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19 領主様、初顔合わせ


 無事に私は転移魔法を習得した。


 それにしても、相変わらずセルニアさんはどこにいるのやら。

 そう思ってイリアさんに聞いてみたら、何やら奥の方で集中して作業しているようだった。


 少し話した後、イリアさんたちはお店の仕込みがあるみたいで、店の奥で準備を始めた。


 えっと、今思い出したけど


 そういや、領主を待っている途中なんだった。

 

 やばいなこれ絶対怒られるじゃん……。

 めんどくさいからもう無かったことにできないかな……。

 でもカイルさんに迷惑かけちゃうかもだし、メイドさんにも案内されちゃったよ。

 

 うーん……… 。


 どうしよ…。




 ─────バタンッッッッッ!!!



「ひゃいっ!??!?」


 扉が急に開いた。


 えっと、このオジサンは誰??

 てかなんでいきなり扉開けといて頭に「?」ついてるの???


「リン!!!」

「カ、カイルさん!?」

「カイル! こいつがか!?」

「そうだ」


 えっと。誰?


 なんかめちゃくちゃ睨まれてない??


「あ、あの……カイルさん……そちらのオジサン………じゃなくて、その、旦那様…? は一体……?」

「ノインだ」


 ノイン……? って!?

 領主!?


「り、領主!?」

「あ、あぁ……。領主のノイン・デューセルだ」


 やっべぇ。私どうしよ。

 絶対お怒りじゃん。


 せっかく友達できたのにもうこの街とおさらばしなきゃいけないの。

 なんといってもラーメン屋が……私のラーメン屋魔改造計画が…………


 仕方ない。覚悟を決めよう。


 私は全力で立ち上がる。



 ドンッッッッッ!


 ─────スゥゥゥッ



「すいませんでしたァッ!!」


 私は全力で謝った。

 そう。土下座だ。

 この世界に土下座があるのかは知らないが、私はこれ以上に謝罪できる方法を知らない。  

 騒ぎを聞きつけたセリたちが駆けつけてくる。

 領主を見たセリたちは何やら顔が引き締まっている。


 本当にごめんなさい。迷惑すぎるよ。私。


 一方、領主の表情は想像していたものでは無かった。


 ………


 ………………?


 あれ?領主は怒ってるんじゃないの?

 何か、困惑してない?この世界って悪いことして謝ったら困惑されるの??

 

「リ、リンと言ったか………」

「は、はい。」

「ハッキリとお前の口から聞きたい」

「は、はい?」

「この街と、いや、この世界と……戦争を起こすつもりはあるのか?」


 えっと?

 私どれだけ悪役になってるの?

 もしかして、虎倒しちゃったから? だからこんなことになってるの???


「あ、ありません……。その、ご迷惑をおかけしたなら申し訳ありませんでした。そ、それと……お会い頂けると約束をさせてもらっていたのに……その……」


 おどおどしている私を見て、カイルさんと領主が目で意思疎通している。


「リン。さっきお前が使った転移魔法についてなのだが」

「カイルさんどうしてそれを!?」

「…………。やっぱりか」


 あ、私、やっちゃった。馬鹿なの? あれだけ秘密にしておこうと決めたのに………

 とっさのことに弱すぎる。これ、精神年齢まで14歳になっちゃったのかな………


「あの………すいません。その件は内緒にしてくれませんか……。その、全て正直に話しますので………」


 もうここまできて隠すのは余計に怪しまれる。なら、異世界転生したことは適当に誤魔化しておいて、素直に転移魔法が使えることは話そう。


「ノインもそれでいいか?」

「あ、あぁ。ひとまずはな」


 よかった。なんとか収まったということで大丈夫なのかな。


 このあと私は、転移魔法についてはもちろんのこと、無詠唱で魔法が使えることや、ほぼ全ての魔法属性に適性があることを説明した。身体能力については、魔法で身体強化をしているという設定にしておいた。

