16 ノイン・デューセル (ノイン視点)
俺はこの街の領主。
ノイン・デューセルだ。
先代の爺さんから、この街を任されている。
この街の領主には少し変わったしきたりがある。
それは、ここの領主になるには、冒険者として働き、この街をより身近に見なければならないということだ。
なんでも初代領主が冒険者としての功績を讃えられ、この街の領主をすることになったからだ。
俺も19歳から28歳までの9年間、冒険者としてこの街を見てきた。
最初、冒険者を経験しなければならないと聞かされた時は、馬鹿馬鹿しいと考え、一丁前に反抗したりもしていた。
しかし今となってはその考えに至った自分を恥ずかしんでいる。
俺が14歳の時、入ってはいけないと言われていた森に入ったことがあった。
門兵の交代の隙を見て街から抜け出したのだ。
最初は普段と違う景色にワクワクしていたが、進むにつれ同じ風景が繰り返され、次第にどこが帰り道かわからなくなってしまった。
それからしばらく歩いていると、犬のようなものが走っていくのが見えた。
何を考えたのか、興味本位でついていくと、そこには同じような犬が10匹程度いたのだ。
森に入って、ウサギや鳥などは見ていたが。獣は初めてだった。
しかし何やら様子がおかしい。
1匹が俺のことを見つけると、残りの犬たちも一斉にこっちを向き、牙を剥き出しで威嚇してくる。
これが、魔物か。
普段から聞かされていたが、森に入ってしばらくは魔物がいなかったため安心してしまっていたのだ。
俺はその場から動けなかった。
1匹が猛スピードで俺に向かって来る。
森に入ったことを後悔した。
目をつぶった。
─────死ぬんだ。
「……?」
なぜか目が開く。
そこには、さっきいたはずの襲ってきた犬はいない。
いや、正確にはさっきの犬が血を出して地面に倒れている。
何が起こったんだ。
「坊主。なにしてんだ」
声が聞こえる。
よほど怖気付いていたのか、視線すら動かせなかった。
「坊主。帰らないなら置いていくぞ」
「お、置いていかないでくれよ!!」
必死に声を上げた。
声がする方を向いてみると、1人の男が馬に乗っていた。
俺は助けられた。
俺を助けてくれた人はリエルというらしい。
冒険者をやっていて、森を回って魔物を討伐しているという。
街に近い場所は、冒険者が魔物退治をしているため魔物は基本的にいないそうだ。
俺は相当奥まで入ってきていたらしい。
門の前に来ると、門兵の1人が俺を見るなり慌てて屋敷へ走って行った。
俺がいなくて騒いでいたのだろう。家に帰った俺はこっぴどくしかられた。
ここで俺は、自分が危険に晒された時、自分では何もできないことを学んだ。
そして、俺なんかよりも街を守っているのは冒険者なのだと、思い知らされた。
その日から、毎日武術を学んだ。
魔法が思うように使えなかった俺は、立派な冒険者になるために、毎日必死に努力した。
19の時、ようやく冒険者として働くことになった。
パーティーは俺を含めた2人。
カイルだ。
カイルは魔法も使えるが武術に自信があり基本は刀を使っていた。
同じ武術を使えるもの同士気があったのかもしれない。
冒険者としての自分を磨くために、自分の身分は隠していた。
冒険者として慣れ始めた頃の話だ。
───俺を庇ったせいでカイルが重傷を負った。
狩り慣れた魔物で気を抜いたのだ。
急いでカイルを連れて街に戻った俺は、なんとかカイルの家までたどり着くことができた。
大切な家族を俺のせいで傷つけてしまった。
そう思うと、カイルの両親に顔がない。合わせる
そういえばカイルの両親とは初めて会う。
こんな情けないやつを、初対面で許してもらえるのだろうか。
そう考えながらドアをノックした。
「なんだ? お前さんは確か………あの時の坊主か。それに、カイル………なるほどな」
