手紙
その手紙の内容にクロードは声を出すことも忘れて凝視してしまった。
「どうした?」
黙って手紙を睨みつけていると、不審に思ったカインが声をかけてきた。
はっとして顔を上げると、首を傾げた彼と目が合う。
「大丈夫です。個人的なことなので」
そう言って手紙を閉じた。
「母親からの手紙だろう?」
「ええまぁ、そうなんですけど」
歯切れの悪い答えしか出てこなかった。
「あの、隊長」
クロードはカインの部隊の一員になったので、カインのことを隊長と呼ぶことになった。今はカインの部隊が与えられている部屋で雑務をしているところだ。周りにも同じ部隊の騎士たちが机に向かって何かしらの作業をしていた。
「なんだ?」
尋ねてくる彼に、クロードは言い辛そうに口を開いた。
「この部隊に来て数日なんですが、休暇をもらうことはできますか?」
休暇という言葉が出た瞬間、部屋にいた騎士たち全員の視線が注がれたような気がする。
「随分と急だな。その手紙に関係しているのか」
「そうですね」
机に置いた手紙を見つめる。これは田舎に住む母からの手紙だった。朝方騎士団長のグロッグにフォーンに住むログから送られてきたという。
クロードが王都に来た時から毎年1度は手紙を書いていた。最近だと1か月前に書いた。
今までログの屋敷に居たため、母からの返事はフォーンに届けられていた。王都に戻ったのは数日前だったため、それを知らない母はフォーンに手紙を出していたのだ。その手紙をログが騎士団長宛てで送ってくれたらしい。
届けられた手紙を開いたクロードは、その内容に動揺するしかなかった。
「母からの手紙ですが、近々再婚することにしたから一度顔を出しに戻ってきてほしいそうです」
周りに聞かれても大丈夫だと判断し、手紙の内容を伝えると、部屋の中が一気にざわめいた。
「母親はいくつになる?」
ざわつく部屋の中でカインが口を開く。
「今年で45歳のはずです」
「相手の年は?」
「それは書いてないのでわかりません。相手が誰なのかもわかりませんが、顔を合わせてほしいことだけは確かです」
手紙には再婚することと、クロードに再婚相手を会わせたいと思っていることが書かれていた。相手のことが書かれていなかったので、できるだけ早く母親に会いに行くべきだと考えた。
「隊長!」
カインがどうすべきか考えていると、急に周りの騎士たちが声を上げだした。
「行かせるべきだと思います」
「自分も同意見です。変な相手だったら大変です」
「クロードと同じくらいの若い男に引っ掛かっている可能性だってあります」
「貢がされていたらどうするんです」
全員揃って悪い方向へ考えがまとまっている。誰も祝福していないことにクロードは複雑な心境になった。
「お前たち落ち着け」
この中で冷静なのは隊長のカインだけのようだ。
「休暇と言っても数日で戻ってこられる距離なのか?」
カインの疑問に母が住んでいる村のことを思い出す。
王都から離れている村は、直接行く馬車がなかった。村から近い町行きの馬車が出ていたはずだが、そこで一度乗り換えて村まで行く必要がある。
「片道4日は考えておいた方がいいと思います。相手に会うだけなら1日でいいとして、10日ほどあれば戻ってこられると思います」
余分に日数を取っての判断だったが、なぜか周りは驚いた顔をしていた。
「久しぶりの実家を1日でいいのか」
「悪い相手だったら、母親の説得が必要だぞ。もう数日余計に考えておいた方がいい」
「再婚相手を見極める必要があるんじゃないか」
実家への滞在の短さと、再婚相手への不信感を口にされる。
やはり複雑な心境になってしまうが、冷静に考えていない彼らのことは置いておくことにして、クロードはカインを見た。
「君は私の部隊の一員ということではあるが、7賢者の候補性ということで団長の直属の部下という立場もある。私が勝手に休暇を許可するのは難しいだろう」
どうやら団長の許可が必要なようだ。
「わかりました。あとで団長にも相談してみます」
どんな相手なのかわからないが久しぶりに母の顔を見られるのは嬉しいことだ。魔法騎士として城で働けることになったことを報告できればきっと喜んでくれるだろう。
怪しい相手につかまった前提で周りがどよめいている中、気にすることなく団長の許可が下りればすぐに帰ろうと思うクロードだった。




