20 1人の少女
「シーナは産まれた時から体が弱くてな。なんとか生活できていたのだが、13歳を迎えたあたりから、どうも様子がおかしくなってな」
シーナさんは私と同じで今14歳らしい。
そしてどうやら、今どのような状態なのかは見てもらえば分かるとのことだ。
屋敷に着くと、ノインさんがある一室の前まで案内してくれた。
扉を開ける。
そこには、ベッドに横になっているであろうシーナさんと、妹の姿もあった。
ここからではシーナさんの姿は見えない。
私が入ってきたことによって戸惑っていた妹のクレアに、ノインさんが私のことを紹介する。
「お父さまが決めたことです。それだけ信用できると言うことなのでしょ。それならクレアもリンさんを信じます」
クレアが私の元に歩み寄り、「シーナお姉様をよろしくお願いします」と手を握ってくれた。
10歳とは思えないほどしっかりしている。なんか、かわいいね。
おっと、感心している場合ではない。
私はノインさんにあらためて許可を取り、シーナさんのいるベッドへと向かう。
……
「────これは……」
言葉が、出てこない。
シーナは
─────透けていた。
意識もあるかないか、わからない。
ノインさんを見ると、重たい口を開いて、知る限りのシーナの状態を教えてくれた。
どうやらこれは魔力が欠乏していることが原因とされているらしい。
魔力の強さは遺伝する事がよくあるらしく、話に聞けばノインさんは魔力量があまり多くなかったと聞いた。
奥さんは人並みよりも魔力があったそうだが、何せどちらに遺伝するかはわからない。
実際に、シーナの魔力を水晶で測った際は、平均よりも著しく低い数値だったらしい。
この世界は、どんな人でも魔力を持って産まれる。つまりは魔力が体のどこかしらの部分を構成しているということだ。
これは私が元いた世界でもそうだ。魔力だと実感がないかもしれないが、魔力を例えば視覚や聴覚、臓器といったことに置き換えれば納得がいく。
そしてもちろん、どれか一つの機能が著しく乏しければ、何かしらの異常が起こるのは明白だ。
魔力欠乏症。この世界ではそう呼ばれている。極めて稀で、国中を探しても数年に1人程度の割合でしか発症しないそうだ。
子供の頃は魔力が著しく低くても成長できるが、大人に近づくにつれて生命を保つ事が難しくなってしまうらしい。
対処法や治療法は、ない。
「ノインさん。やれることはやってみます。ただ、もしもの場合があるかもしれません。私も、無理な治癒を施すつもりはありませんし、そうなる前に別の手を考えますが………」
どうしよう。いきなり自信を喪失してしまった。
しかし、覚悟を決めたからにはもちろん本気でやるつもりだ。
「とりあえず、一つだけ試してみたい事があります」
「頼む。もし私たちが邪魔なら、全員ここから退避させよう」
「いえ、大丈夫です。皆さんもシーナさんの側にいてあげてください。でも、ここであったことはなるべく内緒にしてもらえると助かります」
「わかった。リンの頼みだ。それについては約束しよう」
とりあえず、シーナが良くなるイメージをし、できる限りの魔力を込めてみる。
……………。
「ヒール」
私の手から、魔法が放たれる。
すると、シーナの体が眩しいほどに光る。
「─────っ……… 。 失敗です…」
ノインさんは一瞬、喜びの表情を見せたが、私の言葉に再び顔を顰めた。
シーナの体は少し色を取り戻したが、未だに透けたままだ。
しかし、この結果に関してはまだ予想がついていた。
次に試す方法こそ、本当に試したかったことだ。
今からシーナに対して行うことをノインさん達に説明する。
ノインさん達は複雑な顔を見せた。
今から行おうとしていることの無謀さ。
しかし理に適っているということ。
ノインさん達は悩んだ結果、私に任せることにしてくれた。
今から行うこと
─────治癒魔法ではなく、魔力そのものをシーナの体に直接流す。
この世界の魔力とは、その人特有のものだ。いわば血液のようなもの。それを他人の私がシーナに流すことによってどれだけ最悪な事が起こるかわからない。
なので私はまず自分の魔力をシーナの体の外側全体に広げる。
そう、探知魔法の応用だ。
探知魔法よりも丁寧に、優しく、シーナの体全体を包むように私の魔力で覆う。
