困らない程度、あるいはそれ以上の魔力量があることに間違いない。

 シーナは別問題だけど。


 この世界における魔法は、魔導書を読んで習得するのが基本だ。その基本に、私の調べた限り例外はない。

 そして魔導書に適性がなければ、自然とその魔法を使うことができない。


 しかし、火属性に適性があったとしても、同じ火属性で使えない魔法もある。


 それは、高威力の火属性魔法などだ。


 魔導書がいつから存在するかはわからないが、350年前から存在していることは文献より明らかだ。

 最初、この魔導書の仕組みによって気付くことができなかったのだが、改めて考えてみるとやはりおかしい。



 私はこう考えた。


 200年近く前、なにかをきっかけにして、


 ─────魔導書の適性が変更された


 あるいは


 ─────保有する魔力量が平等に、徐々に減っていった。


 魔導書の仕組みはわからないが、いきなり適性が変更されるなどあり得そうもない。

 もちろん可能性としては視野に入れておく。


 それよりも、後者の仮説のほうが、可能性として遥かに高い。

 もちろん理由はある。


 そう、魔力欠乏症だ。


 魔力欠乏症が初めて現れたのは70年前と書いてある。

 人間が透明化する病気だ。

 知らない間に70年以上前も透明化が起こっていたなんてことはあり得ないだろう。


 70年前に初めて魔力欠乏症が起こったことは確定事項にして良いと考える。


 そして、何らかの原因で人間の保有する魔力が減ったとすれば、いきなりではなくて徐々に減ったいたと考えられる。


 いきなり保有する魔力が減れば、当時の人たちはさすがに気づくはずだ。それに気づけないほどゆっくりと、しかし着実と魔力が減っていったのだろう。

 実際にこの国の人々は、魔物が減っていくのに比例して魔力がゆっくりと減っていっていると認識している。

 その考え方が間違っているわけではないが、どうにも納得ができない。

 魔物が減っているなら、その魔物が減っている理由も明確にすべきだ。そこまでして初めてその結論が成り立つ。しかし未だにそれは解明されていない。

 

 さらに、当時の資料には、30歳程度で透明化すると書かれてあるが、今シーナが消えかかっているように、ここ70年で透明化する年齢は半分程度まで早まっている。


 魔力は家族に影響することが多い。

 母胎の魔力量が少なくなっていけば、自然と子の魔力量も少なくなるはずだ。


 これらの事から私は、200年近く前の何かをきっかけに、魔力が徐々に減っているのだと仮定した。

  そして70年前、減った魔力量がある一定を超えた事により、魔力欠乏症が現れた。


 ────世界が平和だから魔力量が減ったのか


 ────他に何か原因があって魔力量が減ったのか


 どちらかは定かではないが、私は後者を想定してことを考える。


 私が今閲覧できる最古のものは350年前のものだ。そこから200年前までは、人間の保有する魔力量に関して疑問は特にない。



 そして200年前に起きた出来事。


 ─────ドラゴン、魔人、そして


 ─────英雄の誕生



 私が200年前という数字にこだわる理由だ。


 この世界に起きた大規模なことは、これ以外に現存していない。

 

 あくまで可能性として、確信はできないが、今のところ矛盾はない。

 

 そうして当然、私は英雄のことをもっと調べようと思った。


 のだが…


 英雄に関する情報が



 ─────()()


 あることにはあるが、英雄に関する情報はどれも曖昧なものばかりだ。

 

 極めつけは、名前すら記述されていないことだ。


 ドラゴンを討伐する以前の魔力量から考慮しても、その当時の人間でさえ魔人を討伐することができなかった。

 実際にそれほどの脅威であったと書かれている。

 しかし、それほどの魔人を意図も簡単に討伐してしまったものが、完全に名前まで伏せて生活できるとは思えない。

 もちろん、能力を全て偽って生活していれば可能だったのかもしれないが……。


 私みたいにあまり目立ちたがり屋じゃなかったのかな……。


 ともあれ、今は英雄に関しての情報が乏しい。

 封印されているドラゴンとやらも気になる。

 

