18 噂の虎狩り2 (ノイン視点)
例の虎狩りについて、報告資料を見る限り特に怪しい様子はない。
名前はリンというらしい。
後に判明したが、一緒にいたのはこの街の料理屋の娘だ。
ただ、気になることが一つあった。
なんでもタイガーを売却した後でポーションを買ったらしい。
話はここまでしか聞いていないが、どういうことなんだろうか。
そのあと虎狩りはその店から出て来なかったそうだ。
どういうことなのかさっぱりわからん。
翌日、早朝にカイルが帰ってきた。
カイルが帰ってくるなり、虎狩りについてを話した。
最初は冗談を聞いているつもりだったらしいが、俺が真剣に話しているのを見てどうやら信じてくれたらしい。
料理店を教え、やつに見張らせることにした。
やつの実力は俺もよく知っている。とりあえずは安心だ。
カイル自身は否定しているが、はっきり言ってギルマスのジジィよりは強い。
カイルが出て行って1時間ほどでやつが帰ってきた。
何かあったのかもしれない。
最悪の場合は………。
魔人という可能性もある。
「なんだ? 何かあったのか?」
「あぁ。あいつは化け物だ。俺の本気の一振りを片手で、その上、素手で受け止めた」
「な!? そんな馬鹿な………」
「事実だ。それに、ギルマスが水晶で魔力を測定したそうなんだが、測定できなかったらしい」
「どういうことだ?」
「俺にもわからん。おそらく魔力量が膨大すぎて測れなかったんだろうと言っていた。それに、やつは最初魔力が溢れていてな。探知魔法を使うまで気づかなかったんだが、人間から魔力が漏れ出ているのは初めて見た」
「探知魔法で引っかかるほどの魔力か…………」
「しかしどうやら、悪意があるようには思えん。まぁ事を判断するには早すぎる気もするが。どちらにせよ、俺たち全員でかかってもあの女を止めることはできない。今は刺激しないように見守るべきだ」
「それほどなのか………」
カイルの刀を素手で……。
リエルさんとて無理があるだろうそれは………。
「とにかく、俺はもう少し様子を見ることにする。森に入ったところで姿が消えてな。冒険者ギルドで待っていることにする」
「姿が消えた…? まさか転移魔法か……!?」
「いや、その類ではないだろう。消えたと思われる場所の地面には明らかに踏み込んだ跡があった。確証はない上に信じられないが、身体能力も超越しているんだろう」
「いや、もう信じるしかない。お前の刀を素手で受け止めている時点でそれぐらいのことでは驚かん。さすがに転移魔法ともなれば話は別だがな」
「まさか、さすがにそれはな」
転移魔法など御伽噺の世界だ。
あり得るわけがない。
「しかしどんな人物であれ、実際にどんな人物か、俺にも会う必要があるだろう」
「あぁ、森から帰ってきたら来させることにしよう。念のためギルマスにも伝えておく」
「頼むぞ。お前は多少強引なところがあるからな。自然な流れになるようにしてくれよ」
「もちろんだ」
そう言ってカイルは冒険者ギルドに向かった。
とにかく、今は念の為に警備を固めておく。
さらにはもしもの場合を考えて、こちらの出せる最大戦力を集めておこう。
俺は執事を呼びこの件を伝え、今すぐに警備作戦や手筈、最悪の場合戦闘になる事を伝え、ありとあらゆる事を想定し、最善で対処できるようにする。
それから3時間も経っていない頃。
カイルが俺の部屋に来た。思っていたより早かった。
まだ作戦は完璧とは言えない。
なにせ、心の準備ができていない。
とりあえず10分くらいは待たせても問題ないだろうということで、その10分で最終調整をする。
その間カイルはやつを監視している。
5分ほど経過した頃だろうか。
カイルが慌てて戻ってきた。
しかし、戻って来れる余裕があったのだ。最悪の事態ではないのかもしれない。
それにしてもカイルが驚愕している……?
いや、戦慄している。
どうなっている?
