15 領主様
レーナさんに、ウルフの解体と買取査定はやっておくからまた後日ギルドに来るように言われた。
そんなわけで私はカイルさんと領主の屋敷へと向かっている。
「お前はこの街の脅威だぁ!」とか言われていきなり暗殺されたらどうしよう。
「ねぇカイルさん」
「どうした」
「ノインさんってどんな人なの?」
「ノイン様の先祖様は元冒険者なんだ。だからお前が思っている貴族というやつのイメージとは少し違うかもしれないな」
「え? 貴族なのに冒険者?」
「いや、確か冒険者だった頃にこの近くの山に現れたドラゴンを封印してな。その栄誉を讃えられてこの地を与えられたのだ」
ドラゴン??
封印???
なんか前にうっすら聞いた英雄レベルで強そうだけど??
「最初は『俺の趣味に合わん』と断っていたそうなのだが、当時同じパーティを組んでいた奥様と結婚することになってな。夫をいつまでも危険な立場に置かせるわけにはいかないと、奥様の説得もあって冒険者はやめてこの街の領主になったらしい」
「えっと、ノインさんのご先祖様ってめちゃくちゃ強いんじゃないの?」
「まぁドラゴンを封印したメンバーの1人だ。強い。ただ、パーティとしての連携もその強さの一因だ。個々の実力だけではない」
「でも冒険者だったのはノインさんの代よりもかなり前の話なんでしょ?それなら、今のノインさんは普通の貴族みたいなもんじゃないの」
「いや、このデューセルの領主は、代々冒険者を経験してからでないとなれないしきたりになっていてな。なんでも冒険者という立場になって実際に街を守り、色々な方面から物事を捉えられるようにとのことだ」
「なんか、大変だね」
文武両道って感じなのかな。
「だから、そこらの街の領主よりは街のことをしっかり考えて行動できるお方だ。あいつ……コホンッ ノイン様も冒険者時代は中々の腕前だったぞ」
「そうなんだ」
なんか、思ってた貴族と違うのかも。
カイルさんとも次第に仲良くなれた気がするし、もしかして案外いい方向に進んでるのかも。
カイルさんと喋っている間に、でかいお屋敷についた。
カイルさんが門兵に話しかけると、門兵はかなりかしこまっている。
まぁランクAの冒険者だからカイルさんも有名人なのだろう。
私、アウェーすぎる。
門兵の許可も出たのでカイルさんとお屋敷に入る。
かわいいメイドさんが出迎えてくれた。
応接室のような場所に案内されたのでそこでしばらく待つことにする。
カイルさんは用があるとかでどこかに行ってしまった。
暇だ……
呼びつけておいて来るのに時間かかるってどれだけ自己中なんだよ貴族は………………
人を呼んだらならすぐ来いよ…
すぐ……?
すぐに移動する…………?
転移………?
そうだ。転移魔法ってあるのかな。
転移魔法って便利じゃん。しかもかっこいいじゃん。
やっぱり異世界の定番といえば転移魔法だよね。
転移自体の想像は簡単だけどどうしたもんか………
場所と場所を繋いだり、別空間を経由したり、扉を使ったり……
うーん。
脳筋でいけないかな?
もし転移魔法が単なる魔力量で強引に成り立てばラッキーなんだけど、さすがにそんなワケないよね。
試しにやってみるか。
場所は……
この時間ならイリアさんのお店も終わってるはずだから…
─────イリアさんのお店に、私の存在そのもの、肉体や精神、魔力全てが転移するイメージ!
えいっ!!!
………
…
あっ。この匂いは……カレーだ……
目を開ける。
「え?」
「「「リン(ちゃん)(おねえちゃん)!?」」」
「え!? 成功!?」
「リンが、い、いきなり現れた!? 何が起こってるの!?」
セリにセアにイリアさんがいる。
「えっと、ここってフォーレンハウス?」
「え、っとそうだよ」
「リンちゃん、あなたもしかして……」
「リンおねえちゃん?どこからきたの?」
えーっと、どうしよ、成功っぽい。
素直に喜んでいいの??
私、ここの場所をイメージしてなんとなく踏ん張ってみただけなんだけど………
なんて説明すればいいのか……
「リンちゃん! リンちゃん!!」
イリアさんがずっと呼んでたみたいだ。
「えっと、イリアさん?」
「リンちゃんもしかして、転移魔法が使えるの?」
「か、母さん!?」
「てんい?」
セアだけ不思議そうな顔をしている。
かわいいねセア。
「えっと、そうみたい」
「リン! 転移魔法は英雄の時代で失われた魔法って言われてるのよ!? ねぇ母さん! どうなってるの!?」
「落ち着きなさい、セリ」
セリが1番慌てている。
私が慌てるべきなんだけど………
なんかあっさり転移できたから拍子抜けした……
「リンちゃん。かつてこの世界の各地に魔人が現れて、世界中が危機になったことは知っている?」
うーん、なんかそんなこと言ってたような言ってなかったような。
「転移魔法は、英雄様が世界を救ってくださった時に使っていたものなのよ。英雄様以外には誰も使えなかった。そしてそれ以前も、世界が救われてから200年近くも、使える人はいなかったの」
えっと、英雄様すごい。
世界各地を駆け回るのは物理的に無理だったから、転移魔法を使って魔人を退治してたってことだよね。
感心だ。
と、すると、もしかして英雄様もあのオジサンに異世界転生されてたりする??
てことは私も英雄的な仕事をなすりつけられる!?
いやだ。平和にラーメン食べて過ごしたいよ……。
私そんな英雄になれる器じゃないんだけど………。
もし私が転移できることがバレたら、今以上に面倒ごとに巻き込まれそうな気がする………
「あ、あの、とりあえず私が転移できることは内緒にしていてくれませんか?」
「わかったわ。もうリンちゃんの噂は大変なことになっているんだから。少しは落ち着いていなさい。セリもセアも、このことは内緒だからね?」
セアが私とイリアさんを交互に見ながら「リンおねえちゃんはすごいひとなの?」と言っている。
セアは純粋でかわいいね。
そんな横で姉のセリは口が開いたまま「リ、リン………。あなた本当に何者なの………」とずっと呟いている。
せっかく可愛いのにそんな顔してたら勿体無いよ。
てなわけで私は無事(?)に転移魔法を習得した。