シーナの魔力を私の体全体で感じ取る。
元々魔力が欠乏しているシーナから魔力を感じ取るなど、不可能に近いかもしれない。
しかしそんなことを言っている場合ではない。
私の魔力をシーナから漏れ出ている微かな魔力に、変換させる。
魔力の特性を変えることなど、したことも考えたこともないが、とにかくギリギリ感じ取れる魔力を強くイメージする。
変換した私の魔力を、流す。
先ほどとは違う、暖かい光がシーナの体を包む。
─────その暖かい光は、まるでシーナの体に吸い込まれていくように。
完全とはいえないが、シーナの体が暖かみのある肌色を取り戻した。
それを見たノインさんとクレアが声を上げる
「シーナ!!」
「お姉様っ…!!」
いや、まだ意識が戻っていない。
最初にしたように、シーナの体力が回復するよう再び治癒魔法をかける。
「ヒール…!」
すると─────
「……ぅ…………」
シーナの口から微かに声が漏れた。
「シーナ! っ……! 聞こえるか!? 俺だ!! 父さんだ!!」
「お、お姉様……っ!!」
「とう……さま? くれ…あ………?」
シーナの意識が戻った。
だけど……
「っう………っ……」
かなり苦しそうだ。これなら意識を取り戻さない方が良かったとさえ思ってしまっ…
─────様子がおかしい…
またシーナの体が透けている。最初ほどではないが、確かに少しずつ透けていっている。
もしかして、目を覚ましたことで体力を使っているのかもしれない。
ヒールをかけたが、それ以上に体力が消耗されているということだ。
となると……
確信はできないが、悩んでる場合ではない。
私はそっとシーナに声をかけた。
「初めまして、シーナ。私はリン。私が、あなたを助けます。それまで安静に眠っていてくれますか? もし、私を信じてくれるのなら、手を握ってくれますか?」
シーナは私の手を弱々しくも、力強く握った。
その瞬間、シーナの目から涙が落ちる。
「…あなた…の………っう………おかげで………みんな…の………かお…っ を……さいご…っ…………に…」
「大丈夫ですシーナさん。もう言わなくてもわかります。無理をさせてごめんなさい。次に目を開けるときは元気になっていますから。そのときは、友達になってくれますか?」
シーナはもう一度強く、笑顔で、私の手を握りしめた。
…………私はもう一度魔法をかける。
最低限の生命維持ができるように。
─────私が魔法を解くまで、決して目が覚めないように。
シーナは笑顔のまま、今度は安らかな顔で、眠りについた。
シーナの透明化が止まった。
隣にいたノインさんとクレアは、再び目を閉じたシーナを見てか、涙を浮かべながら歯を食いしばっていた。
そんな彼らに、落ち着いて今私がかけた魔法を説明する。
「………理由があるのだろう」
私はてっきり責められると思っていたが、どうやらノインさんは冷静に考えてくれていたようだった。
クレアにもわかるように、ノインさんに説明をする。体力の消耗があまりにも激しいこと、魔力を還元できたが、どういうわけかまたすぐに魔力が欠乏していくことを。
そして眠らせた今、透明化が止まっている。ぶっつけでやったが、私の勘は合っていたようだ。
とりあえず、これから私にできることを考える。
が、情報が少なすぎる。
私はこの世界の情報をほとんど知らない。イリアさんから常識的なことはいくらか学んだが、それ以外は何も知らない。
とにかく、シーナの病気とは直接関係なくても、正しい情報は多いに越したことはない。
ダメ元で、ノインさんにお願いしてみる。
「ノインさん。この街や国の歴史を詳細に知りたいんですけど、文献とかって見られたりしますか」
「いいだろう」
理由も聞かずにノインさんは快諾してくれた。ありがたい。
メイドさんが図書室のような場所に案内してくれる。
なぜかクレアも付いてきた。どうやら少しでも役に立ちたいらしい。
実際に、どこに何の本があるのか、内容もほとんど把握していた。
とんでもない10歳だ。
その日は丸一日、この世界についての知識をひたすらと勉強した。
誤字報告ありがとうございます!
自分でもチェックしてるんですけど、やっぱり自分で書いたからか気づかないもんですね……。
「セリ」が何故か「セリン」になって合体してました…。