 よし。可能性を、より確かなものへと変えるために、ノインさんの元を訪ねよう。


 図書室にいた私は近くにいたメイドさんを捕まえ、ノインさんに会いたいと伝える。

 すぐにメイドさんが戻ってきた。

 今すぐ執務室で会ってくれるということらしい。


 そうして私はノインさんの元へやって来た。


「ノインさん。英雄についての情報をもっと正確に知りたいんですが、何かご存知ありませんか?」

「英雄………か……………」


 英雄という言葉に、なんとも言えない表情を見せる。考え事をしているのか、ノインさんが動く気配はない。



 ────するとそこに


「ノ、ノイン! ドラゴンの封印が弱まっている!!!」


 大慌てでカイルさんが部屋に飛び込んできた。


「何!? 間違いないのか!?」

「間違いない。今すぐ持てる戦力を持って様子を見に行く。構わないな? あと、お前の許可がなくてすまないが、王都にもすでに戦力を要請してある」

「そんなことは構わない。封印が弱まっているのであれば、間違いなく緊急事態だ」


 次から次へと何事なの。


 どうやら、200年前に封印したドラゴンから、魔力を感じ取ったらしい。

 カイルさんは定期的にドラゴンが封印されている山に行き、きちんと封印されているか見回っていたらしい。

 探知魔法が使える人はこの国では少ないって言ってたし、重大な役目だ。

 そしてカイルさんはお父さんからその役目を引き継いだという。だからカイルさんの家に探知魔法の魔導書があったのね。

 

 しかし、ドラゴンか……。

 今の私にとっては興味がそそる相手だ。もちろん言っておくが、出汁にしたいわけではない。


 ってそんなこと言ってる場合か!

 ダメ元で頼んでみよ。


「あの、ノインさん、それにカイルさん。私も連れていってもらうことはできませんか?」

「構わない。むしろ戦力的にこちらからお願いしたいほどだ。しかし………お前はまだ……」

「あ、えっと、私もう14歳で、立派な大人ですよ」


 14歳が大人かと言われれば、当然答えはガキだ。私も実習時代、中学生たちに何度頭を抱えさせられたことか。


「娘と同じ歳の女の子を、戦場になるやもしれない場所に連れて行くのは、1人の親として…そう簡単に納得できるものではない……」


 まぁノインさんの言いたいこともわかる。だけど、過去の書物を読んだ限り、今の彼らにドラゴンを討伐できるほどの力はない。それをノインさんに正直に伝えた。


「私がこの街に来たのは本当に偶然だし、まだ1週間近くしか経っていない、よそものなのも事実かも知れません。それでも、こんな私に対してでもよくしてくれる家族のような人に恵まれ、なんかいいなって思えるような街で、それに、シーナとも友達になる約束をしました。もしそれが脅かされるようなら、私の戦う理由はそれだけで十分過ぎます」

 

 シーナという言葉に一瞬ノインさんが動揺する。

 というか私こんなに恥ずかしいことペラペラと喋れたっけ?

 確実にコミュ力上がってない??


「それに、シーナさんの病気を解明するために必要なことが隠されているかもしれない。私はそう考えています。何も、シーナさんのことを引き合いに出してノインさんを揺らそうとしているわけではありません。私の予想が正しければ、ドラゴンが何らかの形で魔力欠乏症に関わっている可能性が高いです」

「それはつまり、英雄もなのか……」

「はい。200年前に起きたその戦いで、何らかのことが起こった可能性があります」

「わかった」


 ノインさんは即答した。わたしが1週間近く図書室にこもってあらゆる本を漁っていたのを知っているからだ。

 わたしの言葉が嘘にならないと信じてくれたのだろう。だけどノインさんはその後に、少し気になることを言った。


「英雄に関して知りたいと言っていたな。俺の口からは残念ながら伝えることができない。この騒動が無事終わればリンに王都へと行ってもらうことになるが、構わないか?」

「もちろん、構いません」


 知っているけど話すことができない………

 なんか意味深だな。けどまぁ王都にも行ってみたかったし、ちょうど良いか。


 というわけで、割と強引にドラゴンの元へと同行することになった。


というわけで、リンは英雄や魔人、ドラゴンの影響により、魔力が減っているのではないかと考えたようです。

真相はいかに…。

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