魔封石士としての一歩
「今日から君と一緒に働けることを嬉しく思うよ」
リーンの執務室に入るといきなり抱きしめられて歓迎された。
驚いて固まったティアナだったが、後から入ってきたエリクスがすぐにリーンを引きはがしてくれる。
「師匠。歓迎の仕方が子供じみています」
「いいじゃないか。嬉しいことをしっかり表現しているんだよ。エリクスだって、ティアナと一緒に仕事ができて嬉しいだろう」
「そうですね。仕事を分担できるのは、負担が減るのでありがたいです」
「素直じゃないなぁ」
2人のやり取りを聞いていて、ティアナは噴き出してしまった。自由なリーンと冷静なエリクスのやり取りは相変わらずだ。
「今日からお世話になります」
ティアナが挨拶すると、2人とも笑顔を見せてくれた。
魔封石士のティアナは、師匠となる魔封石士がいない。そのため、7賢者としての勉強をするために、魔術師のリーン=ラナスターのところで仕事をすることになった。エリクスという弟子がすでにいるのだが、魔術師としての仕事はエリクスが担当して、それ以外をティアナがこれから覚えていくことになるだろう。その仕事の中で魔封石に関することは、すべて彼女が担う。
「ティアナの席はエリクスの隣に用意したから、わからないことがあれば彼に聞くように。空いた時間は魔封石作りに当てていいからね」
「はい」
まずは今までエリクスがやっていた仕事を引き継ぐことになる。魔封石を作る時は別の部屋を用意してもらったので、そこで新しい魔封石の開発もさせてもらえることになっていた。
しばらくはこの2つの部屋の行き来になるだろう。
「屋敷の方は、片づけは済んだの?」
「すべて揃っていたので、私が持ってきた荷物を運ぶだけで終わりました」
王都に戻ってくる時に、ティアナには一軒家が与えられた。それは占い師エミリアが国から与えられた屋敷で、7賢者は城の敷地内と外に1件ずつ屋敷を与えられる。エミリアは敷地内の屋敷を使っていて、敷地外の屋敷はそのままだった。本来弟子がいれば、屋敷は弟子に与えられるのだが、エミリアに弟子がいなかったため、急遽ティアナが使えることになった。
屋敷に到着すると、すでに使用人も雇われていて、屋敷内は綺麗に掃除がされていた。自分用の執務室が用意されていたので、そこに荷物を運び入れるだけで終わってしまった。
「1人で住むには、大きすぎるように感じましたけど、それもすぐに慣れると思います」
屋敷内はすべて使用人が管理してくれる。食事も出てくるし、着ていく服もメイドが用意してくれる。家族がすぐそばにいないだけで、魔封石士になる前のフロース家での生活に戻ったような気さえした。
「ティアナに渡す物がある」
リーンとの挨拶も終わり、自分に与えられた真新しい机に荷物を広げていると、エリクスが布を抱えてきた。
「今日から7賢者の候補生として働くお祝いだ」
「え?」
渡された布を広げてみると、白い布地に金糸で草花が刺繍された綺麗なローブが現れた。
「わぁ」
「これは7賢者からだ。魔封石士としての正装がないから、新しく発注してみたそうだ」
城の中にも魔封石士は数人いる。彼らは魔術師と同じ職場で働いていて、魔術師と同じローブを身に着けていた。そのため周りからは魔術師なのか魔封石士なのか見分けがつかない状態だ。
ティアナが魔封石士の7賢者候補生となったことで、魔術師と魔封石士の区別をはっきりさせることが提案された。
基本的に魔術師と同じローブではあるが、暗い色のローブを身に着ける魔術師に対して、魔封石士は白を基調とした明るめの色にすることとなった。そのため正装は白地に金糸で新しく作られた。
「他にも数枚、普段使うための物も用意してある」
そう言ってエリクスが運んできたローブは薄い水色や黄色、緑色といった目にも優しい色合いだ。
「ティアナが女性だから、刺繍は必ず入れろとエミリアからの注文だ」
花や鳥、蝶などの刺繍がさり気なく施されている。エリクスが身に着けているローブにはそういった刺繍がなかったので、不思議に思って見比べていると説明してくれた。さり気ないティアナへの配慮が嬉しい。
「後でお礼を言わないと」
リーンもすぐに出かけてしまったので、ローブを渡すのはエリクスの役目になっていたようだ。
「ありがとう。大切に使わせてもらうわ」
ローブを抱きしめて礼を言うと、改めて魔封石士としてここで働いていくんだという実感がわいてくるのだった。