家から出てきたのは、見覚えのある顔の男だった。
リエルさんだ。
カイルはリエルさんの息子だった。
俺はリエルさんに説明し、必死に謝った。
命を助けてもらった恩がありながら、その大切な人の息子の命を奪うところだったのだ。
領主、街を管理する立場ですら未熟だった俺は、冒険者としても未熟だったのだ。
何一つとして人の上に立てることはない。
「もし坊主がカイルと立場が逆なら、どう思う?」
そんな俺に、リエルさんは声をかけてくれた。
「もし坊主がカイルを見捨てて、自分だけ助かってみろ。きっと坊主は後悔するだろう?」
「………」
「それに、そんな命張ってでも助けたやつがメソメソ泣いてちゃ、助けたもんの気持ちは報われないんじゃねぇか?」
「………はい」
「カイルだって、命張って冒険者になろうって決めてんだ。そしてお前さんはカイルのパーティメンバーだ。お前さんを助けるのに命を張るのは当たり前のことだ」
そうかもしれない。
だが、俺は根本的に間違っていたのかもしれない。
「あ、あの……」
「なんだ?」
「俺は、冒険者になるということが、命を張るという覚悟が…………できていませんでした………」
俺は、少しでも街を守ろうと努力した。
しかし、どれだけ腕を磨いても、肝心なことはまだできていなかった。
冒険者、それは命を賭けて戦うことだった。
その覚悟が俺には足りなかったのだ。
冒険者は街のために魔物を討伐する。
ただそれだけだと思っていた。
いや、それだけなのかもしれない。
しかし、それ以上に考えたことはなかった。
その結果、気が緩んでしまったのかもしれない。
「そんなことはねぇさ」
「でも………そのせいで俺はカイルを…………」
「カイルから話はよく聞いていたぞ。自分に責任を感じているなら、そうだな。これからはどんな時も気を抜かないように努力しろ。これは剣や魔法の問題ではない。どれだけ腕を磨こうがここだけは別の問題だ」
今まで俺が向けて来なかった。
武術以外のこと。精神的なこと。
「そう考えれば、今回のはいい勉強になったってもんだ。カイルも命を張るってのがどんなことかわかった。もちろんそれは坊主にとって、命を賭けられることの重みってもんがわかったってもんよ」
─────命を賭けられることの重み
俺は今日、これでまた一歩成長できたのだろうか。
それから3日ほど経過し、改めてカイルの家へと向かった。
カイルはどうやら元気そうだ。
もうリエルさんと剣の稽古をしていた。
「カイル!!!」
「おぉ、ノインか」
「坊主か。元気そうじゃねぇか」
あの重傷はなんだったんだろうか。
身体中血まみれだったはずなのに。
一体何を心配していたのかわからないほど元気だ。
「ちょうどいい。坊主、剣を取れ」
「は、はい!」
リエルさんと剣の撃ち合いが始まった。
当然、勝てることなど考えてはいない。
いくらか剣を交わした後、リエルさんにアドバイスをもらった。
何とも的確なアドバイスで体がいきなり軽く動くようになった気がする。
それからというものの、冒険者としての仕事がない時は、カイルと共にリエルさんの元で修練を重ねていた。
それから4年後、ついに俺たちの冒険者レベルはBまで上がった。
カイルは以前にも増して格段に強くなった。
一人前だと判断されたのだろう。
俺も以前よりは格段に強くなったと実感できるほどには成長した。
リエルさんの仕事が気になったのでカイルに聞いてみた。
「親父の仕事か?言ってなかったか?」
「あぁ、別に聞かなければならないというわけでもなかったしな」
「そうか……。親父は王宮騎士団の団長だ」
「………は?」
どうやら俺は、とんでもない人に稽古をつけてもらっていたらしい。
16〜18話は、リン視点ではなく領主のノイン視点になります。
ノイン視点ではストーリーが進んでいるわけではないので、3話一気に投稿します。