 素の力で虎を蹴っ飛ばせる少女ってなんか、嫌じゃん。


 いい旦那さんがもらえなさそうじゃん。


 全て話し終えたあと、ノインさんとカイルさんが私を警戒していた事や、実は昔に冒険者としてパーティーを組んでいた事などを話してくれた。

 それ話していいの? と思ったけど、私がセアを助けた事をイリアさんが説明したら、どうやら信用してくれたようだ。


 セリやイリアさんにも感謝だね。


 その横でセアが「リンおねぇちゃんがたすけてくれたの?」と言っていた。かわいいよ。

 でも、セリとイリアさんと3人で助けたんだと言っておくと、セアが「おねえちゃん! おかあさん! だいすき!」と2人を抱き締めていた。


 かわいいね。


 ノインさんとカイルさんも空気を読んで何も聞いて来なかった。

 かわい………くはないけど、ありがたいね。


 そして1つ気になる事があった。

 ノインさんに対して、治癒魔法という言葉を使ったとき、少し体が反応していた。

 イリアさんが、高位の神官でも治せなかった病気を治した、と説明していたのでもしかしたらノインさんの周りにもセアみたいな人がいるのかもしれない。


 領主とは言え何やら気さくな感じで思っていたような人と違う。親近感しかない。カイルさんが言っていたのは間違ってなかった。

 なんか、この人のためなら力を貸してもいいかもしれない。約束をすっぽかして転移してきたせめてものお詫びだ。

 とは言っても、気軽に病人のことなど聞けるはずもない。


 どうしよう。聞かない方がいいのか。

 けど、聞かなくて治らずに、死んでしまったとなれば私の後味も最悪になる。


 よし、聞いてみよう。

 一応ノインさんにも気を使って、イリアさんにはお仕事の準備を再開してもらう。聞かれたらダメなことかもしれないし。

 もちろん、イリアさんには滞在の許可は得た。リンちゃんなら、店が開いてても自由に使ってくれて構わないとのことだ。


「あの、ノインさん」

「どうした?」

「もし、失礼な事をお尋ねしているようでしたら、ごめんなさい」

「あ、あぁ」

「ノインさんの周りに、高位の治癒魔法でも治せない病気にかかっている人がいたりしますか?」


 ノインさんの顔が暗くなっていく。

 やっぱり聞かない方が……良かったのかな………………


「……………。ああ」

「あの、もし私のことを真に信用して下さるのなら、私の治癒魔法を使わせてくれませんか?」


 ノインさんが私の顔をじっと見つめると、下を向く。葛藤しているのが伝わってくる。

 ノインさんにとってどんな人が病気になっているのかはわからないが、かなり大切な人なんだろう。


 そんな様子を見たカイルさんが、ノインさんに声をかける。


「お前は俺のことを信じているか?」

「何を今更。当たり前だろ」

「なら、俺はリンを信じている。心の底からだ。最初は癖で警戒してしまったが、ここまで話をすれば、さすがに善か悪かの区別はつく」

「善か悪かの判断は俺だってついている。しかし、今日初めて会ったような者に、シーナを、シーナの命を託していいのか………」


 シーナさんって言うんだね。


「お前が俺を信じているように、俺もリンを信じている。なぁ、リン。もしお前が何か望むものがあるなら、俺にも可能な限り望むものを用意すると約束しよう。だから、こいつの娘を救ってやってくれないか?」


 娘さんか………。これは悩むのも当然か………。


「あの、魔法を使って治療するかどうかは一旦保留にしておいて、私を娘さんに、シーナさんに一度だけ会わせてくれませんか?」

「だ、だが………」

「あの、ノインさん。私ならこの街を破壊できます」

「なっ………」

「もちろん、地下深くまで。跡形も残らずにです。非常識なことを言っているのは承知です。仮に私の狙いがシーナさんだったとしても、わざわざ許可をもらって会いにいく必要はないんです。今すぐにでもこの街を、破壊できますから」

「そ、それはそうかもしれんが……」

「ノインさんが会ったばかりの私に、大切な娘さんを、増してや病気で苦しんでいる娘さんを会わせるのに抵抗があるのはもちろん理解できます。もし、知らない人を見て病が悪化する可能性だってあるかもしれません」


 そう、私が本気でやればこの街は軽く破壊できる。

 病人に無理に会うと悪化させることだってあり得る。


「だけど、私がこの街を滅ぼす可能性、シーナさんが悪化する可能性、ありとあらゆる可能性よりも、私がシーナさんを治せる可能性の方が高いと断言します。そして、もし私が治せなければ、もうそれは誰にも治せないと言うことです」

「……………」


 わからない。そんなことはシーナさんを見てすらいないのに分かるわけがない。

 でも、カミサマから与えられたこの脳筋とも言える魔力。そして前世の記憶。知識。

 もしこれで治せなかったら、この世界ではもう誰にも治せないだろう。


 カイルさんが口を開いた。


「リン。お前の気持ちはもうわかった。ノイン。お前もいい加減に気づけ。お前が初対面のリンに警戒している側で、リンは初対面のお前にここまでしてくれているんだ。なんのメリットもないのにだ」


 ノインさんは頭を抱える。

 しばらく考え込んだノインさんは、顔を上げて私を真剣な目で見つめた。


「一緒に、着いてきてくれるか。そして娘を、助けて………助けてもらえるか……」


 えっ…


 ノインさんが頭を下げた。領主が頭を下げた。


 私にはノインさんを、シーナさんを、見捨てることなど完全に出来なくなってしまった。


 1人の、娘を想うお父さんの顔だ。


 ダメだったらこの世界の誰でも治せないし諦めようなんて思ってたが、そんなことはできなくなってしまった。


「本気で、最後まで、どれだけ不可能であろうと、やらせていただきます」


 私はそう言ってノインさんの屋敷に向かった。

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