「カイル? どうしたんだ………?」
「……………」
何を黙っているんだこんな時に!
「カイル! 何があったか言え!」
「……………すまない。逃げられた」
「なに!? あそこの部屋に扉は一つしかないはずだぞ! 窓から出ようと思えば壊すしかない!! どうやって!?」
「………い …た」
「なんだって?」
「転移……した…………」
「…………な……っ!?」
転移?そんな馬鹿な話が……
「冗談じゃないんだろうな?」
「あ、あぁ。間違いない。今まで見たことなどないが、あれは転移だろう。もし魔法で身を隠していたりするのなら、少なくとも周りに魔力があるはずだ。探知魔法を使ったが、俺の魔法には引っ掛からなかった」
「そ、そんなことが………」
「しかし、逃げたということは、何か目的を果たす邪魔をしてしまったという可能性もある。考えたくもないが、俺たちは意図せずヤツの反感を買ってしまったのかもしれん」
転移魔法。
そんな御伽噺のような魔法を使える化け物を敵に回したとなれば、この街はおわりだ。
街どころか国が滅びるかもしれない。
「もう、躊躇ってる場合ではない。あの料理店に向かい、多少強引でも構わない。知る限りの情報を得るぞ。俺も行く」
「ノイン! 何せお前まで行かなくていいだろう」
「そんな事を言っている場合ではない! カイル相手ならともかく、俺が行けば多少素直になってくれるやもしれんだろ! それに、もし戦闘が起こればだ……俺にも領主以前に元冒険者のプライドがある」
「………そうか。もう何も言わん。今すぐ行くぞ」
「もちろんだ」
そう言って2人で屋敷を出た。
もちろん、執事には兵を集めて各主要地点を抑えるように言ってある。
屋敷を出る。
しばらくすると、街の外れにある住宅街のような場所に出る。
もうすぐ料理店だ。
「なぁカイル。2人で戦うのは、何年ぶりだろうな」
「馬鹿な事を想像するな。まぁ、もしそうなれば今度ばかりはお前をかばって死にかける余裕などないぞ」
「ハハハ、それもそうだな。重症程度で済めば良いがな………」
2人は料理店の前についた。
窓らしきものがあるが、棚を置いてあるのか見えなくなっている。これほどに窓があって欲しいと思ったことはない。
まずカイルに探知魔法を使わせる。魔力の反応があれば一大事だ。戦闘態勢を取るつもりでいる。
もちろん、一般人が多少の生活魔法を使った程度の魔力では反応しない。カイルにもそこまでの精度はない。
「どうだ?」
「探知魔法には………ひっかからない」
「そうか」
つまり、魔法は使っていないという事だ。
とはいえ、そもそも中にヤツがいるとも限らない。今回はあくまで料理店に話を聞きにきただけだ。とはいえあれほどの化け物を匿っている料理店も怪しい。
油断はできない。過去の経験から反省し、油断など常にしないように生きてきた。もしもの場合を想定しておく。
「入るぞ。準備はいいか、カイル」
「あぁ」
貴族は礼儀が第一だが、この状況でノックなど流暢にしていられない。
もし何事もなければ、後で料理店の人に謝罪してなんとか許してもらうことにしよう。
俺たちの最悪の場合は、死だ。
カイルからも緊張が伝わってくる。
ドアノブに手をかける。
カイルに目で合図を送る。
強めに扉を開けた
─────バタンッッッッッ!!!
「ひゃいっ!??!?」
中には少女しかいないようだ。
この料理店の娘か?
「リン!!!」
カイルがリンと言った…?
ということは、こいつが………!!!
「カ、カイルさん!?」
そこには、女の子が座っていた。
この街の災厄とは到底思えないような
素っ頓狂な声を上げる可愛らしい女の子が座っていた。
20話過ぎたくらいから、いよいよこの物語の重大な部分に繋がってきます。
プロット的には、1つのことに時間をかけるのではなく、イベントを起こしてその都度解決していくような構成を考えてます!




